第十一話 ――探して、見つけて――
ローランドは、あの夜から何度もリンクを探した。
街角。
市場。
ギルド前。
酒場の通り。
だが──一度も会えない。
本当に、驚くほど会えない。
なのに。
「ローランドさ〜ん♡」
女たちに腕を絡まれて歩いている時だけは、
やたらとリンクに遭遇する。
「お、リン──」
手を振ると、リンクはわずかに目を瞬かせ、
すぐに顔をそむけて去っていく。
(……避けてんのか?)
胸の奥がざわつく。
理由は分からない。
ただ、落ち着かない。
ローランドはダンジョンにも足を運んだ。
マキマキシ──5階層。
暇があればぶらついてる階層だ。
「……特に変わったところはねぇな」
魔物が飛びかかってきた瞬間、
ローランドの剣が閃いた。
ズバッ
鋭い音が響き、魔石ごと切り裂かれた。
(……らしくねぇ……)
いつもなら魔石は綺麗に回収する。
でも最近は、苛立ちのままに斬り捨てていた。
理由は──考えたくなかった。
ダンジョンを出た帰り道、
遠くに見慣れた後ろ姿が見えた。
(リン!)
駆け寄ろうとした瞬間、
横から冒険者が飛び出してくる。
「ローランド! 勝負しろ!」
「……なんで今なんだよ! 空気読めよ」
「逃げんのか! コラァ!!」
耳障りな声が、ローランドの神経をざらつかせた。
舌打ちし、拳を握る。
数秒後、冒険者は地面に沈んでいた。
「……クソッ」
顔を上げた時には、リンクの姿はもうなかった。
そんな日が、何度も続いた。
ある日。
迷宮品を鑑定してもらおうと、ローランドはヨゼフの店へ向かった。
扉を開けた瞬間──視線がぶつかった。
「……っ」
リンクが、カウンターの奥にいた。
「リン!? なんでここに!?」
リンクはわずかに動きを鈍らせ、
すぐに帳簿へ視線を落とした。
ページをめくる手が、ほんの少し震えている。
(……は? どういうつもりだよ)
納得いかないまま、
それでも嬉しさが勝ってしまい、ローランドは思わず歩を速めた。
「なにやってんの!? 鑑定できんの!?
すげーじゃん! 俺ちゃんのも見てくれよ!」
リンクは聞こえないふりをしている。
ページをめくる音だけがやたら大きい。
「リンクさ〜ん? おーい?」
返事はない。
ローランドはリンクの目の前で、
わざと大きく手を振ってみせた。
「ほらほら〜? 見えてる〜?」
リンクの肩がピクッと動く。
だが視線は上がらない。
(……なんで無視すんだよ)
ローランドが身を乗り出したその時──
「うるせぇぞ!! 昼寝の邪魔すんな!!」
奥からヨゼフが寝ぼけながら飛び出してきた。
「リンクはいねぇのか!? どこ行った!」
リンクは帳簿に視線を落としたまま、
ぴくりとも動かない。
ローランドはリンクを指さした。
「いるんだけどさぁ、なんか俺ちゃん無視されてんの」
ヨゼフは眉をひそめ、
リンクを見てからローランドを見た。
「なんだ……ローランドか。適当に値段つけてやるよ」
その声音は、どこか投げやりだった。
「はぁ!? 俺ちゃんは上お得意様だぞ!?
ジジィなんかに見てもらいたかねぇよ。
リンに見てもらうし」
「リン? リンクのことか? お前ら知り合いか?」
「知り合いも何も、同じパーティーなんだぜ」
バンッ!!
帳簿が閉じられた。
「僕は受けた覚えないぞ!!」
リンクの声は、思った以上に強く響いた。
言った本人が一番驚いたようで、
気まずそうに視線をそらし、
耳まで赤くして口を結んでいる。
ローランドは目を丸くし──
すぐに嬉しそうに笑った。
「しゃべれんじゃん!!」
リンクの肩がビクッと跳ねる。
「ここに住んでんのか? ジジイがうつるぞ」
「うるさいわい! 誰がジジイだ!
こっちだって出てって欲しいんだよ!」
その言葉に、ローランドの口元がゆっくりと吊り上がった。
悪戯を思いついた子どものような笑みだった。
わざとらしく、ゆっくりと身をかがめ、
リンクの耳元に落ちるような声で囁く。
「だったら早くうちに来いよ」
それを聞いたヨゼフは、深いため息をつき、
面倒くさそうに言った。
「そう言うことならさっさと出てけ。
……リンク。カラスの家でも、ここよりはマシだろ」
その言い方は、どこか突き放すようで──
それでいて、ほんの少しだけ優しかった。
「よし! リンクはもらってくぜ!」
「好きにしろ」
「ちょ、ちょっと待ってよ!!」
リンクの抗議は、
ローランドの腕に引っ張られてかき消された。
こうして──
リンクは鑑定屋を追い出され、
渋々ローランドの家へ向かうことになった。




