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ハニーオレンジとアメジスト ――運命が動き出す街で  作者: じゅんき


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第十二話 ――はじまりの気配――

ヨゼフに外へ放り出された荷物は、

片手で持てるほどのわずかな量だった。


扉の向こうから、

「週に二回は店に立てよ!」

と怒鳴り声が飛んでくる。


(……勝手だな)


外はまだ夕方前。

酒場はどこも準備中で、腹を満たす場所も開いていない。


「仕方ねぇな。リン、屋台でなんか買ってこうぜ」


ローランドが肩をすくめる。


リンクも反論する気力はなく、

二人で屋台を回りながら、

串焼きやパン、スープを買い込んだ。


袋が温かい。

その温度が、少しだけ心を落ち着かせた。


「よし、帰るか。俺んち」


ローランドは当然のように言い、

リンクは当然のようにため息をついた。



家に着くと、ローランドは鍵を開けながら

リンクの顔色をうかがった。


(……なんか機嫌わりぃな。 気のせいか?)


「さ、リン。入って!」


満面の笑みで迎えられたリンクは、

わずかに眉を寄せた。


「もしかして……やっぱ“リン”って呼ばれるの、嫌?」


「……別に」


「だったら俺のことも好きに呼んでくれよ。

ローランとか、ローとか。

あ、カラスは無しな」


「呼ばないよ」


「えぇ~……」


そんなやり取りをしながら、

二人はソファーに腰を下ろした。


「リ~ン、何でもいいから俺ちゃんの名前呼んで」


「……ロウ」


「え? ロー?」


「違うよ。ロウ」


ローランドの動きが止まった。


その響きは、

かつて“昔なじみ”の男が呼んでいたものと同じだった。


胸の奥が、懐かしさにふっと揺れた。


リンクが小さく唇を尖らせ、覗き込んでくる。


「聞いてるのかよ……」


ローランドはハッと我に返り、

ニッと歯を見せて笑った。

嬉しさが隠しきれず、表情がゆるむ。


リンクはその満足げな笑顔を視界の端でとらえ、

小さく息を吐いて袋を開いた。

中身を確認しながら、淡々とテーブルに並べていく。


その口元は──

ほんの少しだけ、ほころんでいた。


「そうだ、この部屋、ちょっと寒いか?」


ローランドは暖炉に火を入れ、

ついでにコップを持って戻ってきた。


だが──


リンクは暖炉から微妙に距離を取るように座っていた。


(……ん?)


気になりつつも、コップをそっと渡した。


リンクはコップに手をかざし、

しれっと氷を作り出す。

そこにジュースを注いだ。


「……え? 酒じゃねぇの?」


ローランドの顔が固まる。


「も、もしかしてリンって未成年か?」


「違うよ! もうすぐ十九だし」


「だよな? ……じゃあ、同棲記念に乾杯!」


ローランドはワインをボトルのままあおった。


「同棲ってなんだよ! 同居だろ!」


「あはは、どっちでもいいじゃん」


ローランドはボトルを置き、満足そうに息をついている。

リンクは視線をそらし、ジュースをひと口飲んだ。


串焼きの香ばしい匂いが部屋に広がり、

パンの温かさがほんのりと指先に残る。


二人はしばらく無言で食べた。


気まずい沈黙ではない。

かといって、親しい沈黙でもない。


ただ──

同じ空間で、同じものを食べている。


その事実だけが、

じわりと距離を縮めていく。


ローランドは視線だけをリンクへ向けた。


(……なんか、前からこうしてた気がするな……)


リンクはリンクで、

ローランドの視線に気づいているのかいないのか、

黙って串焼きをかじっていた。




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