第十三話 ――炎の記憶――
食べ終わったタイミングで、
ローランドが口を開く。
「ところでさ、リンはこの街に来る前どこで活動してたんだ?」
「……グラン=リュミエル」
その名を聞いて、ローランドは目を輝かせた。
「都会じゃん! そこでパーティー組んでたのか?」
リンクが睨んでくる。
「だってよ、……相棒のこともっと知りたいって思うじゃん?」
「……」
「じゃあ俺ちゃんから話そうか?
何が聞きたい? 今まで堕とした女の数とか?」
リンクの目がさらに鋭くなる。
「いや、冗談だってば! マジで冗談だから!」
ローランドは必死に手を振った。
その様子に、リンクは小さく息を漏らす。
呆れたように目をそらし──ぽつりとつぶやいた。
「……向こうではエターナルの一員だった」
エターナル──有名な高ランクパーティーだ。
リンクは串を皿に置きながら、
淡々と続けた。
「弓使いってだけで、よく馬鹿にされた」
視線を落とすリンク。
ローランドは黙って聞いた。
「でも……かばってくれたのが、そいつらで。
快くパーティーに迎えてくれた。
……特にエルフには、魔法のことでいろいろ教わった」
それだけ。
けれど、リンクの短い言葉の裏には
もっと多くの出来事が詰まっているのがわかった。
リンクが語らない部分を、
ローランドは自然と想像していた。
「なあ、そのエルフってさ、女だろ。リンの彼女か?」
わざと軽い調子で言う。
「違うよ。仲間だ」
リンクは静かに答えた。
「へぇ~そっか。……だったらよ、今度紹介してくれよ!
エルフと言えば、……むふふふふ♡」
「……ロウには、合わないんじゃないかな。
あいつがどう言うかは……わかんないけど……」
リンクは目をそらしながら言った。
どこか歯切れが悪い。
ローランドは言葉を失ったように固まった。
(……はぁ。顔のいい男はこれだから)
リンクは小さく肩を落とし、ぼそりと言った。
「……互いに、向き不向きってあるだろ」
「だ、だって……」
ローランドは顔を伏せ、口ごもった。
リンクが前の席から覗き込むように眉を寄せた。
「……だって?」
「だって……!
リンが普通に“ロウ”って呼んでくれたから!!」
「……そっちかよ!」
リンクが思わずツッコむ。
ローランドは「くぅ……!」と、顔を赤くしながら嬉しさを噛みしめている。
「いや~、なんかさ……胸がくすぐったくなるっていうか……」
「知らないし……」
リンクは顔をそむけたが、耳がほんのり赤い。
ローランドはニヤニヤしながら身を乗り出す。
「じゃあさ、そのエルフちゃん、リンの片思いか?
俺ちゃんに取られるとでも思っ──」
パンッ!!
暖炉の薪が大きく爆ぜた。
リンクの瞳が、一瞬だけ怯えた色を見せる。
ほんの一瞬。
けれど、その一瞬が妙に鋭くローランドの胸に刺さった。
と、同時に、
大きな炎に包まれる村の光景が、脳裏をよぎる。
まるでその場にいたかのように、
心臓が早鐘を打つ。
右目が、かすかに疼いた。
(……なんだ……今の……)
ローランドは思わず息を呑んだ。
その音に気づいたのか、
リンクが顔を上げる。
視線が交差した。
リンクはローランドの青ざめた顔に気づき、
気まずそうに視線をそらした。
「……ごめん。ちょっと、……大きな炎が苦手なんだ」
理由は語らない。
語りたくないのだとわかった。
ローランドは深く追及しなかった。
気を取り直し、
無理に明るく話題を変える。
どこの酒場が安いとか、
リンクの料理の話とか、
ローランドの武勇伝とか。
なんだかんだ話しているうちに、
リンクのまぶたがゆっくりと重くなっていった。
「眠いなら、使ってない部屋あるから」
「……うん」
今となっては、
もう嫌がるそぶりもない。
翌朝。
いい匂いに、ふと目が覚めた。
リンクはソファーで朝食を食べていた。
どうやら昨日の余り物で何か作ったらしい。
目が合っても、もくもくと食べ続ける。
「俺ちゃんのは?」
「……自分で作ったら?」
「それはないよ、リンちゃ~ん」
ローランドの情けない声が、
朝の部屋に響いた。




