第十四話 ――ブリンクノワール――
ギルドの扉を押し開けた瞬間、
ざわめく空気がふっと静まった。
受付嬢のアリサが顔を上げる。
「リンクくん、ローランドさん。今日は……?」
「パーティー申請に来たんだよ~ん」
ローランドがひらひらと手を振る。
リンクはその横で、むすっとした顔のまま言い添えた。
「……この街にいる間だけだからな」
「はいはい、わかってますよ」
ローランドは軽く笑いながら、カウンターに肘をついた。
アリサは書類を取り出しながら尋ねる。
「では、パーティー名はどうされますか?」
「…………」
「…………」
二人とも固まった。
リンクは慌ててローランドの袖を引っ張り、小声で囁く。
「……どうするんだよ。考えてなかったのか?」
「知るかっつーの! ……俺ちゃん、パーティー組んだことねぇし……」
ぶつぶつ言いながらも、ローランドは腕を組み、
珍しく真剣に考え込んだ。
数秒。
いや、十数秒。
そして──
「……ブリンクノワール」
ぽつりと落ちたその言葉に、リンクは瞬きをした。
「ブリンク……?」
「つかの間って意味だよ」
その瞬間、リンクの胸がわずかに痛んだ。
(……“エターナル”とは真逆だ)
ここにいる間だけ──
そう言ったのは自分だ。
なのに、胸の奥がひりつく。
自分でも理由が分からない痛みが、
喉の奥にひっかかった。
ローランドはリンクの表情の陰りに気づいたのか、
少しだけ笑い、声を落とした。
「ノワールは黒。……なんのことだかわかるか?」
「黒……?」
リンクが戸惑い気味に返した、その声に。
ローランドはゆっくりと、自分の胸を指差した。
妙に静かで、しっとりとした声が落ちる。
「束の間の──お前だけの黒って意味だよ」
「……っ!」
一瞬、息が詰まった。
ローランドの優しい眼差しが、リンクの耳を赤く染める。
胸の痛みは、
さっきとは違う熱に変わっていった。
そのとき──
「素敵なパーティー名ですね! はい、登録完了しました!」
アリサの明るい声に、リンクはびくっと肩を揺らし、我に返った。
ローランドから視線をそらし、
書類に刻まれたパーティー名を黙って見つめる。
(……なんなんだよ、その意味……)
胸の奥がざわつく。
痛いような、くすぐったいような、
名前のつかない感情が静かに広がっていった。
何とか無事に申請を終え、
掲示板の前に立ったリンクは、眉をひそめた。
「……3階層の採取依頼、ないな」
横ではローランドが、
「リン~連れてけよ~」
と袖を引っ張っている。
「行かないって言っただろ……!」
「せっかくパーティー組んだのに~」
リンクはため息をつき、
ローランドを引きずるようにして受付へ戻った。
「アリサさん、3階層の依頼……今日は出てないんですか?」
「ああ、それでしたら──」
アリサは連絡板を指さした。
《3階層注意
ラミアを見たら逃げること
4階層への通り抜けは可》
「ナーガの上位種、ラミアの目撃情報があって……
安全が確認されるまでソロで出来る採取依頼は出てないんです」
アリサは少し声を潜めた。
「実は、ラミア退治と魔石回収の依頼が出ていたんです。
何組かのパーティーが受けたので、掲示板からは剥がしてあるんですよ。
……受けてみますか?」
「受けない!!」
リンクが即答する。
アリサは苦笑しながら続けた。
「依頼を受けずにラミアを討伐しても、報酬は出ませんよ?
それに……ローランドさんと組んだんなら、簡単に倒せますって」
リンクの胸が、わずかに揺れる。
(……タダで家に住まわせてもらうつもりはないし……
報酬が出るなら、受けても……)
その横でローランドが、
嬉しそうにリンクの腕に絡みついてきた。
「ほら~! パーティーとして受けようぜ~リン~!」
「離れろ!!」
それを見たアリサは微笑みながら言った。
「受ける受けないは自由ですが……
ソロだと危険ですので、万が一のためにも
お二人で行動した方が安全ですよ?」
「だろ? いいこと言うね! アリサちゃん!」
ローランドは感謝の投げキッスを送っている。
(……なんでこうなるんだよ)
リンクはむくれたまま、
ローランドを引きずるようにしてダンジョンへ向かった。




