第七話 ――近くて、遠い――
「いいじゃんよ~。なら、三食昼寝付きでどうよ?」
「……は?」
意味がわからず、ぽかんとする。
ローランドは鼻高々に胸を張った。
「俺ちゃん、こう見えて家持ってんだぜ。
住まわせてやるっつってんの。
どうせ宿屋暮らしなんだろ? ここいらの宿は高いからな~」
そう言って得意げに、ちらりとこちらを見た。
(……確かに、宿代は高いだろうし……)
むっとしながらも、
胸の奥で、あのことが引っかかっていた。
“ヨゼフの家に勝手に転がり込んでいる自分”
その事実が、ずっと刺さったままだ。
“見るだけなら”と自分に言い訳しながら、
仕方なく、その背中を追った。
(どうせボロ小屋なんだろ……)
──そう思っていたのに。
ローランドの家は、驚くほど綺麗だった。
玄関を抜け、リビングに通されると──
そこは、まるで貴族の応接間のようだった。
白く大きなソファー。
磨き上げられたガラステーブル。
余計な装飾のない壁。
光を反射するほど綺麗な床。
「……なにこれ。本当に住んでるのか?」
「俺ちゃん、あんまり帰らねぇからさ~。
でもリンが一緒に住んでくれるってんなら、帰ってあげてもいいけど?」
「なっ!?……リンって呼ぶなって言ってるだろ!」
「さっき呼んでいいって言ったじゃん」
ローランドは悪びれず笑う。
「だったら僕もあんたのことカラスって呼ぶからな!」
ムキになって言い返したものの、
頭の片隅にふと疑問が浮かんだ。
「……でもなんでカラスなんだ?」
「あ、それな。俺ちゃん、黒しか着ないから。下着も黒だけど、見る?」
ローランドはそう言いながら、ベルトに手をかけ──
今にも脱ぎそうな仕草をした。
「ちょっ……やめろよ!!」
「え~? 見たいんじゃないの~?」
ローランドはわざとらしく腰をひねり、
ちらちらとリンクの方を見ながら、
ベルトの端を指でつまんで揺らした。
「ほらほら~? 目そらしてるけど、気になってんだろ~?」
リンクの眉がぴくりと跳ねる。
「バカじゃないの!? もう帰る!」
背を向けた瞬間──
ローランドに腕を掴まれた。
「なっ……!」
振りほどくより早く、
そのままソファーに押し倒される。
背中が沈む。
顔が近い。
息が触れそうで、動けない。
「よく知らない男の家に上がり込むから……」
低い声。
怪しく光るハニーオレンジの瞳。
沈黙が落ちる。
視線が絡む。
リンクの心臓がどくりと鳴った、その瞬間──
ローランドがふっと笑い、
すっと身を離した。
「なーんて冗談」
「……っ!!」
胸の奥が一気に熱くなる。
「いい加減にしろよ!!
どうせこの家も連れ込み宿みたいなもんなんだろ!
誰が一緒に住むか! パーティーなんか組むわけないだろ!!
バーカ、バーカ、バ───カ!!!!」
怒鳴りながら玄関へ向かう。
バタンッ!!
ローランドは、閉じられた扉をただ見つめていた。
追いかけることもできず、声も出ない。
ダンジョンでの自分の気持ちの正体を知りたかった。
単純にパーティーでも組めば──
一緒に住めば、触れあえば、
……わかるんじゃないかと思った。
静まり返った家の中で、ぽつりと呟く。
「……何やってんだ、俺」
広すぎる家に、ローランドひとり。
胸の奥が、じんわりと痛んだ。




