第六話 ――強引な誘い――
ギルドの扉を開けた瞬間、ローランドの声が弾けた。
「ねぇアリサちゃ~ん!聞いてよ~!」
受付嬢のアリサが顔を上げるより早く、
ローランドはカウンターに身を乗り出した。
「リンクがさぁ! ダンジョンで襲われたんよ~!」
「えっ!? 本当ですか!?」
アリサは慌ててリンクの顔を覗き込み、
口元に残る赤い汚れに眉をひそめた。
「うん、マジマジ、マジのマジ!
俺ちゃんがさ、ちょいとお灸を据えてあげたんだけど……
心配なんだよね~」
「おい! なに勝手にベラベラしゃべってんだよ!」
リンクはローランドの服を掴んで必死に引っ張る。
だがローランドはまったく気にせず、
アリサに向かって喋り続けた。
「だからさ、俺ちゃん、リンクとパーティー組むことにしたわ。
申請ヨロシク!」
「はぁ!? 勝手に決めるな!!」
その瞬間、ギルドにどよめきが走った。
ローランドは、誰とも組まないことで有名な冒険者だった。
どれだけ強いパーティーから誘われても、
どれだけ美人の冒険者たちに囲まれても、
いつも面白おかしく断ってきた。
そんな男が──
自分からパーティーを組むと言い出したのだ。
「カラスがパーティーだぁ? ふざけんなよ!
俺の誘い断っといて、そんなガキと組むってのかよ!」
強面の男が詰め寄る。
だがローランドは、アリサしか見ていなかった。
「ねぇアリサちゃん、紙ちょうだい紙~。申請書~」
「おい、無視すんなよ!」
肩を掴まれた瞬間、
ローランドが腕を軽く振ると、男の身体が宙に浮いた。
ドンッ!!
ギルドが静まり返る。
「俺ちゃんに触っていいのは、おねーちゃんとリンクだけ~」
ウインクしながら、意味ありげな視線をリンクに送る。
「なっ……!?」
リンクは思わず後ずさった。
周囲の女性たちが、一斉に黄色い声を上げる。
「きゃー!ローランド様~!」
「リンクくん羨ましい~!」
アリサも頬を赤らめながら、慌てて表情を引き締めた。
「パ、パーティー申請は……双方の同意が必要です……!」
「えぇ~そうなん? じゃあ今日は紙だけもらうわ。
鉱石も取ってきたし、リンクの清算よろしく~」
依頼達成の手続きを終えると、
ローランドは当然のようにリンクの肩を抱いた。
「ほら、帰ろ~リンク~」
「なにすんだよ! 離れろ!!」
リンクはローランドの腕を振りほどきながら、早足で外へ出た。
その途端、ローランドがすぐさま口を開く。
「なぁ、パーティー組もうぜ~。絶対楽しいって」
「嫌だ! だいたいあんた誰なんだよ!」
「あ、俺ちゃんローランド。で、君がリンク。
これで問題ないだろ?」
「はぁ?」
「なぁなぁ、仲良くなったしるしにさぁ、リンって呼んでいい?」
「いいわけないだろ!! 仲良くなったつもりもない!」
胸の奥がちくりと痛む。
“リン”と呼ばれるのは、本当は嫌いじゃなかった。
昔、アイラが笑いながらそう呼んでくれたから。
あの声だけは、特別だった。
それを──
こんな男に軽く呼ばれるなんて、絶対に嫌だ。
だがローランドは気づかない。
「えぇ~いいじゃん。俺ちゃんだけの呼び方~。リン、リン、リン~」
「やめろって言ってんだろ!!」
「じゃあ、リンリン?」
「喧嘩売ってるのか?……」
ローランドは懲りる気配がまったくなかった。
断られるたびに、楽しそうに呼び方を変えてくる。
「リンたん?」
「リン坊?」
「リン助?」
「リン丸?」
「リンぴょん?」
「リンりんりんりん──」
「あ─!うるさい!! ……もう好きにしろ!!」
「よっしゃ!」
ローランドは軽くガッツポーズを決め、
嬉しそうに口角を上げた。
「じゃあ、パーティー組もうな!」
「それとこれとは話が別だよ!」
リンクは肩を怒らせ、全身で拒絶を示した。
ローランドはそれを見て、ますます楽しそうに笑う。
リンクはその笑いに、思わず身構えた。




