第四十九話 ――ハニーオレンジとアメジスト――
「……いつまでくっついてんだよ」
照れ隠しの声。
ぐいぐい押して離れようとする。
けれどローランドは、まったく離れない。
「ちょ、離れろって……!」
押し返そうとした瞬間、
逆にぐっと腕を引き寄せられた。
両肩を掴まれ、ぐいと顔を覗き込まれる。
肩から離れた指先が、涙の跡をそっとなぞった。
その仕草に、その瞳に、
“愛おしい”があふれている。
「……なんだよ。子ども扱いすんなよ」
手を払いのけ、バツが悪そうに視線をそらす。
ローランドが、ふっと穏やかに微笑んだ。
ハニーオレンジとアメジスト
その瞳に、
胸がざわつく。
……なんでだよ。
そっと手が伸びてくる。
触れられるとわかっているのに、
なぜか避けられない。
指先が前髪に触れた瞬間、
心臓がひとつ跳ねた。
やさしく、ゆっくりとかき上げられる。
その動きがあまりにも自然で、
あまりにも綺麗で――
息をするのを忘れた。
そして。
額に、そっと口づけされた。
触れたのはほんの一瞬。
けれど、世界が止まったみたいだった。
何が起きたのかわからない。
ただ、
温度だけが残っている。
避けることすら思いつかなかった。
身体が固まる。
まばたきもできない。
ゆっくりと、目が合った。
ハニーオレンジとアメジスト
触れた場所が、じんわり熱い。
胸の奥が、きゅっと鳴った。
……おかしい。息がうまくできない。
「なっ……なっ……な、何すんだよ!!」
くるりと後ろを向き、真っ赤になってしゃがみ込む。
おでこをゴシゴシこすりながら、ぶつぶつ文句を言う。
怒っているはずなのに、
後ろで一言も喋らないローランドが気になった。
そろりと振り返る。
同じようにしゃがみ込み、
小刻みに震えているローランドがいた。
「ロウ……?」
覗き込むと、
真っ赤な顔で涙目になりながら、
自分を抱きしめていた。
「リン……か、かわいい……」
さっき落ち着いたはずの頬が、また一気に熱くなる。
「気持ち悪いんだよ!!」
思いきり蹴りを入れると、
ローランドは蹴られたまま、なぜか嬉しそうに笑った。
けれど、その笑みがふっと消える。
ローランドは視線を落とし、かすかに震える声で言った。
「リン。……すまなかった」
少し間をおいて、
「なにが?!」
ふてくされて返した。
……怒ってるはずなのに、声がふるえる。
「なにって……」
ローランドは口ごもる。
「ロウには謝られること多すぎて、どのことかわかんないよ!」
腕を組んで、ぷいと横を向いた。
その言葉で、ローランドの目に涙が滲む。
「泣き落としとかしても無駄だからな!」
ロウの右目を指差し、わざとらしくそっぽを向いてみせる。
ローランドが、ふっと息をこぼした。
「……わかった、わかったよ」
そして、ようやく心から笑った。
「リン……ありがとな」




