第五十話 ――その瞳に――
レイヴァンとキャロルを見つけた時、もう二人とも死んでると思った。
折り重なるようにして、ピクリとも動かなかったから。
立ちつくすロウが「いいヤツだったのにな……」と言った時、
レイヴァンの指が動いたのには本気で驚いた。
「……勝手に殺すんじゃねぇよ」
呻くようにそう言って、キャロルの胸を揉んでたっけ。
ロウといい、レイヴァンといい……こいつらのいやらしさは異常だ。
あの時はほんとにゾッとした。
キャロルも、あの状況でよく無事だったと思う。
トリグレアが息絶えた瞬間、意識を失ったらしい。
少しでも遅ければ相打ちだったそうだ。
残念ながら、攫われた子供たちはみな命を落としていた。
攫ったキャロル自身に記憶がないから、
憲兵たちはその真相を知ることもなく、
僕たちは“子供たちを救おうと立ち上がった勇気ある冒険者”という扱いになった。
キャロルも、トリグレアに翻弄された一人だ。
子供たちを手にかけたのがキャロルなのかどうかは見ていない。
だから僕も憲兵には言わなかった。
レイヴァンに抱きかかえられて、
キャロルは終始うつむいて暗い瞳をしていた。
きっと心のどこかに罪の意識があるんだと思う。
トリグレアの死体は運び出され、憲兵たちがあちらこちらを確認していた。
あの足はもうない。
二度と復活することはないだろう。
その後、僕たちは憲兵の詰め所に連れて行かれ、
今回の出来事について色々と聞かれた。
トリグレアは相当なワルだったらしく、
姿を消してからもゆくえを追っていたみたいだ。
ようやく片が付いたと安堵していた。
数日経った今、街はもうこのことを忘れたかのように
いつもの活気を取り戻している。
まだまだ21階層攻略で賑わっていた。
レイヴァンとキャロルは、しばらくロウの家で世話になるらしい。
男二人は相変わらずだけど、キャロルはものすごく無口だった。
人見知りとかじゃなくて、もの静かなお姉さんって感じだ。
あの時、マキマキシで見た女とは別人みたいだった。
なんだかんだ言って、この三人は仲良くやっている。
そして僕は――
もともとこの街には、復讐のために来たんだ。
あいつが死んだ今、ここに留まる理由はもう……ない。
グラン=リュミエルに戻るだけだ。
「リーン――、行かないでくれよ~頼むからさ~」
ローランドが泣きながら足にしがみついてくる。
あの日以来、ずっと僕にベッタリだ。
出会った頃って、こんな性格だったっけ?
あまりにもロウが騒ぐから、レイヴァンがリビングにやってきた。
眠そうな目で、うっとおしそうに頭を掻いている。
ほんと、朝からだるそうだ。
「おいおい、朝っぱらからイチャつくなよ」
「イチャついてないってば!」
僕は男だ。
どうもその辺の感覚がこいつらはずれてる。
それがホムンクルスなんだろうか。
ロウの種族の“もや”は、そういうことだった。
「リン~、お願い~」
「だから泣き落としても無駄だって言ったよな?」
「だってー、それとこれとは話が違うじゃ~ん。
俺ちゃん、リンがいないと死んじゃうの!!」
「じゃあ死ねば?」
「レイ、聞いた? リンのいじわるぅ~!!」
「うるさいなぁ、僕もう行くからな!」
「待ってくれよ~!!」
出て行こうとした僕の腕を、ロウが無理やり引っ張った。
荷物が派手にぶちまけられ、勢い余ってソファーに倒れ込む。
ローランドを押し倒すような形で重なり合った。
顔が近い。
アメジストの瞳に、目を奪われる。
でも今は――
ロウの左目も好きだ。
ハニーオレンジ
その色は最初から――
僕を見つけてくれた。
僕を助けてくれた。
僕と一緒にいてくれた。
吸い込まれるように見つめてしまう。
それに気付いたロウが、急に悪い顔をした。
大人っぽく目を細めて、いたずらみたいに囁く。
「キスしてほしいのか?」
「……っ、ふざけんな!」
逃げようにも、すでに両手を掴まれている。
力は強いくせに、どこか優しい握り方だった。
そのまま見上げる形になって、息が止まる。
「もう少し、…………一緒にいてくれよ」
さっきまでのふざけていた声じゃない。
低くて、落ち着いていて、――まっすぐだった。
その瞳で言われたら、勝てるわけがない。
ダメだ。
あの日から、この瞳に弱い僕を自覚している。
「……一週間だけだからな」
~FIN~
ここまで読んでくださって、ありがとうございました。
リンクとローランドの物語はこれでひと区切りです。
少しでも楽しんでいただけていたら嬉しいです。




