第四十七話 ――決着――
「ねぇ、025。このまま踏みつぶしてもいいのよ。もう終わりにしましょ?」
トリグレアは背を向けたまま、半身だけをねじってローランドを見た。
ローランドは声を出そうとしたが、喉が震えるだけだった。
胸の奥が、氷のように冷たく沈んでいく。
剣を落としかけたそのとき──
リンクの手が、まだ動いていた。
……何をしようとしている?
背筋が強張る。
だが、動けるなら──時間を稼がなければ。
ローランドはトリグレアの注意を逸らすために、声を絞り出した。
「……俺の身体を手に入れて……どうするつもりだ……
そのままで……十分じゃないのか……」
「この身体は頭脳と速さに特化したものなのよ。
でも、もう要らないわ。お前が完成したんだもの」
トリグレアは喉の奥で、くぐもった笑いを漏らした。
「美しい顔立ちと、逃げなくていい力。
全部手に入るんだから」
「……罪の意識は……無いのか」
少しの沈黙の後、トリグレアは首を傾け、ローランドを値踏みするように見た。
「なら聞くけど──」
口元に浮かんだ笑みが、ゆっくりと深まる。
「お前はその寄せ集めの身体で生きてることに、
罪の意識は無いの?」
「…………」
胸の奥を、鋭い何かで刺されたようだった。
言葉が出ない。
トリグレアは、にやりと笑ったまま言葉を続けた。
「そうよね。あったらとっくに自殺でもしてるでしょうね」
その笑みが、さらにゆっくりと歪んでいく。
嘲るような笑い声が、喉の奥から漏れた。
やがて、堰を切ったように狂気じみた笑いが響き渡る。
高らかに笑いながら、ふと足元に視線を落とした。
「あら?」
リンクの手に、力がこもっている。
射貫くような視線とぶつかった。
「……黙……れ……!!」
声というより、喉の奥から絞り出した音だった。
渾身の魔力で、闇の矢を練り上げる。
今、それが──
トリグレアの踝にねじ込まれた。
一瞬、時が止まった。
「ギャアアアアアアアアアアア!!!!!」
トリグレアは絶叫し、地面を爪で掻きむしりながらのたうち回った。
皮膚が剥がれても構わず、地面を転げ回る。
ローランドの瞳が細くなる。
次の瞬間──
刃が閃き、首が落ちた。
転がった頭部は、叫びの形を残したまま動かない。
だが、身体だけが痙攣し、地面を叩き続けている。
リンクは弓を拾い上げた。
震える手で、矢をつがえる。
撃つ。
撃つ。
撃つ。
仕留め切らなければ──
また奪われる。
矢が急所に突き刺さるたび、肉が砕け、骨が砕け、光が散った。
やがて、トリグレアの足は塵となって消えた。




