第四十六話 ――決意の火――
「なんて強情な男なの!!」
ローランドの剣をひらりとかわしながらも、
トリグレアの顔には苛立ちが滲んでいた。
剣が空を裂く音だけが、何度も何度も続いた。
ローランドの呼吸は荒く、肩が大きく上下している。
足取りも重い。
限界が近いのが、誰の目にも明らかだった。
「そうか……あのガキが原因ね」
トリグレアの視線が、膝をついたまま動けずにいるリンクへ突き刺さった。
血走った目に、むき出しの憎悪が宿る。
その瞬間、ローランドが前に立ちはだかった。
「行かせるか!!」
「嫌ぁね。気に入らないわ」
トリグレアの表情が一瞬だけ無表情になった。
その無機質さが、逆に不気味だった。
次の瞬間──
今までとは比べものにならない速さでリンクへ迫り、
鶏のような足が、容赦なく振り上げられた。
「──ッ!」
視界が白く弾けるほどの衝撃が、リンクの腹を貫いた。
内臓が揺れ、息が漏れる。
地面が遠ざかったのか近づいたのか、もうわからない。
トリグレアの口元がゆっくりと吊り上がる。
苦鳴を聞いて、嬉しそうに目を細めた。
「リン!!」
ローランドの悲痛な声が、遠くで響いた。
地面にうずくまるリンクの視界に映ったのは──
ローランドの顔だった。
その表情が、アイラと重なった。
視界が揺れる。
その揺れの中に──アイラの笑顔が浮かんだ。
……アイラ。
呼ぶように、名前だけが浮かんだ。
ああ、そうだ。
アイラに……誓ったんだっけ。
トリグレアを……倒すって。
こんなところで……やられるわけには……。
トリグレアは、汚れでも払うような仕草でリンクの身体をつま先で転がした。
仰向けになった瞬間、見下すように胸へ足を押しつける。
ギリギリと、骨が軋む音がした。
「ぐ……っ……!」
喉の奥から、押し殺した声が漏れた。
リンクは震える手で、トリグレアの足首を掴んだ。
必死に爪を立て、拳を叩きつけ、押し返そうとする。
だが、びくともしない。
血が口から溢れた。
──まただ。
また、何もできないまま終わるのか。
恨めしそうにトリグレアを見上げる。
トリグレアは、勝ち誇ったように口角を吊り上げていた。
──コイツの頭を貫いてやるはずだったのに。
足の爪が胸に食い込み、息が苦しい。
視界がかすむ。
そのとき──
揺れる鶏足の踝に、淡い光の文字が浮かんだ。
──急所、弱点:闇。
”鑑定”だ。
胸の奥に、かすかな火が灯った。
……まだだ。
まだ、終われない。
掴んでいた手に、再び力が入る。
絶対に。
絶対に、こいつを倒す。
胸の奥の灯が、大きく燃え上がった瞬間だった。




