表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ハニーオレンジとアメジスト ――運命が動き出す街で  作者: じゅんき


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
41/50

第四十一話 ―― “マザー” ――

息を切らせながら5階層に着いたローランドとレイヴァンは、

あの場所の前で足を止めた。


扉が、わずかに開いている。


「……まさか」


二人は顔を見合わせ、無言のまま中へ飛び込んだ。


あの“トリグレアを閉じ込めた箱”のある部屋に着く。

鍵はこじ開けられ、中は……空っぽだった。

そこに“いたはずのもの”の気配すら残っていない。


「そんな……ばかな……!」


焦りが胸を締めつける。


二人は迷うことなく、トリグレアがよく使っていた広い部屋へと走った。


そこで目にしたのは──


奇声を上げながら、部屋中をかき回すように探し続けるキャロルの姿だった。

あたりに物を投げつけ、木箱をひっくり返しながら、

「どこにいるの〜」と、子供のように嬉しそうに叫んでいる。

その笑顔は、どこか壊れていた。


「キャロル! おい!」

ローランドの声は、まるで別の世界にいるかのように届いていない。


「……582!」

レイヴァンは、喉を絞り出すように叫んだ。

かつての番号で呼ぶ声には、痛みと迷いが滲んでいた。


ぴたりとキャロルの動きが止まる。

ぎこちなく、くるりとこちらへ向いた。

動きは、まるで機械仕掛けの人形のようだった。


「ああ! 025! 来てくれたのね!」


キャロルの視線は、レイヴァンではなくローランドへ向けられていた。

まるで、他の存在など最初からいないかのように。


ローランドは言葉を失った。

(……なんで、……俺なんだ?……)

背筋がぞくりと冷えた。


「……かなりイッちまってるな」

レイヴァンは舌打ちした。

「てか、なんで俺は無視なんだよ!!」


露骨に不満げな顔で、キャロルへ飛びかかった。

がっしりと抱きつき、動きを封じる。


「キャロル! 正気に戻れ!」


その声に、キャロルの表情が一瞬だけ揺れた。


「レイ……ヴァン……?」


しかし、次の瞬間、

キャロルは信じられない力でレイヴァンを振りほどいた。


反動で後ろへ弾かれ、

キャロルの背中が“例の入れ物”にぶつかる。


ずるり、とその場に座り込む。

力が抜け落ちたように、微動だにしない。


ローランドとレイヴァンは、短く視線を交わした。


その時──


入れ物の奥底から、空気が震えるような低い唸りが響いた。


まるで、長い眠りから何かが“息を吸い込む”ような音。


空気がじわりと重くなる。

冷たく、湿った気配が足元から這い上がってくる。


入れ物の縁をつかむように、生っ白くふやけた手がゆっくりと現れた。

指先から、どろりと血が滴り落ちる。


続いて、もう片方の手が縁を掴む。

ぎし……と、入れ物が軋む音がした。




そのまま、何かが這い上がってくる。


暗がりの奥から、“それ”の顔がゆっくりと持ち上がった。


血に濡れた髪の隙間から、ギラついた瞳がこちらを射抜いた。


そして──


トリグレアが姿を現した。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ