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ハニーオレンジとアメジスト ――運命が動き出す街で  作者: じゅんき


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40/50

第四十話 ――壊れた笑い――

魔物を避けながら、不自然な音のする方へと急いだ。

音が、だんだん大きくなる。


(……あそこだ)


ゆっくりと、壁が動いている。

(なんだ……?)


誰かが出てくる気配がした。

一番近い岩陰へと身を滑り込ませ、そっと様子を窺う。


子供……?

ボロボロだ。

怯えたようにそわそわして、こっちとは反対へかけて行った。


(……まさか、攫われた子供?)


続いて、人の気配。


(あの女……キャロル!)


どういうことなんだ……

あの子を助けるべきか?

追いつけるのか?


行けば、キャロルに見つかる。

扉も閉まってしまう。


あの子のことと、自分の思いを天秤にかけた。


どうすればいい──

胸の奥がきゅっと縮んで、思考がまとまらない。


その時、キャロルが子供を抱えて戻ってきた。


(……マズい)


思わず半身を引っ込めた。


子供はぐったりしていて、動かない。

息はあるみたいだ。


キャロルが姿を消し、岩の扉がゆっくり閉まっていく。


駆け寄って、急いで手をかざした。


「……鑑定!」


視界に淡い文字が浮かぶ。


──対象:岩扉

──動力:魔力


どうやら魔力で開くみたいだ。


ありったけの魔力を注ぎ込む。


わずかに扉が反応し、人が一人通れるくらいまでで止まった。


(ちょうどいい……これなら、入れる)


中は薄暗く、もうキャロルの姿は見えない。


あたりを見回す。

入ってきた場所のすぐそばに、何かの装置みたいなものがあった。

中からなら、これで開くんだろう。


逃げ道は残しておきたい。

けれど、これ以上音が出るのが怖くて、そのままにした。

これでも支障はない。


魔力回復を飲み干し、瓶を投げ捨てる。

深く息をはいて、中へと進んだ。


中はじめじめしていて、今までの階層と変わらない。

気味の悪い虫ばかりで、魔物はいない。


「……まいったな」


気配がする方へ、物陰に身を寄せながら進む。


途中、いくつか部屋のような場所があったが、誰もいなかった。

人が通った痕跡すらない。


やがて、ひときわ広い空間に出た。

土の匂いが、やけに濃い。

嫌なほど静かで、息が詰まりそうだ。


誰もいない。

それが逆に怪しい。


向こうの壁近くに、人一人が入れそうな大きな深い入れ物があった。

何でできているのかはわからない。


近づいて、中をのぞく。


腐ったような異様な臭い。

赤黒い液体と、どろどろしたものが浮いている。


直感でわかった。


(血と……肉だ)


そして、中に“何か”がいる。

全く見えないのに、目が合ったような気がした。


息を呑み、後ろに倒れ込む。


逃げようとするが、腰が抜けて立てない。


反対側の通路から足音がした。


(ヤバい……!)


這うようにして、離れた壁沿いの木箱の裏に隠れた。


心臓が破裂しそうなくらいに暴れる。

両手で口を押さえ、息を殺す。


(今の……何だったんだ)


通路から、バケツを持ったキャロルが現れた。


中のものを、さっきの入れ物にぶちまけている。

飛沫がかかったのか、それとも前からなのか、顔が赤く染まっていた。


すると、キャロルの動きがぴたりと止まった。

ゆっくりと首を傾け、耳を澄ませている。


薄く笑いながら、視線を這わせる。

まるで、隠れている場所を知っているかのように。


「……あら。ネズミが一匹、入り込んだのね。

ふふ……いいわ。ちょうど欲しかったところだもの」


バケツを投げ捨て、壊れたような笑い声を響かせた。



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