第三十九話 ――それでも、進む――
どれくらい時間が経ったのだろう。
どれだけ歩いても、景色はほとんど変わらない。
魔物をやり過ごして進んだせいで、気づけば目印がどこかへ消えていた。
薄暗い岩壁が続くだけで、ここが地図のどのあたりなのかすらわからない。
(……マズいな。ホントにわからないや……)
印をつけたポイントは、もうかなり回ったはずだ。
それなのに、手がかりは何ひとつ見つからない。
焦りだけが、じわじわ増えていく。
どこかで水滴が落ちるような音がした。
その小さな音でさえ、胸がひどく跳ねた。
ひとりで歩く音だけが、やけに大きく響く。
その時だった。
地を這うような、ざわざわとした音の波が耳に届く。
(ポイズンアントか?……さっき避けたのに)
毒液を吐く魔物。
動きが速く、見つけたものを片っ端から食い荒らす。
ここで落としておかないと、あとが厄介だ。
覚悟を決めて、岩陰に身を潜める。
指先に魔力を込め、風の矢を連射する。
矢が放たれるたび、指先がじんと痺れた。
半分ほど数を減らしたところで、
こちらの位置がばれた。
(くそ……!)
あいつらも馬鹿じゃない。
顎を鳴らして、一斉に飛びかかってくる。
弓をつがえ続け、ひたすら撃ち落とす。
ようやく、最後の一匹が崩れ落ちた。
「……今のは危なかった」
肩でひとつ息をつく。
腕がじんと重い。
呼吸がうまく整わない。
遠くからの攻撃が通る相手で、助かった。
けれど、魔力の消費がひどい。
集団で来る魔物や、仲間を呼ぶ魔物ばかりだ。
相手にしていたら、ほんとうにきりがない。
人より魔力が多いほうなのに、
それでも、じわじわ減っていく。
鑑定にもひびいてしまう。
岩陰に腰を下ろし、魔力回復をひと飲みする。
喉がひりつき、胸の奥まで熱が落ちていく。
(……やっぱりロウを待つべきだったかな)
弱音がこぼれた。
声に出さなくても、胸の内で言っただけで苦くなる。
(ダメだ。一人で隠し部屋を見つけないと)
人とはちがう鑑定の力を隠すためじゃない。
僕が一人でやらなきゃ……意味がないんだ。
あれから十二年。
遠回りばかりしてきた。
(ごめん、アイラ……)
ふと、自分の手を見る。
震えてはいない。
けど、どこか頼りなく見えた。
……それでも、進むしかない。
もうすぐだ。
もうすぐ隠し部屋が見つかる。
絶対に見つけてみせる。
その時──
岩と岩が、微かにこすれるような音がした。




