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ハニーオレンジとアメジスト ――運命が動き出す街で  作者: じゅんき


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第三十八話 ――それぞれの胸の内――

その日の夜、ローランドが家に戻ったのは、

すっかり日付が変わってからだった。


リビングのテーブルには、

いつも置かれているはずの夕飯がない。


「……あいつ、拗ねて寝ちまったか……」


そう思い、リンクの部屋を覗くこともなく、

そのまま自室へ倒れ込んだ。



翌朝。


「おいロウ! 起きろ!」


耳元で響く怒鳴り声に、

ローランドは布団の中で肩を震わせた。


ベッドの横には、腕を組んだレイヴァンが立っている。


「……勘弁してくれよ……」


まぶたを重たそうにこすりながら、

ローランドはあくびを噛み殺しつつリビングへ向かった。


「もう……リン、なんで起こしてくんねぇんだよ……」


「あの子ならいないぞ」


「……は?」


「俺、間違えて隣の部屋に突撃したらよ。

 もぬけの殻だった」


レイヴァンは豪快に笑い飛ばす。


その瞬間、ローランドの眠気は吹き飛んだ。


「……嘘だろ……」


慌ててリンクの部屋へ駆け込む。


綺麗に畳まれた寝具。

布団に入った気配はどこにもない。


「お前こそ、愛想尽かされたんじゃないのか?」


「お前とちげぇよ!! 冗談言ってる場合か!」


ローランドは半ば叫びながら、

慌てて装備を整え始めた。


「おい、今日もキャロルを──」


レイヴァンが言いかけた言葉を、

ローランドが遮る。


「俺はリンを探す!」


その勢いに、レイヴァンは眉を跳ね上げた。


だがすぐに、優しい目でローランドを見つめる。


「……大事なんだな」


ローランドは視線をそらす。


「……ああ。そうみたいだ……」


無造作に髪をかき上げ、小さくため息を吐いた。

苦しそうに眉を寄せる。

自分でも、この気持ちの正体がわからなかった。



リンが受付に寄ったかもしれない──

その可能性を確かめるため、二人はギルドへ向かった。


ギルドのあちこちで、

昨日と同じ噂が飛び交っている。


「5階層で子供を見たって噂、マジなのかよ?」


「あれだろ? 大人に手を引かれてたってやつ」


その会話を聞いた瞬間、

ローランドは確信した。


「……リンクは、5階層に行ったんだ」


レイヴァンが眉をひそめる。


「なんでそう思う?」


ローランドは、

リンクが村の襲撃のことを調べていたこと、

あの場所を探っていたこと、

そしてトリグレアについても調べていたことを話した。


「理由なんて……わからねぇ。けど、あいつは……」


そこでレイヴァンが言葉を継ぐ。


「復讐じゃないのか?」


ローランドは息を呑む。


レイヴァンは続けた。


「あの子見てわかんねぇか?

 悪さするタマじゃねぇだろ。

 だったら理由は一つじゃねぇか」


その言葉に、

ローランドは胸を掴まれたような気持ちになった。


(……なんで、気づかなかったんだ。

 あいつ、ずっと……)


だったら──

「俺がトリグレアを倒したから安心しろ」

そう言えたのに。


「もう何も心配しなくていい」

そう言えたのに。


危険な目に遭わせることもなかったのに。


悔しさが、じわじわと怒りに変わっていく。

それは、自分自身に向けられたものだった。


レイヴァンが肩を叩く。


「しっかりしろよ。ちょっとやそっとで見つけられるようなもんじゃねぇって。

 それにあの子、頭まわんだろ? 地図見てうまくやってるさ」


ローランドは顔を歪めた。


「あいつ……地図はからっきしなんだ」


「……はあ?」


気まずい沈黙が落ちる。


だがその沈黙は、どこか温かかった。


レイヴァンが笑う。


「だったら──“お姫様”を助けに行ってやるか」


「……お姫様?」


ローランドは首を傾げる。


「そうだよ、お姫様。お前のな。

 うちの“姫様”は十分強ぇからよ。ちょっとくらい後回しでも平気だろ?

 ……まぁ、心配じゃねぇってわけじゃねぇけどな」


レイヴァンは自慢げに胸を張る。


「……ありがとな、レイ」


その姿を見て、

ローランドの胸が熱くなった。


ようやく、自分の気持ちに気がついた。


(……待ってろよ、リン)


その言葉が、自然と胸に浮かんだ。



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