第三十七話 ――わからないまま――
5階層。
薄暗く、湿った空気が肌にまとわりつく。
障害物が多く、視界は悪い。
“隠れる場所がある”というのは聞こえはいいが、
同時に“魔物が潜む場所が多い”ということでもある。
足音が吸い込まれるように小さく響く。
リンクは慎重に歩を進めながら、
地図を開いた。
怪しそうなポイントには、
あらかじめ小さな印をつけてある。
(近いところから……一つずつ)
リンクはゆっくりと歩き出した。
だが──
5階層は思っていたより広い。
6階層へ行くだけなら簡単だ。
けれど、このフロアを“全部”探るとなると──
一日じゃ、とても足りない。
それでも、リンクは止まらなかった。
気づけば、考えは探索から離れていた。
(……僕は、ロウのことを何も知らない)
上っ面だけの関係なのかもしれない。
そう思うと、胸が沈んだ。
(ローランドの助けなんて……いるもんか!)
自分で思ったその言葉が、
胸の奥をきゅっと締めつけた。
あのキャロルって女が危険な状況にあるのなら、
ローランドは絶対に見捨てない。
優先順位は──
自分よりキャロルが上。
それが……悔しかった。
かといって……
ローランドにそこまで入れ込んでるのかって言われたら、
自分でも、わからない。
好きか嫌いかで言えば──
嫌いだ。
すぐくっついてくるし、
おちょくってくるし、
……女じゃないんだぞ、僕は!
なのに。
(……どうしてだよ)
胸の奥がざわつく。
あのキャロルって女がロウに近づくと、
なんであんなに腹が立つんだろう。
レイヴァンが“ロウ”って呼ぶだけで、
なんであんなにイラッとしたんだろう。
別に……僕だけの“ローランド”じゃないのに。
そんなこと、わかってるのに。
……なのに、惹かれてしまう。
全然似ていないのに──
アイラを思い出す。
そうだ、似てない。
似てるわけがない。
あんな優しい目も、
あんな声のかけ方も、
あんな仕草も──
……似てるはずがない。
(似てるなんて、思いたくない)
アイラが好きだった。
ずっと一緒に幸せな日々を送れると思っていた。
気づけば、あの頃のアイラの時間を追い越していた。
(……アイラ。生きていてほしい)
その願いが、胸の奥で静かに疼く。
だからこそ──
ローランドの優しさに触れるたび、
胸が痛む。
アイラじゃない。
ロウはロウだ。
わかってる。
わかってるのに。
(……どうして、こんなに気になるんだよ)
自分でも答えが出せないまま、
リンクは薄闇の中を歩き続けた。




