第三十六話 ――一人で行く意味――
翌朝、レイヴァンが迎えに来ていた。
ローランドと二人で支度を整え、玄関に立っている。
「キャロルを探す。
見つけたら一緒に探索に出てやるから……今日は待ってろ」
ローランドはそう言って、
リンクの頭を軽く撫でた。
「じゃあ、店番でもしとくよ」
リンクはいつもの調子で答えたが、
その声はどこか上の空だった。
ローランドは気づいているのかいないのか──
いつもの柔らかい笑みを浮かべたまま、靴ひもを結んだ。
レイヴァンは短く頷き、扉の方へ向かう。
二人の背中が並ぶと、
リンクはふと胸の奥がざわつくのを感じた。
(……行っちゃうんだ)
扉が開き、朝の冷たい空気が流れ込む。
ローランドが振り返り、軽く手を上げた。
「すぐ戻る」
その一言が、妙に遠く聞こえた。
二人を見送り、扉が閉まる。
静けさが戻る。
家の中の空気が、急に広く感じられた。
リンクはゆっくりと向きを変え、
リビングへ歩いて戻った。
小さく息を吐き、
カウンターの上に置かれた布巾を手に取る。
拭く必要もないのに、
無意識に手が動く。
(……なんだよ、これ)
胸の奥がざわつく。
寂しいわけじゃない。
のけ者にされたわけでもない。
……なのに、落ち着かない。
(別に……僕がいなくても平気なんだ)
そう思った瞬間、
胸の奥がきゅっと縮んだ。
(……だったらいいよ。
僕は僕で、隠し部屋を探しに行く。
もともと、一人で行くつもりだったんだ)
拗ねたような、
自分でもよくわからない感情が湧き上がる。
ローランドがいないのは、
むしろちょうどいい。
(……行かなきゃ)
気づけば、足は玄関へ向かっていた。
扉を開けると、
朝の光が差し込み、影が長く伸びる。
リンクはその影を踏みながら、
ギルドへと歩き出した。
ギルドの前に立つと、朝なのに人の声が漏れ聞こえていた。
扉を開けた瞬間、
ざわめきと、人いきれが押し寄せる。
中は、相変わらず熱気に満ちていた。
入ってすぐのテーブルで、
ひそひそと不穏な噂が飛び交っている。
「……5階層で子供を見たらしいぞ」
リンクの足が止まった。
「遠目だったが、大人に手を引かれてたって話だぜ」
「でもすぐ消えたんだろ?
魔物を引きずってただけじゃねぇの?」
「確証がねぇよな。依頼も出てねぇし。
だったら21階層に行こうぜ。まだまだ稼げるっしょ?」
話はそこで途切れた。
誰も深く追及しようとしない。
その会話を聞いた瞬間──
リンクの胸の奥で、何かが“カチリ”と噛み合った。
(……5階層。子供。大人に手を引かれて……)
ピンときた。
リンクは迷わずギルドを出て、
マキマキシの入口へ向かった。
ここ最近、何度も潜っている。
4階層から5階層への道は、もう身体が覚えていた。
魔物の巡回も、
物陰の位置も、
攻撃を仕掛けるタイミングも。
うまくやり過ごせば、一人でも突破できる。
自然と足が前へ出た。
リンクの心は、どこか遠くにあるようで、
足だけが、迷いなく前へ進んでいた。




