第三十五話 ――過去の断片――
しばらくして、三人はリビングで向かい合っていた。
さっきまでの騒ぎが嘘のように、空気だけが重い。
レイヴァンは遠く離れた街に住んでいる。
もう何年も顔を合わせてはいなかった。
……なぜ、ここへ。
ローランドが問いかけると、レイヴァンは視線を落とし、
ゆっくりと口を開いた。
「……一年ほど前にキャロルと偶然会ってな。
最初のうちは普通だったんだ。昔みたいに」
「それからは……まぁ、なんだ、理由つけて何度か会いに行ってたんだが……
会うたびに、どこか様子がおかしくなっていって……
性格も、な……少しずつ変わっていったんだ」
レイヴァンの拳が、膝の上で静かに震えた。
「自分のことなんて、まるで気にしてなくて……
言いたかねぇが、いろんな男と関わってたみたいでな」
ローランドは息を呑む。
リンクは動かず、ただ静かに聞いている。
「病気かと思って……
薬を探しに、遠くの街まで行ってたんだ。数週間」
「でも戻ってきたら……
キャロルはいなかった」
レイヴァンは言葉を切り、喉の奥で息を詰まらせた。
「心当たりなんてねぇから……
近くの昔仲間のところに行ってみたんだけどよぉ……」
一拍置いて。
「そいつ……死んでた」
ローランドの表情が固まる。
リンクはまばたきすらしない。
「そこに……キャロルの鱗が落ちてたんだ」
「もう一人の仲間も……
同じだった」
レイヴァンは顔を上げられないまま続けた。
「いてもたってもいられなくて……
ロウ、お前のところに来たんだよ」
その視線がようやくローランドに向く。
「あいつ、よくない連中に騙されてるんじゃ……
なぁ! キャロルは誰かと一緒じゃなかったか?」
レイヴァンが、無意識に距離を詰めていた。
ローランドは言葉に詰まり、わずかに視線をそらした。
(……単独でしか見てない)
胸の奥が、静かに揺れた。
リンクの沈黙が、逆に重くのしかかる。
だが、レイヴァンにこれ以上“過去”を話されるのはまずい。
ローランドは立ち上がった。
「外で話すぞ」
レイヴァンが無言でついてくる。
二人はそのまま外へ出た。
夜気が肌にまとわりつく。
しばらく、ただ歩いた。
ローランドが、先に口を開いた。
「キャロルのことだけどよ……誰かとつるんでるようには見えなかったぜ。
その辺でふらついてるだけなんじゃねぇのか?」
「そんなことはない!」
「だったらお前が嫌になったんじゃねぇの?」
「なんでだよ!」
「だって、お前暑苦しいし、重いだろ」
レイヴァンは気まずそうに黙り込む。
(……自覚あったのかよ)
ローランドは眉をわずかに上げた。
レイヴァンは肩を怒らせ、噛みつくように吐き捨てた。
「…………とにかく! 俺はこの街を虱潰しに探すからな!」
「あっ、そ」
「だからお前の家に泊めてくれ!」
「ダメだ! 今は無理なんだよ!」
ローランドは即答した。
……キャロルのことも、レイヴァンの焦りも気にはなる。
だが──リンクに、これ以上聞かせたくはなかった。
トリグレアのことは、絶対に耳に入れたくない。
それにリンクが“あの場所”をどう思っているのかもわからない。
(……あれから五年か。見張るって決めたくせに……最近ほとんど行ってねぇな……)
(……簡単にはバレないと思うんだが……)
それでなくても、リンクは明日にでも5階層へ行きそうな勢いなのに。
(どうする……)
家に戻ると、リンクはすでに自室で眠っていた。
ローランドはリビングで一人、
頭を抱えた。
静かな夜だけが、ゆっくりと流れていた。




