第三十四話 ――突然の来訪者――
どうにかしてリンクの探索を止めたい。
ローランドはそう思いながらも、日は容赦なく過ぎていく。
最近のリンクは、どこか張りつめていた。
食事中も、ふと視線が宙をさまよった。
夜中に起きて、紙束を広げている気配もある。
声をかければ返事は返ってくる。
けれど、そのいつもの素っ気なさの奥に、言えない“何か”が沈んでいた。
(……何を考えてんだよ、お前)
問いただすこともできないまま、
焦りだけが胸の奥に沈んでいく。
ついに4階層の探索が終わる日が来た。
次は5階層──核心に迫る場所。
リンクが“あの場所”を探ろうとしている理由はわからない。
ただ、あそこだけは絶対に踏み込ませたくなかった。
(……どう止める)
答えが出ないまま、時間だけが過ぎていく。
その日の夜。
二人はリビングで黙々と武器の手入れをしていた。
布が金属をなでる微かな音だけが、静かな部屋に淡く響く。
リンクは弓を手に取り、静かに弦の張りを確かめていた。
その横顔はいつも通りなのに、どこか遠い。
ローランドは何度も声をかけようとして、言葉を飲み込んだ。
(……聞けねぇよな。あの場所のことなんて)
そんな沈黙の中──
玄関の扉が勢いよく開く音がした。
家の静けさが、一瞬で破られた。
続いて、どたどたと遠慮のない足音が廊下を近づいてくる。
リビングの扉が乱暴に開いた。
「おい! ロウ! 大変だ!」
浅黒い肌に尖った耳の男──レイヴァンが飛び込んできた。
短く刈り上げたこげ茶の髪。
その顔立ちは、ローランドとはまるで違う方向に整っていた。
どこか暑苦しいほどの存在感をまとった男だ。
ローランドが冒険者になるきっかけをくれた昔仲間。
そして、ローランドを“ロウ”と呼んだ最初の相手でもある。
「レイ! なに勝手に入ってきてんだよ!」
「お前が鍵渡したんだろ!」
ローランドが眉をひそめる。
「鍵返せって言ったら、失くしたって言ってただろ」
「……あの時は本気で失くしたと思ったんだよ!」
二人のやり取りは昔のまま。
リンクは無言のまま弦を指で弾き、わずかに眉を寄せた。
けれど、レイヴァンの息は荒く、ただ事ではない様子だった。
その視線がふとリンクに止まる。
「……お前、まさか。とうとうそっちの……?」
「ちげぇよ!!」
ローランドが即座に否定する横で、
リンクはわずかに目を細めた。
(“ロウ”って……僕だけの呼び名じゃなかったんだ)
胸の奥が、ちくりと痛む。
リンクの指先が、ほんのわずかに止まった。
ローランドは気づかない。
レイヴァンも気づかない。
けれど、その一瞬の揺れだけが、部屋の空気に微かな影を落とした。
「それよりも、キャロルを知らないか?」
レイヴァンが息を荒げたまま言う。
「キャロルって──」
ローランドが言いかけたところで、
リンクが無表情のまま口を挟んだ。
「ロウがこの前、朝まで一緒にいた女の人」
その瞬間、レイヴァンの顔色が変わった。
「……ロウ。てめぇ……!」
「まて! まてって! 一緒に飯食ったのは事実だ!
けど手は出してない!」
「嘘を吐くな! あれだけいい女と一緒にいて、何もないだと!」
「マジだって! 人の女と寝るほど飢えてねぇわ!」
「髪も服装も乱れてた」
リンクがぼそっと呟く。
レイヴァンのこめかみに青筋が浮かんだ。




