第四話 ――追い詰められて――
ダンジョンに入ってしばらく経った頃、
リンクは立ち止まって首を傾げた。
「……あれ? ここ、さっきも通った気がするんだけどな」
壁も天井も床も全部同じに見える。
1階層は簡単だと聞いていたが、リンクにとってはそうでもなかった。
(やっぱ、地図苦手だな……)
前のパーティーにはマップ担当がいた。
獣人の斥候──ザック。
方向感覚が常識外れに優秀で、
前日に地図を渡せば翌朝には全部頭に入っていた。
(ザックなら、こんな1階層で迷うなんて絶対ないよな……)
懐かしさと情けなさが胸に混ざる。
その間にも魔物に遭遇したが、
リンクは迷わず弓を構えた。
「……っ!」
5本の魔法矢が鋭く走り、一直線に魔物へ突き刺さる。
バシュッ、バシュッ!
魔物は声を上げる間もなく崩れ落ちた。
(ふぅ……5本同時は、やっぱり便利だな)
常人なら魔法の矢は3本が限界だ。
リンクは5本を安定して撃てる。
これは地味にすごいことだ。
倒した魔物から魔石を回収し、袋にしまう。
(魔石も集まるし……迷ってるけど、まあ悪くないか)
そんなふうに自分を誤魔化しながら、ようやく目的の場所へ辿り着いた。
1階層の端。
突き当たりの小部屋のような空間。
数人が動くには困らない程度の広さだ。
壁には、冒険者たちが掘った跡が
新旧入り混ざって残っている。
リンクはつるはしを取り出し、慎重に鉱石を掘り始めた。
カン、カン……。
(……あ、これ。希少石だ)
鑑定がなくても分かる小さな輝き。
リンクは迷わず袋に入れる。
依頼の倍の量を集め終えたとき──
コツ……コツ……
入口から二つの足音が近づいてきた。
(……誰か来る)
現れたのは、
ギルドでリンクをニヤつきながら見ていた、あのガラの悪い冒険者たちだった。
「こんなところにいやがったか、坊主。ずいぶん探したぜ」
「鉱石、いい感じに集めてんじゃねぇか。全部置いてけよ」
二人はいやらしい笑みを浮かべながら、じりじりと距離を詰めてくる。
(鉱石の横取り……だけじゃないな)
この手の連中は、やることが決まっている。
奪う。
殴る。
そして──壊す。
(……絶体絶命ってやつか)
リンクは後ずさりしながら、魔力を指先に集めた。
「おとなしくしてりゃ痛い目は見ねぇよ。なぁ?」
「……するわけないだろ!!」
リンクは距離を取り、矢をつがえる。
5本の魔法矢が一斉に放たれ、
剣を振り回していたモヒカン野郎の足に命中した。
「ぎゃっ!? いってぇぇぇ!!」
モヒカンはその場で転げ回る。
もう一人は──まるで別物だった。
「おっと」
軽い身のこなし。無駄のない動き。
拳を握った瞬間にわかった。
(武闘家……!)
矢をひらりとかわし、次の瞬間には目の前にいた。
「遅ぇんだよ!」
ドゴッ!!
「っ……!」
リンクの身体が宙を舞い、背中から壁に叩きつけられた。
肺から空気が抜け、視界がぐらつく。
「へへ……まだ終わりじゃねぇぞ?」
胸ぐらを掴まれ、持ち上げられる。
拳が振り上げられ──
(……殺られる!)
──その瞬間、あたりの空気が揺れた。




