表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ハニーオレンジとアメジスト ――運命が動き出す街で  作者: じゅんき


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

3/27

第三話 ――ギルドにて――

街を歩き回ってみても、トリグレアの気配はどこにも見当たらなかった。


マキナードは広い。

多種族が行き交い、朝から雑多な気配が渦巻いている。

歩きながら、それとなく足元を確認してみたが──

あの夜に見た“鶏のような足”を持つ者はいなかった。


とはいえ、いつまでも街をうろついているわけにもいかない。


鑑定屋の手伝いをすることは決まっている。

だが問題はここからだ。


ヨゼフは、家にリンクを置きたくないらしい。


「早く寝泊まりする場所を決めろ。毎日働かれても困る」


鑑定依頼が来るのは一日に数件──いや、ない日もある。

そんな店で毎日店番をされては、確かに鬱陶しいだろう。


それに、宿に泊まるにも先立つものがいる。

手元に残っている金は、ほんのわずかだった。


(……仕方ない。稼がないと)


リンクは初めて、この街の冒険者ギルドへと向かった。


大きなダンジョンがある街だけあって、ギルドも巨大だ。

高い天井には魔灯が吊られ、朝の光を反射して淡く揺れている。

革の匂い、金属の擦れる音、冒険者たちのざわめき──

この街の“生きた空気”がそのまま詰まっていた。


掲示板には依頼がびっしりと貼られている。

依頼書を奪い合うように手を伸ばす冒険者もいれば、

酒の匂いを残したまま仲間と笑い合う者もいる。


リンクは掲示板を遠目に眺めながら、

自分のランクとスキルに見合う依頼を探していた。


リンクは弓使いで異例のBランクだ。

弓使いで高ランクは珍しい。

だがそれは、前のパーティーが優秀だったおかげでもある。


そしてスキルは“鑑定”。

冒険者にとっては、鑑定は“物の価値を知るだけ”の不遇スキルだ。


──だが、リンクのそれは違う。


相手の種族や名前、スキル……

その奥に隠れた“弱点”と“急所”まで視えてしまう。

この能力を知っているのは、前のパーティーメンバーだけ。


そして、その能力に最初に気づいたのは、かつての仲間であるエルフだった。

「じゃあ、その弱点に合わせて……矢を魔法で練ってみたら?」

リンクは属性をひとつずつ試した。


炎、水、風、土、雷、氷──

そして闇と光。造れる属性はすべて。


その結果を前に、二人とも言葉を失った。


しかし、攻撃魔法や防御魔法は使えない。

ただ矢が造れるだけだ。

それに、物理でしか倒せない魔物には玉鋼の矢を使うしかない。

弱い魔物なら短剣でなんとかなるが──


正直、リンクは強くない。


それでも、ある程度の階層ならソロで潜ることは可能だった。


ただ、ソロで迷宮品を売って生活する者もいるが、

浅い階層の品は安い。

稼ぎにはならない。


(……まずは軽い依頼からだな)


リンクは鉱石採取の依頼を選んだ。

鑑定でレア鉱石を見つけられるかもしれない。

依頼にない鉱石でも、希少なものなら高値で買い取ってくれる。


受付でダンジョンマップを受け取り、依頼内容を確認する。

出て行こうとしたとき──


「リンクさん! カード忘れてますよ!」


受付嬢の声がギルドに響いた。


──その声が、たまたまギルドにいたローランドの耳に届いた。


本来なら、ローランドはこんな時間から

ギルドに来るような男ではない。


娼婦たちと別れ、昨夜の飲み代分ほどの魔石を換金しに寄っただけ。

こんなところでカードゲームに参加してたのも、ただの気まぐれだった。


(……ん?)


ふと顔を上げた瞬間、

リンクの姿が視界に入った。


右目の奥が、ズキッと疼く。

思わず眼帯の上から押さえた。

今朝と同じ感覚。その時よりも痛みが強い。

まるで“気配”だけがこちらに触れてくるような、妙な痛み。


(……まただ。なんなんだよ、これ)


ローランドはそのまま固まった。

カードを持つ手が止まる。


「おい、早く切れよ」


隣の男に足で小突かれ、ようやく我に返る。


そのとき、

近くの席の冒険者がニヤニヤしながらリンクを見ていた。

ああいう連中は面倒だ。


ダンジョンでは、悪意ある冒険者に狩られることがある。

新人がパーティーを組まされるのは、そのためだ。

ヤツらの目に、リンクは“ただの弓使いの新参者”に映ったのだろう。


ガラの悪い冒険者が、リンクの後を追って立ち上がった。


いつもなら、ローランドは放っておく。

他人の揉め事に興味はない。


だが──


(……なんでだよ。無視できねぇのかよ)


右目の疼きが、まだ消えない。


ローランドはポーカーそっちのけで立ち上がった。


「おい、どこ行くんだよ!」


「悪い、降りるわ」


「はぁ!? 賭けの途中だぞ!」


ローランドは手札をバラバラと机に投げ捨てた。

カードが散らばり、周囲がざわめく。


原則、ギルド内でのゲームや賭け事は禁止だ。

職員に見つかり、テーブルは強制的にお開きになった。


ローランドはその混乱を背に、

リンクの後を追って歩き出した。


胸の奥の小さな違和感。

それがなんなのか、わからない。


(……あいつ、なんなんだ)


まだ知らない。

その背中が、自分の“始まり”と深く繋がっていることを。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ