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ハニーオレンジとアメジスト ――運命が動き出す街で  作者: じゅんき


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第二十七話 ――喧噪の中で――

翌朝。


リンクは先に家を出ようとしたのだが、

昨日の礼を言うためにソファーへ腰を下ろしていた。


そこへ、気だるげにあくびをしながら、

寝起きのローランドがふらりと現れる。


「リン、おはよ。あれ〜? 飯は?」


「おはよう。……食材がないのに作れるわけないだろ」


むすっと返すリンク。

けれど、どこか照れが混じっている。


ローランドはにやりと笑って、

リンクの隣に腰を下ろし、顔を覗き込んだ。


「俺ちゃん、リンの愛のこもった朝食食べないと死んじゃう」


「朝からくっついてくるな!」


軽く押し返すが、結局そのままだ。

その距離の近さに、ローランドの口元が緩む。


リンクは視線をそらし、

指先でソファーの端をいじりながら、


「……昨日は、ありがとな」


ぼそりとつぶやいた。


「うぉっ?! ヤバッ!」


ローランドは肩を跳ねさせ、

わざとらしく股間を押さえた。


意味を察したリンクは、顔を真っ赤にして怒鳴る。


「いい加減にしろよ!」


「冗談だって〜。……怒った顔もそそるんだけどな、あはは」


「だーかーらー!!」


いつもの騒がしい朝が戻ってきた気がした。

その空気に、どちらもほっとしている。




ギルドに着くと、朝から異様な賑わいだった。


素材を抱えて受付に並ぶ者。

これから潜ろうと装備を整える者。

掲示板に群がる者。

テーブルで声を潜めて作戦を練る者。


普段なら空いているはずの通路まで、人で埋まっていた。


「なんか……多くないか?」


リンクがつぶやくと、

ローランドもざっと周囲を見渡す。


そのとき、

昨日の冒険者たちが視界の端に入った。


受付前で報告しているが、

肩は落ち、顔色も冴えない。

場の熱気からぽつりと浮いて見える。


ローランドの表情が一瞬だけ曇る。


くるりと回れ右し、

リンクの肩を掴んで外へ押し出し始めた。


「ちょ、ちょっとロウ?」


「今日は潜るのやめてさ、街ぶらつかね?」


ぐいぐい押されながら、

リンクはローランドの背越しにギルド内をちらりと見た。


昨日の冒険者たちの沈んだ姿が目に入る。


──ああ、気を遣ってくれてるんだ。


「……うん。そうだな」


リンクは静かに頷いた。


ローランドはその返事にほっとしたように笑い、

二人はギルドを後にした。



街の通りに出ると、朝の喧騒が押し寄せてきた。

露店の呼び声、鍛冶屋の金属音、冒険者たちの足音。

いつも以上に活気にあふれている。


人波に押されるようにして、二人は通りを進んだ。


必要な物を買い足したあと、

街のカフェのテラス席に腰を下ろす。


そこから見える通りも、朝とは思えないほどざわめいていた。


リンクは不思議そうにあたりを見まわした。

そのまま、小さくつぶやく。


「なんか……いつもより落ち着かないな」


ローランドはコーヒーを啜りながら答える。


「21階層に行くやつが増えたからじゃないか?

 この前、素材鑑定あっただろ」


リンクは「あっ!」と声を上げた。


数日前──

21階層から初めて冒険者が帰還した。


まだ踏破はされていないが、

“行ける”とわかっただけで、冒険者たちは色めき立つ。


新素材が街に出回り、

商人も職人も浮き足立っている。


「……店番、忘れてた!」


椅子を蹴るように立ち上がり、

そのまま駆け出していく。


ローランドはため息をつきながら見送った。


「まったく……落ち着きねぇな」


そう言いながら、口元がわずかに緩んだ。



リンクの姿が角を曲がって見えなくなった、その瞬間──


「025」


背後から、低く艶のある声が落ちてきた。


ローランドの背筋がわずかにこわばる。

──昔の呼び名。


ゆっくり振り返ると、

深くフードを被った女が静かに立っていた。


赤い服の隙間からは、

トカゲの鱗のようなものがちらりと覗く。

影に沈んだフードの奥で、

わずかに口元だけが覗いていた。


「582じゃないか! 久しぶりだな。なんか……雰囲気変わった? なんでここにいんの?」


懐かしさが一気に胸に広がり、ローランドの表情がほどけた。

言葉が止まらなくなる。


女はゆっくり微笑んだ。


「そんなに驚かないでよ。

 それに、今はキャロルって名前なのよ。

 あなたは? 025」


「え? 俺? 俺は、ローランド」


「そう、素敵な名前ね。……ローランド」


名前を呼ばれただけなのに、背筋に冷たいものが走る。


フードの奥の目は見えないはずなのに、

妙にねっとりした視線だけが肌にまとわりつく。

かつて仲間だった頃には、

こんな視線を向けられたことは一度もなかった。


ローランドは一瞬だけ眉をひそめたが、

すぐにいつもの調子に戻った。


「でも……よく戻ってきたな、この街に。

 で、他の奴らは?」


「知らないわ。

 ……しばらくこの街にいるから。

 またどこかで会いましょ」


キャロルは微笑み、歩き出す。

赤い服の裾を、静かに揺らしながら。


ローランドはその背中をしばらく見つめていた。


懐かしさと、

言葉にできない違和感が、

胸の奥に静かに残っていた。



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