第二十四話 ――手の温度――
ローランドに手を引かれたまま、
リンクはしばらく言葉を失っていた。
足がふるえている。
胸の奥がぐちゃぐちゃで、
さっきまでの光景が頭の中で渦を巻く。
ローランドは振り返らず、
ただリンクの手を離さないまま歩き続けた。
暗い通路を抜け、
少し開けた場所に出たところで、
ようやく足を止める。
静けさが広がっていた。
さっきまでの血の匂いも、叫び声もない。
ローランドが低く声を落とす。
「……リン。大丈夫か」
その声は、
戦闘中の冷たさとはまるで違った。
あたたかくて、落ち着いていて、
どこか懐かしい響きがあった。
リンクは喉が詰まって、
すぐには返事ができなかった。
「……ぼく……」
声がかすれる。
「……助けられなかった……」
それだけで精一杯だった。
リーシャの苦痛に歪んだ顔。
伸ばされた手。
遅かった自分。
望まぬローランドへの攻撃。
全部が胸の内で絡まり、
涙がにじむ。
ローランドはゆっくりと首を振った。
「リンのせいじゃねぇよ」
その一言が、
胸の奥にそっと落ちる。
リンクは俯いたまま、
小さく息をすった。
「……ごめ……」
言いかけた瞬間、
ローランドが遮るように言う。
「謝んなって。
俺は……お前が無事ならそれでいい」
リンクは顔を上げられなかった。
涙がこぼれそうで。
その横顔を見たローランドの視界に、
ふいに“幼いリンク”の泣き顔が重なった。
右目の奥が、かすかに揺れたように感じた。
泣きじゃくっていた、
あの小さな影。
ローランドは一瞬だけ息を呑む。
けれど、不思議と拒絶感はなかった。
むしろ胸の奥がじんわりと熱くなる。
(……なんだよ、これ。
なんでこんな……守りてぇって思うんだ)
リンクの肩が小さく揺れた。
その感覚が、手を通して静かに伝わる。
ローランドはそっとリンクの手を握り直した。
「帰ろうぜ、リン」
リンクは静かに頷く。
二人はゆっくりと進み出す。
薄暗い通路の向こうへ。
誰にも邪魔されない、
二人だけの帰り道へ。
歩きながら、リンクはゆっくり息をはいた。
ふるえはまだ残っているけれど、
ローランドの手の温かさが、
少しずつそれを溶かしていく。
ローランドは前を向いたまま、
リンクの歩幅に合わせて歩く。
無言のままでも、
その沈黙は不思議と苦しくなかった。
むしろ、
安心してしまうほどに。
通路の先に、微かな光が見えた。
ローランドが言う。
「外に出たら、少し休め。
……今日は、もう十分だ」
リンクは小さく頷いた。
胸の奥のひっかかりは、
まだ完全には消えていない。
けれど──
ローランドの手がある。
今はそれだけで、
歩ける気がした。




