第二十三話 ――凍てつく声――
ローランドはリンクを支えながら、
薄暗い通路をゆっくりと歩いていた。
リンクの呼吸はまだ整わず、
肩が小さく上下している。
「……ごめん……」
小さな声が、
歩みをふっと鈍らせた。
「……なんでリンが謝んだよ」
ローランドは短く答え、
その歩幅をリンクに合わせる。
そのとき──
前方から複数の足音が近づいてきた。
さっきまで地面に倒れていた冒険者たちが、
ふらつきながらも、こちらへ歩いてくる。
簡易回復を使ったのか、
顔色はまだ悪いが、動ける程度には持ち直していた。
「おい! 無事か!」
その声は、
戦闘の静けさを破るように大きかった。
リンクの肩が、
びくりとふるえる。
ローランドはそのふるえを感じ取り、
そっと腕に力を込めた。
リーダー格の男が深く頭を下げる。
「助かった……! 本当にありがとう。
あんたらが来なかったら、俺たち全滅してた」
ローランドは軽く頷いた。
だが、
その直後──
「……リーシャは?」
リーダーの問いに、
ローランドは短く答えた。
「……死んだ」
空気がしずむ。
その沈黙を破ったのは、
救出された男性冒険者だった。
目を見開き、
声を荒げた。
「……嘘だろ……嘘だろ……!!」
男が掴みかかろうと身を乗り出した。
「おい、落ち着け!!」
リーダーと別の仲間が慌てて男を押さえつける。
「離せよ!! 嘘だって言えよ……!」
男の視線が、
ふるえるリンクの顔へと流れた。
その瞬間、
男の表情が歪んだ。
「なんで……なんでお前がここに……!
……お前……エターナルにいたよな?」
リンクの肩がわずかに跳ねる。
押さえつけられたまま、男は怒りをぶつけるように叫んだ。
「寄生してた弓使いだろ!!
抜けたって聞いたけどよ……
今度はここでカラスに寄生かよ!!」
空気がざらつく。
男はさらに叫んだ。
「お前がもっとちゃんと強けりゃ……!!
リーシャは死なずに済んだんだよ!!!」
その言葉が、
リンクの胸に鋭く突き刺さった。
──救えなかった悔しさ
──遅かった自分への痛み
──ローランドに矢を向けた罪悪感
──過去の傷
全部が一気に押し寄せる。
リンクの呼吸が乱れ、
視界がゆらいだ。
その瞬間だった。
ローランドが、
静かに男の前へ歩み出た。
怒鳴らない。
睨まない。
表情も変えない。
ただ、無言で──
男の腹に蹴りを入れた。
鈍い音が響き、
男が壁に叩きつけられる。
あたりが凍りついた。
「……勘違いするのもいい加減にしろ」
ローランドは低く、
冷たく言い捨てる。
その声は、
ラミアにこぼしたあの一言と同じ温度だった。
凍てつくような、
底の見えない怒り。
リンクを傷つけたことが、
ローランドには許せなかった。
沈黙の中、
ローランドはリンクの方へ向き直る。
ふるえる手を、
そっと取った。
「リン、行くぞ」
振り返らない。
誰も見ない。
ただ、
リンクだけを連れて歩き出す。
リンクはまだふるえている。
でも──
ローランドの手の温度だけは確かで、
その温度が、
胸の奥の痛みを少しだけ溶かしていく。
薄暗い通路を歩きながら、
リンクは小さく息を吸った。
ローランドは手を離さない。
静かで、
誰にも邪魔されない、
二人だけの帰り道。
その背中は、
もう以前の二人ではなかった──。




