第二十一話 ――踏み込む先――
リンクの放った矢が、
空気を裂いて飛ぶ。
ローランドは身をひねり、
紙一重でそれを避けた。
「……リン!!」
呼びかけても、
リンクの瞳は焦点を結んでいない。
震える指先。
ぎこちなく引き絞られる弓。
何かに抗っているような、不自然な動き。
そのすべてが、
ローランドの胸をざわつかせた。
「なんで……そんな顔、してんだよ」
呟きは、誰にも届かない。
次の矢が放たれる。
速くて、
精確で、
致命的な軌道。
ローランドは剣で弾きながら後退した。
リンクの矢は、
いつだって真っ直ぐで、
迷いがなくて、
美しい軌道を描く。
だからこそ──
胸が痛んだ。
「……リンが……俺に……」
ほんの一瞬、心が揺れた。
その一瞬が、隙になった。
ひゅ、と風を切る音。
次の矢が腕を打った瞬間、
魔力が弾け、鋭い痛みだけが残った。
リンクが自分に矢を向けたこと。
その事実の方が、胸に突き刺さる。
そして痛いのは自分なのに、
苦しそうに顔を歪めたのは、リンクの方だった。
「……リン、お前……どれだけ……」
言葉が続かなかった。
背後で、
ラミアが薄ら笑う。
二人の苦しみを味わいながら、
新しい雄を見定めるような、
湿った笑みだった。
リンクを利用して、
リンクを苦しめて、
リンクを壊そうとしている。
ローランドの胸の奥で、
黒い何かがゆっくりと形を成した。
怒りとも違う。
憎しみとも違う。
もっと、底の方に沈んでいる、
名前のつかない感情。
「……ああ、そうかよ」
腕にまとわりつく魔力の残滓を振り払い、
残る痛みを押し殺して、ローランドは剣を握り直した。
その目は、
いつもの軽さを完全に失っていた。
「リンを……泣かせてんじゃねぇよ」
低く、
押し殺した声。
怒鳴り声ではない。
感情を爆発させたわけでもない。
ただ、
底の見えない黒が滲んでいた。
ローランドは前へ踏み出した。
リンクの矢が飛ぶ。
次々と。
速く、
鋭く──
それでもローランドは進む。
矢が頬をかすめ、
肩を裂き、
足元の石を砕く。
それでも止まらない。
「リン……待ってろ……」
その声は、
祈りのようで、
呪いのようでもあった。
リンクの苦しみを断ち切るために。
リンクをこれ以上沈ませないために。
ローランドは、
自分の闇の底へ踏み込んだ。




