第十五話 ――朝の鑑定室――
閲覧室の扉を開けた瞬間、
ギルドの空気がいつもより落ち着かないのがわかった。
「何かあったんですか?」
受付のアリサに声をかけると、
彼女は慌てたように答えた。
「21階層のパーティーが、大量の素材を持ち込んできたんです!
鑑定が追いつかなくて……」
そこへ──
「なんだリンク……いたのか」
ヨゼフが、ぶっきらぼうに頭を掻きながら現れた。
眠そうな目で、肩をぐるぐる回している。
「ちょうどいい。俺の代わりに鑑定してくれ」
そう言うなり、踵を返して手をひらひら振りながら
ギルドの外へ出ていく。
(……またかよ)
リンクはため息をついて、
うらめしそうにヨゼフの背中を見つめた。
その横で、職員がリンクを手招きする。
「じゃ、行こうぜ!」
ローランドが当然のようにリンクの肩に手を回した。
「部外者だろ……」
「いいじゃんよ、見てるだけだからさ」
リンクからぱっと手を離して、
嬉しそうに前へ出た。
鑑定室に入ると──
湿った土の匂いが鼻をかすめた。
魔石の微かな光が、積み上がった素材の影を揺らしている。
そのあいだを職員たちが忙しなく行き交い、
鑑定士たちのピリピリした声が飛び交っていた。
魔石。
鉱石。
未知の植物。
魔物の部位。
(……多すぎだろ)
リンクは顔を顰めながらも、
しぶしぶ作業に取りかかり、慣れた動きで次々と鑑定を進めていく。
その速度は異常だった。
周囲の鑑定士たちがざわめき始める。
「おい、あの子供……早すぎないか?」
「適当に書いてんじゃねぇだろうな?」
「ギルドの素材だぞ、責任取れんのか?」
ローランドは野次った方へちらりと目を向け、
満面の笑みで腕を組んだ。
「リン、すげぇ~! 速すぎて目が追いつかねぇ!」
外野の声をかき消すように、
わざと大げさにはしゃぎだす。
「黙ってろよ……集中できない」
リンクは呆れたように言いながらも、
その“騒がしさ”に救われている自分に気づいていた。
そこへギルドスタッフが近づき、
眉をひそめた。
「君、鑑定士の証明を見せてもらえる?」
(……めんどくせぇ)
リンクはしぶしぶカードを取り出した。
そこに刻まれた文字。
──国家鑑定士1級。
室内が静まり返る。
「……嘘だろ」
「なんでこんな若造が……」
「本物……なのか……?」
ローランドはニヤリと笑い、
一歩前に出た。
「お~い、さっきリンに文句言ったやつ、前に出ろ。
お仕置きしてやる!」
「やめろ!! ややこしくなるから!!」
リンクの叫びが、
鑑定室に響き渡った。
ローランドは肩をすくめ、
“ちぇ~”と子どものように口を尖らせる。
リンクは小さく息を吐き、
胸の奥がほんの少しだけ温かくなるのを感じていた。
(……なんなんだよ、ほんとに)
その温度が、
復讐の炎とは違う場所で
静かに灯っていた。




