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アガート村防衛戦 9

「改めて、帝国軍の工作部隊の手口を説明するわね」

リーシャが私に持たせてくれた二人分の夕食を食べた後、私はライルに話を切り出した。

「襲撃は早ければ今晩。森の中でドラゴンを見かけたという報告があがる。腕よりの自警団員で捜索開始のため、村の防衛力が一時的に低下した隙に一気に村を制圧――まあ陽動作戦としては教科書通りの流れかしら?」

転生者でこの出来事を知っているアリアに自身の記憶と差異が無いか確認したが、私の知識と一致していた。

防衛力を削ぐ脅威を囮に、機動力のある部隊で一気に制圧。軍隊レベルなら立て直しも可能かもしれないが、指揮系統も構築されていないような村の自警団レベルなら対処がかなり難しい。

だからこそ、教科書通りが効いてしまう。

「……で、俺にドラゴンを倒してこいと?」

厳密に言うとレッドドラゴンだ。普通のドラゴンよりも炎のブレスの威力が高い以外は変わりないが。

「いいえ? ドラゴン出現の情報が出たという情報で混乱している隙に私とアリアで倒してくるわ」

「アリアって……リーシャの娘のアリアか? あの子、エリーと違ってまだ八歳の普通の女の子だろ?」

そうか、ライルはアリアのことをよく知らないのを忘れていた。演技ではなく『八歳の女の子』としか認識されていない。

「私よりは弱いけどライル――貴方よりは強いわね」

とてもそうには見えないが、とライルは呟く。確かに信じがたいのは分かるが、間違いなくライルよりは強い。

それにライルと――正規の軍人と同等の強さでも私なら守りきれる。

「ただ即時にドラゴンを倒してしまえば帝国の作戦が始まる前から失敗になるから、ちょっとだけ時間稼ぎが必要になるわ」

「……つまり俺は村に残れ、と」

名無しの帝国兵ならライルひとりで『防衛する』だけなら問題ない。少なくとも私とアリアがドラゴンを倒して戻って来るまでの時間ぐらいなら持ちこたえられるはずだ。

最初はアリアを残すことを考えたが、果たしてアリアが実戦でどこまで動けるかのテストも兼ねて連れて行った方がいいと判断した。

「念のため、これを渡しておくわ」

「……おいおいエリー、これどこから持ってきた?」

私がテーブルの上に並べた5本の上級ポーションの瓶に、ライルが面食らったような表情を浮かべる。

辺境伯軍でもこの手の回復アイテムは厳重に管理されているため、いくらライルでも勝手に持ち出すことができない。

「お母様が万一のために、と持たせてくれているものよ」

お母様はポーション作りにも精通しているので、私的にポーションを作って私に持たせている。その全てを放出した形だ。ちなみに私のストレージには売るほど保管されている。

エリクサーだと出どころが説明できないので、こちらを渡すことにした。

だがしかしライルは受け取るのを渋っている。恐らく逆に私に万一のことがあったらを恐れているのだろう。

そもそもレッドドラゴンの鋭い鈎爪の一撃が直撃しても、私にとっては一般人が子どもに小石を投げられたぐらいの痛みとダメージしかない。そして帝国兵の装備しているような標準的な剣での攻撃は恐らく、当たった瞬間に剣が砕け散る。

言い忘れていたがこれは私の肉体がマッチョだとか、皮膚がアダマンタイトで出来ているとかそういうわけではない。

この世界では戦闘を生業とする人間にとっては常識とも言える魔法【身体強化】を使っているからだ。保有する魔力が多ければ多いほど頑強に、俊敏に、剛力になる。

これは士官学校に入学した直後にアリアが学ぶ基礎も基礎の魔法でもあり、もちろんライルも使えるし、純粋な魔法使いタイプのお母様ですら使える。

さて、後は出たとこ勝負だ。帝国兵の数は原作でのアリアの回想でもどのぐらいの人数かは判明していない。


外が騒がしい。困惑しているかのような声音での会話も聞こえる。私の予想通り決行が早まったようだ。

相手側にとってのイレギュラー要素、丸腰であっても辺境伯軍の十人隊長が長旅で疲労しているであろううちに事を済ませるのは考えられた。

そもそもそこまで十人隊長ごときを警戒するのであれば、作戦を一時停止すればいいのにとは思う。ただ『物語の強制力』なのか、あるいは帝国にも退けない理由があるのだろう。

ただ帝国にとっての誤算は、ライルが己の肉体を武器にする格闘家であるということ。ただの幼子なのに正規の軍人であるライルより強いアリア。そしてお父様より遥かに強い私という存在。

「ライル、緊急事態だ! すまんが広場まで来てくれ!」

ハッサンの声に私とライルは顔を見合わせ、大きく頷く。先にライルが外へ飛び出した。

外の喧騒が遠くなったのを見計らって私も行動を開始する。装備を整え、外に出る。薄暗いがその方が都合がいい。目立たずにアリアの家まで向かえる。

誰にも見咎められることなくアリアの家まで辿り着いた。ほぼ同時に、私同様に装備を整えたアリアが出てくる。

「ごめんエリー! お母さんを説得するのに手間取っちゃた!」

それは当然だ。八歳の我が子がいきなり立派な鎧と斧を持って外に出ようとしたら何事かと思って静止するだろう。

それにしてもよくリーシャが納得してくれたと思う。日中の話だとアリアの強さはリーシャは知らないらしいが。

「埒が明かないからこれ使ったの!」

アリアは私に気味の悪い、節くれだった木の枝にも見える像をちらりと見せた。これは『夢魔の囁き』という、使用した相手に『睡眠』のバッドステータスを付与するアイテムだ。

睡眠の成功率は低いし、メインシナリオ後半のボスにはほとんど無効なのでアイテム欄の肥やしが定番だった。

つまりアリアのストレージに保管されていても不思議ではない。

現実に使用するとどのぐらい睡眠が続くかは試したことがないので不明だが、多分ひと晩は効果が続くはずだ。

とりあえずアリアとは合流できたので、後は自警団が動くのを待つだけだ。

「ドラゴンとかマジかよ」「冒険者やってた時でも遭ったら逃げろって言われてたぞ」「あんなデカブツの足跡を見逃すはずないだろ」「昨日の巡回で西側の半刻ぐらいの位置は大体見たよな?」

自警団の面々が口々にそんなことを言いながら、森へと向かっていく。予想通りほぼ総出のようだ。その中にはライルの姿は無い。

「……行ったようね」

私の呟きにアリアが頷く。私たちも行動を開始しよう。

さて見張りをどうやって突破したかというと、これは非常にシンプル。敏捷の値もカンストしているので、腕力一辺倒なアリアを背負って全速力で駆け抜けただけだ。

見張りにはなにかが物凄い勢いで駆け抜けていったことしか分からないだろう。

プランのひとつとして用意していたのがネメシスとしての私の行動妨害系の魔法を使うことだが、少しでもライルの負担を減らすために没にした。

その勢いのまま森へ突っ込む。ちなみに敏捷の値がカンストした私の全速力、我ながらなかなかスリリングな速度だった。

「あばばばばばばばばばばば……!」

私がスリリングなら背負われているアリアにとってはデンジャラスなのだろう。原作ゲームのヒロインが出してはいけない声が出ている。

恐らく自警団より森のだいぶ奥深くまで来た辺りで急ブレーキ。慣性でアリアが吹き飛びそうになるぐらいだった。

「はぁ……っ、はぁ……っ! こ、怖かったぁ……!」

私も都度都度の一瞬の判断が遅れていたら木に激突していたかも、と思うとそれはそれで怖かった。ただ何らかの訓練にはなりそうだった。

さて、ここまで来ると自警団よりだいぶ先行している。私が破壊工作の陽動として強力な手札を切るなら、村まで戻るのに時間がかかるこの辺りから先に配置する辺りだ。

「――【魔力探知】」

これは【ストレージ】同様お母様ですら知らなかった魔法のひとつだ。ゲーム的に言えばエリアマップに敵のシンボルを表示させる感覚。

微弱な魔力を粘土やシリコンをイメージして放出することで、シンボルエンカウント系のゲームのシステムを再現できた私のオリジナルの魔法だ。

この魔法が広まったら今回の襲撃のような事例は難しくなる。伏兵の類が無意味となるからだ。

ただこれは私の処理能力だからこそ有効だと自覚している。現に今、私の脳裏にはとてつもないほどの魔力の反応が送り続けられている。

微弱すぎる魔力ですら拾ってしまっているのだ。恐らくこれはネズミかリスか何か。もしかしたらこれが帝国兵なのかもしれない。

ただ帝国兵なのだとすると今回の作戦目標からすると集団で動くから、単体あるいは多くても三つぐらいの反応のため、動物だとして処理しても構わない。

初めて実戦で使ってみたが、半径およそ五百メートルといったところか。辛うじて村の方角にやたら強大な魔力反応の気配がある。これが恐らくライルだろう。

私は得た反応を元に『レッドドラゴンがどこにいるのか』というただ一点のみに絞って、探知するうえでのノイズを極限まで削ぎ落とす。

微弱すぎる魔力反応は無視。帝国兵を取りこぼす可能性もあるかもしれないが、そこは私が戻るまでの防衛を務めてくれるライルを信頼する。

私とほぼ誤差のない同位置にある魔力反応も無視。これはアリア以外に考えられない。一応直下や上空にドラゴンがいる可能性もあるため視認したが、姿は見当たらない。

ライルの反応らしきものが感知できているということは、現在アガートから半径五百メートル以内だ。ライル以上の魔力反応は帰ってきていない。

ここまで体感で一分で来た。思ったより早いため時間のバッファには余裕がある。村の方に魔力の複数反応が感じ取れない。

まだ早い。ここで先にドラゴンを見つけて倒してしまえば、帝国は作戦を中断するだろう。

極端な話だが、野良ドラゴンが森の中で死んでいたという珍妙な話で終わってしまう。

帝国の工作部隊がアガートへ侵攻した、という『事実』だけは欲しい。その分ライルには負担を掛けてしまうが。

見極めがひどく難しい。私の匙加減でプランが崩壊してしまう可能性がある。

この位置で村から一分。同じ時間で戻れる保証はないので安全マージンとして倍の時間を計算しておく。

……来た! 村の方に大小さまざまな魔力の反応が塊のようになって現れた。やはり私たちのいる、ドラゴンを目撃したとされる方角と反対側に潜んでいたか。

「……始まったわ」

私の呟きに、アリアが真剣な表情を浮かべて頷く。ここからは時間との勝負だ。

アリアを背負い『魔力探知』を展開したまま森を縦横無尽に駆け巡る。今いる方角は自警団が得た情報と合っているが、残りの必要な位置情報のヒントは成人男性が半刻歩いて見つけられなかった範囲の外。

背中のアリアがまたヒロインが出してはいけない声を出しているが気にしない。とにかく魔力反応の大きなものを探す。まさかレッドドラゴンの保有魔力がその辺りの小動物と同一ということは考え難い。

五分ほど駆け巡ってようやく見つけた。村から十時の方向。大きな魔力反応がひとつだけということは、ドラゴンテイマーの類は同行していない。

そのまま気づかれない程度に目視できる距離まで接近。現実として目の当たりにすると、その巨体にある種の感動を覚える。

大型バスほどの胴体に、同等の長い尻尾と大きな翼。テニスコートニ面分を占めるほどの大きさだ。

ビンタで倒せる、と豪語していたがそれはあくまでもステータス上での話。私のビンタ一発で絶命する生物には見えない。

だがゴブリンに遭遇した時の結果を考えるとステータスは絶対だ。あの時は咄嗟にパンチしたらゴブリンの頭が爆発四散した。

そう考えると「図体がデカいだけのハリボテ」に思えてくる。

本来なら遊んでいる余裕はないが、私にとってはアリアの実戦テストも重要だ。なので五分だけ、アリアの実戦テストの時間とする。

「ブレスは無効、物理攻撃は私が全て受け止めるわ――だから」

背負った『開闢の斧』を両手に握り、アリアが頷く。


「全力で、あのデカブツを殴り倒しなさい」

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