アガート村防衛戦 6
「セット――メイン:ガーディアン、サブ:ネメシス」
誰に言うでもなく、私は呟いた。
ゲームシステムに干渉――というわけではない。私の意識の切り替えのためのルーティーンだ。
これまでにライルとの模擬戦や、お父様とのピクニック中に立ち寄った湖で偶然――あくまでも偶然だということにしておいて欲しいが、ゴブリンに遭遇した時も、エルファリア・ニヴ・バスティオンが取得できるジョブの名前を呟いてから臨んだ。
この宣誓をもって、私自身の意識に強い制限をかけている。
ちなみにこれは転生前から行っていたこと。オンオフの切り替えのようなものだ。
なので八歳児モードも『メイン:八歳のエリー、サブ:私』と声に出して宣誓していた。
だが伝道師のところでの動揺が分かりやすいが、結局のところは私は私でしかないので、許容範囲を超えた場合にはバランスが崩れる。
戦闘においては素のステータスが高すぎるので、これまでは自身に課したロールから逸脱しても問題はなかったのだが、今回はアリアと連携する必要がある。
恐らくアリアに実戦経験は無いだろう――それと、実際に人を殺したことも。
ステータスこそライルより高いが、身分的にはただの村娘でしかない。
もちろん私だってさすがに人を殺したことはないが、それでもゴブリンのような人形の魔物を倒している。
元が日本人の女子高生なら心理的な抵抗はあって当然だ。
最悪、相手が戦意喪失するまで痛めつけてくれれば問題ないが。
「……後は装備かしら」
私はライルの実家の、ライルのご両親のかつての寝室を、滞在中の私室として使わせてもらっている。
昼食後、アリアと再び遊ぶ――という名目の作戦会議の約束をしているのだが、不安点がひとつ。
私は廃プレイの結果のアイテムをコンプリートした状態での転生だった。つまり、全キャラの最強装備がある。どこにあるのかって?
「【ストレージ】」
空間魔法だ。ただしこの魔法は辺境伯軍の魔術師団の長であるお母様ですら知らなかった。
というよりは『異空間にアイテムを保存する』という概念が存在していないようだった。
これはもしかしたらステータスと同様に転生者特典なのかもしれない。ただ、アリアがこの【ストレージ】に気付いているかどうか。
気付いていたらノーマル時点での最強装備でも十分戦えるだろう。気付いていない場合は私のコレクションを使ってもらってもいい。
あれだけ間者を警戒していたのに気を許しすぎのように見えるかもしれない。それは私もそう思っている。
だが先程のアリアの態度からしてそれはありえないと判断した。アリアの『中の人』は良くも悪くも普通の女子高生だ。
これで私を騙しているのであれば相当な役者だろう。少なくとも無理して八歳児のフリをしている時の私よりは。
「現時点のライルにはヘタに良い装備は貸せないわね……」
未来の出来事を知っている理由を『未来視』という天啓のおかげ、と誤魔化しているように、私はライルに転生者だということを伝えていない。
というより、アリアが同じ転生者でもなければ墓場まで持っていくつもりだった。
ライルはあれでも辺境伯軍でも五指に入る実力者だ。素手と普通の服でも十分戦えるだろう。
そういう点では私も同様なのだが……実は転生してからずっと思っていたことがあった。
実際にフルスペックのエルファリアが暴れたらどうなるのだろう、と。
これまでに機会が無かったためできなかったが、今回試してみてもいいかもしれない。
その結果ライルに転生者だとバレても問題ない。原作と、転生してからの付き合いでわかるが非常に口が固いから、口止めしておけば口外しないだろう。
適当にガーディアン用の装備を見繕い、ストレージから取り出す。便利なことにサイズも八歳児の私に合ったものに変換されて出てくる。
守備力と各種耐性に優れた『聖カノーネの鎧』と、私のサイズに変換されているため大人からするとショートソードぐらいの長さだが、本来は片手剣の『暁光の剣』。
両方ともナイトとその派生ジョブが装備できる中では最高の性能だ。前世でこれらを複数入手した苦行はもう二度と経験したくないが。
ちなみに独立ジョブのネメシス専用の装備の方が性能はいいのだが、その……八歳児の私が装備するのは絵面的に非常に問題がある。
……いつかはアレを装備しなきゃならないのか。




