アガート村防衛戦 13
「お嬢が用意していた結論、アレは最初から予定してたのか?」
長丁場を覚悟していたのにな、と一歩後ろを歩くライルが尋ねてきた。
最終的な村からの陳情は私が提案したものと大筋では一緒だっただろう。ただ先の通り、内容の責任の所在や結論までの時間の問題がある。
そのぶん村人たちの心情の不安定さにも繋がる。
「ただまあ……お父様の名前を出したのはやりすぎたかしらね」
結果は出したが、手段としては減点。まだ最適解には届いていない。
そう、視察自体は許可されているものの私は正式な名代ではない。
ごく限られた権力は与えられているが、今回の事案は越権行為である。だが収束させるために私はそれを選んだ。
この話はさておき、体裁のためにも視察はしなければならない。明日の日程は視察に全てあてて、明後日の朝に出立という日程をライルに伝える。
先程の会議で自警団のハッサンと村長に、視察に同行してもらう旨を伝達済みだ。その間にライルには彼にしかできない『やるべきこと』をやって欲しい。
ライルは不思議そうな顔をしているが、これは私から指示を出すべき話ではない。ライルが自分で考えて、自分の意思で決めるから意味がある。
そろそろアリアが目覚めていてもおかしくはない頃合いだろうか。ライルの家に戻る前に一度顔を出しておく。
「あら、早かったわね。アリアならちょっと前に起きたわよ。エリーはどこって元気いっぱいで……」
リーシャは一息ついたのか、先ほどより穏やかさを取り戻している。あなた達の分もあるから食べていって、と台所で遅い昼食を作っていた。
「……あー、リーシャ、いやこれは、アリアも来てから、だな」
頭を掻きながらのライルの歯切れの悪い言葉に、リーシャは不思議そうな顔をしている。
……何を言おうとしているのかは私には想像つくが、あまりにも早すぎる。
思い切りがいいくせに煮えきらない態度に既視感があった。これは原作ゲームで見たイベントの焼き直しだ。
私たちの声に気付いたアリアが自室から顔を出し、そのまま卓へ歩み寄る。使い込まれた椅子を軽く引いて腰を下ろし、一夜前の様子が嘘のように笑顔でこちらを見た。
……さて。ここまで揃えばさすがに逃げられないだろう。
「あー、その、リーシャ……とアリア。俺と一緒に、領都に来ないか? 腕のいい薬師も知ってるし、アリアにもいい教育も受けてさせてやれる――それに、今回みたいなことがまたあったら、次は駆けつけてやれるか分からないし……」
……格好はつかないが言うべきことは言った、か。後はリーシャ側がどういう反応を示すのか。
「……その言葉って、そういう意味よね? ふふ、ライルらしいわ」
「あ、いやその、いやお前がまだアイツのことに未練があるなら――」
「未練……もちろんあるわよ。親に決められた相手とはいえ、幼馴染だもの」
でも、とリーシャは穏やかな笑みを浮かべる。
「あの後、ずっと考えていたのだけど……この村でアリアを育てるのは無理だわ。この狭い世界ではアリアの力をどう扱えばいいのかも分からない――だから」
リーシャは一度、深く息を吸う。
「……次もまた、守ってくれるわよね?」
ここでそれを言わせた時点で、勝負は決まっている。ライルは力強く頷いた。
アリアが、先ほどとは違う笑みを浮かべている。どこか意地の悪い――それでいて、妙に楽しげな。
「お母さんのセリフ、原作のあたしとほとんど同じなんだけど」
耳打ちに私も笑みが零れそうになる。
『……次はお母さんの娘じゃなく、あたしを守ってくれますよね?』という、原作のアリアの印象的なセリフ――似ているけど、同じではない。
上手く話はまとまったみたいが、それにしても当面はどこで暮らしてもらうのが適切だろうか。
ライルは軍の宿舎住まいだし、家を買うか借りるかにしてもなるべく私の視野から離れてしまうのも好ましくない。想定はしていたが、そこまで手が回っていなかった。
……我ながら詰めが甘い。
ひとまずは私の客人ということで、屋敷の別棟で暮らしてもらうのが好ましいか。そこなら私の目も届く。
「……ちなみにエリー、こうなるの予想していたの?」
「ええ。ライルが言い出さなければこちらから提案していたわ。それと――ようやく『たん』付けは止めてくれたのね」
私は今どういう表情をしているのだろうか?
――きっと、八歳児のそれではない。
私としての笑顔なのだろう。
第一章「アガート村防衛戦」、これにて終了です。




