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1.5章 結果と責任 前編

試験的に読みやすさ優先のため、セリフ毎での改行を行っています。

アガート村から領都への復路は、リーシャの体調を考慮しながらなので三日を要した。

今回の視察は移動と、そして帝国軍の襲撃のズレを考慮してニ十日間を予定していたので、予定よりも早い帰還となる。

最初の宿場町で早馬を出しておいたので、お父様や家令には今日私たちが戻ることは伝わっているだろう。

バスティオン辺境伯領都、ランドヴァルト。上空から見ると星型の城塞都市。

辺境伯領という防衛の要衝ならば、やはりこの形に落ち着くのだろう。ただし、高低差や射線の確保などが効率化されている。

これは『守るための城塞』ではなく『迎撃のための都市』だ。

中央にそびえる石造りの城を中心に、星のそれぞれの頂点ごとに都市機能が集約されている。

私が生活しているのは政治と軍事の中枢である城のすぐ側にある別邸。居住空間としての領主邸だ。

ひとまず正式な扱いが決まるまでは、アリアとリーシャは私の客人という扱いで領主邸の別棟で暮らしてもらうこととなる。

さて、その当のアリアはというと、原作ゲームではマップ画面でしか確認できなかったランドヴァルトの街にせわしなく視線を動かしている。

アガート村のような大らかな空気とは違う、かつての私たちなら慣れ親しんだ都市機構に近い水準。

もちろん王国の主要都市すべてがこういう都市機構なわけではない。これはバスティオン辺境伯の領都だけに見られる特徴。

……正直なところ転生してからずっとランドヴァルトで生活していて、何一つ不満がないということに驚いたのを思い出す。開発陣がそこまで深く考えていない、ゲームのご都合主義と言ってしまえばそれまでだが、いざ現実として考えると先進的な思想すぎる。この都市機構を作り上げたのは天才か、それともこの世界の外側の『同類』か。

そうだとしても断定する材料が足りなさすぎる。ただ、アリアと出会ったことで違和感が生まれた。

それはそれとして、前世のような生活水準を満たしているということはアリアにとってもいいことだろう。

さすがに庶民では無理だが、我が家や商会長の屋敷には水の魔石を組み込んだ水洗トイレやお風呂などもある。生活の質で不満が出ることはないはずだ。


「……こういう時って結構街の人から『エルファリア様ー』とか、街の人から声をかけられるのってテンプレだと思うんだけど?」


「私はいわゆる『お忍び』をしていないから、かしらね。お転婆だという自覚はあるけど、方向性が違うのよ」


「まあ、お嬢は屋敷抜け出して何やるかって言ったら、教練所に来て『誰か模擬戦の相手になってくれない?』だからな……ボスの目の届く範囲だからお咎めなしだけど」


まだ『お忍び』の方がマシだ、とライルはため息を吐く。私も不敬よ、と軽口で返す。

そもそも私の『中の人』は前世でもいい暮らしはしていた。それでもズボラ飯と称して茹でたパスタにレトルトカレーをかけるような人間だ。学校帰りに買い食いも日常茶飯事。

村の酒場でのように、市場調査や情報収集でしか『お忍び』はしないだろう。


「意外だわ。まだうちのアリアの方が大人しく見えちゃう」


それは単に村という狭い範囲だから大人の目が厳しいせいなのでは。恐らく私と同じ環境にいたらアリアも同じことをしている。

最初こそお父様に怒られたが、教練所での模擬戦に関しては許可が出ている。ただし淑女教育をちゃんとこなすことが条件として。

私が受けている淑女教育は一般的なそれとは違う。礼儀作法や教養といったものだけではなく、実務的な面にまで突っ込んだものだ。

八歳児に課すにはだいぶスパルタだとは思うが、前世の知識が通用する部分も多くあるので理解自体は難しくない。

ただし美術関係は前世からそうだったが、いつまで経っても上手くなる気がしない。馬を描いたつもりだが構造を意識しすぎた結果、やたらと角ばったトロイの木馬のような何かになり、お母様からは「……新手の攻城兵器?」と評されたぐらいには。

アリアとリーシャが声を漏らして笑う。ライルに至っては大爆笑だ。

やや緊張気味だったリーシャの態度が解れる。しばらくは私の客人として扱う以上、社会経験のあるリーシャにとってはどうしても身構えてしまうだろう。


「――っと、じゃあ俺は兵舎だからここで。お嬢、後でどうなったか教えてくれ」


教練所や兵舎――そして、士官学校のある区画への分かれ道でライルと別れた。

さて、ここからは私の仕事だ。早馬で別棟に母娘の部屋は用意させているが、お父様への手紙には事情までは書いていない。

そして村での出来事の報告――私が決めた事項を、お父様に納得させられるか。



「……入れ」


お父様の執務室の扉をノックすると、威厳と冷静さに満ちた声が返ってきた。


「エルファリア、ただいま戻りました」


一礼してから部屋の中へ。薄衣をまとった神秘的な絶世の美女と、白シャツの上からでもわかるほどの筋骨隆々で精悍な顔立ちの男性。

シルヴァハとバルドゥール――つまり私の両親だ。


「予定より早い帰りだったが、何があった?」


「視察の目的が早期に終了したからです。マナシルクの工房の視察、村の抱える問題点などは後ほど報告書を――」


「文書化は必要だが、まずは口述しろ」


少なくとも八歳の貴族令嬢が行うやりとりではないと思うが、私にとってお父様との会話はこれが自然だ。お父様にとって重要なのは年齢や立場ではなく、出てくる情報の質だ。

そして文書という形式を意識したものだけではなく、感情の乗った情報の鮮度が高いうちに回収する。


「マナシルクの工房に関して、生産規模の拡張は品質の低下が懸念されるため、これ以上不可能とのことです。また売値が王都の市場価格と大きな差があることも、村規模では裕福な生活を送れていることから、不満は無いそうです」


「こんなに着心地が良くて、魔法の付与にも高品質の素材なのにねぇ……もっと欲張ってもいいと思うんだけど?」


お母様が衣の裾をつまみながら言う。


「欲を出せば需要が減る――だが、改善はすべきだな。我が領に中央にも顔が利く商会が無い。それが最大の原因だ」


商会は信用の積み重ねで成立する。既存の流通網に対し辺境伯が介入すれば、問題は経済だけでは済まない。

私には思い当たる解決策はひとつあるが、原作知識を持つ私でも確実にそうなる、と断言できない時点で不採用だ。


「また、畜産を行っていないので事前情報通り、食生活は主に魚と野菜中心でした。そのぶん魚の調理方法は発展しており、生食も可能で美味でした。衛生管理と保存技術は想定以上に高い水準にあるので、領都の料理人でも参考になる点があると判断できます」


お母様の耳がぴくり、と動く。以前聞いたことがあるが、お母様の生まれであるニヴの氏族は湖や川で魚を獲っていたらしい。

ただ調理方法は焼くか煮るだけだったようなので、新たな調理方法には興味が惹かれるのだろう。


「生魚、か……私は抵抗があるな。だが村でそれが提供されているのであれば、いずれは広まっていくのだろうな」


お父様の言う通りで、近い未来にスシという私の『中の人』のソウルフードがこの国に伝来する。ただもちろん当面は珍品扱いで、好んで食べるものはそういないという扱いだが。


「食文化以外の文化面では聖堂による識字教育が行われており、住民の一部は最低限の読み書きはできると判断できます。娯楽として英雄譚の書物を楽しむ者も確認しています」


「……ほう、誰の物語だ?」


「『翡翠の剣』ことランディの物語でした」


邪悪な魔法使いによってもたらされた王国の危機のために立ち上がった英雄、ランディの物語。

『翡翠の剣』は実在し、今は確か王都の宝物庫にあったはずだ。

……ちなみに私の【ストレージ】には周回のたびに回収したものが二十振りある。


「まあ実際のランディは義憤に駆られたわけではないのよねぇ……同行した叔母がそう語っていたもの」


「その村人の教養の程度、および思想が分かる。評価に値する情報だ」


お父様の反応から、視察の報告としてはこのぐらいで充分だろう――さて、ここからが本題だ。


「では――お前の客人、あれは何だ?」

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