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第8話 変わり始める評価

 翌朝、食堂にて。

 俺はミアと同じテーブルで食事をしている。


「……」

「……」


 会話はない。 

 見張りと思われる騎士が二名、今朝から俺の周りをついて回っている。

 きっとゴドリーの差し金だろう。


(そろそろ食べ終わるし、部屋に戻って抜け出す準備をしたいけど……)


 ふと、ミアの方を見る。

 何やら、目配せを返された。


「先に失礼する」


 ミアはそう言って立ち上がった。

 その去り際に。


「……昨日と同じ場所で、先に行って待っているぞ」


 ミアは俺にだけ聞こえる声量で告げてきた。


 昨日と同じ場所。

 屋敷の近くにある林のことだ。

  

 各自で屋敷を出て現地集合。

 俺の状況を考えると、その方がいいだろうな。


 そんなことを考えつつ、俺は残っていたパンに齧り付いた。



 朝食を終えて自室に戻り、少し経った頃。


「ディオ様、授業の時間です」


 付きまとっていた騎士二名が、部屋の外から声を掛けてきた。


(さて。どうやって撒くかな)


 相手はゴドリーの指示で動く連中だ。

 

 加えて、今の俺は所詮子供だ。

 多少強引にでも、大人の力で連れていくつもりだろう。


「ひょっとして、いい機会かもな……」

「ディオ様? 何やら悪そうな笑みを浮かべてどうしたんですか?」


 リサリーが不審がって尋ねてくる。


「今まで木ばかりを標的にしていたからさ。そろそろ実戦的な練習をしてみたいと思っていたんだ」

「へ、変なことはしないでくださいね……! 私、まだクビになりたくないです!」

「リサリーは自分に正直だなあ」

「感心していないで、今から何をするか教えてください……!」


 リサリーは目を泳がせて焦っていた。


「まあ、安心してくれ。リサリーのクビが飛ばないように配慮はするから」


 俺がリサリーをあしらっていると、部屋の扉が開けられた。


「失礼します。ディオ様、支度が整い次第、授業に向かいましょう」

「ゴドリー様がお待ちっすよ」


 騎士たちは二人してずかずかと、部屋に入ってきた。


「……主の許可なく入ってくるって、アリなのか?」


 明確な身分制度の存在するこの世界においては、無礼に思える。


「細かいことはいいでしょう。それより、ゴドリー様を待たせる方が問題です」

「そうですよ。あの方は公爵家で一番の忠臣だから、もっと敬意を払った方がいいっすよ」


 どうも気に入らない。

 俺に対して軽薄な態度を取りつつ、ゴドリーを持ち上げるあたりが。

 こいつら、ゴドリーからいくら金を積まれているんだろうな。


「……魔法を試すには、やっぱりちょうどいい相手だな」


 俺は一人、呟いた。


「え?」


 近くにいたリサリーにも、聞き取れなかったらしい。


「さ、早くしてもらえます?」


 少しずつ、騎士の対応が雑になってきた。

 油断しきった様子で、俺に近づいてきたので。


「アクア・ストリーム」


 俺は二人の騎士に対して、魔法を使用した。


 アクア・ストリーム。

 殺傷力はなく、水によって標的を遠ざけることができる妨害系の魔法だ。

 規模もある程度絞っていたが、それでも。


「うおっ!?」

「ま、魔法……あのディオ様が……!?」 


 騎士たちは、俺が魔法を使うと想定していなかったらしい。

 おかげで完全に不意を突けた。


 二人は水流によって一気に部屋の外まで押し出され、廊下の壁に激突する。


 俺はその横を通り過ぎながら。


「無断でサボるのは駄目らしいから、あらかじめ宣言しておく。俺はおっさんの授業は今日も休んで、代わりに美少女と自習してくる……ってね」 


 無断欠席が問題なら、事前連絡してしまえばいい。

 俺は廊下に転がるゴドリー配下の騎士たちに、にやりと笑った。


「そ、そんな屁理屈はゴドリー様に通用しませんよ……!」

「それに、オレらをこの程度で止められると思ったら……大間違いだぞ!」


 騎士たちは顔をしかめながら、ゆっくりと立ち上がる。


 まったく、公爵家の後継ぎに声を荒げるなんて家臣としてどうなんだ。

 こいつらもいずれ排除しないとな。


「ちなみにこの水魔法は自習の成果だ。アクア・アクセル」


 俺は家中の状況を憂いつつ、もう一度魔法を使用した。

 水流によって走力を補強する魔法だ。


「あ……待て!」


 騎士がそう叫んだ時には、その声は遥か後方だった。

 俺は水魔法の補助を生かした猛ダッシュで廊下を駆け抜けていくと。


「お? まさか本当にオレの出番があるとは……!」


 エントランス付近に、もう一人ゴドリー配下と思われる騎士が待ち構えていた。


「アクア・ストリーム!」

「なにいい!?」


 俺は騎士に魔法の水流をぶつけて、その勢いで屋敷の正面扉をこじ開けた。

 後は追っ手を撒いて、いつもの抜け道に向かうだけだ。


 が、俺が派手に立ち回る様子は、ゴドリー配下ではない多くの家臣にも見られていた。


「あのディオ様が、魔法を……?」

「もしかしてあれが、昨日言っていた自習の成果なんじゃ……」


 通りがかったメイドの、そんな声が聞こえてくる。

 無能だったはずのディオが、魔法で大人の騎士を軽くあしらっている。

 その光景に、皆が驚いていた。


「さすがは公爵家の嫡男……やはり才能は超一流ですな!」

「しかし、だとしたらゴドリーは今まで、ディオ様にどんな教育を……」


 公爵家への忠義に厚そうなベテランの騎士からは、疑問が浮上していた。


 そして。

 正面扉を開けた先には。

 公爵家に最も長く仕える、執事のセバスチャンが佇んでいた。 

 まるで、俺がここに来ることが分かっていたかのように待ち受けていた白髪の老人は。


「お気を付けていってらっしゃいませ。ディオ坊ちゃま」


 どこか嬉しそうな顔で、俺を送り出してくれた。


「あ、ああ。行ってくる」


 俺はむず痒さを感じながら、またしてもゴドリーの授業をサボった。


 だけど今回は俺の評判が下がるどころか。

 むしろ、無能で怠惰だったはずの公爵家の一人息子が、自習によって魔法の才能を開花させたらしい、と。

 屋敷中が、その噂で持ちきりになった。



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