第7話 お姉さん師匠の気持ち(ミア視点)
SIDE ミア
私……ミアは公爵家に居候している。
今は与えられた部屋で、就寝の準備を整えている最中だ。
ベッドに横になってから、私は思う。
「ディオは本当に変わったな……」
ディオと初めて対面した時、まず感じたのは視線だ。
私のことを品定めするように、いやらしく下卑た視線。
公爵夫妻が立派な人物だったので、率直に言って驚いた。
どうやら子育ては上手くいっていないらしい。
ともあれ、私がディオ・ウィンターソンという少年に対して初対面で抱いた印象は、いいものではなかった。
公爵家で過ごしてみて、的外れではなかったと実感させられた。
「正直、ここに来たことを後悔していたが……考え直してもよさそうだな」
そもそも私がなぜ、魔界から人間界にやってきたのか。
きっかけは、父にして偉大な先代の魔王が陰謀によって死んだことだ。
表向きは病死だが、魔王が病に罹るはずがない。
本当は毒殺か呪殺だろう。
魔界は今、人間界との向き合い方で二つに割れている。
主戦派と穏健派。
私は難しい政治状況の中で、次代の魔王を継ぐことが決まっている。
悪魔族と人間の血を半分ずつ受け継ぐ私は、二つの種族と二つの派閥の間に立つ、唯一無二の存在だ。
「まさに板挟みだな……」
私は王位継承の前、先代の喪に服す四十日の間に、人間界に行って自分の行く末を見定めることにした。
亡き母は公爵家にゆかりのある人間の女性なので、ウィンターソン公爵家を頼った。
公爵家に滞在している間に、私は人間の醜悪さを身近で知った。
人間は利己的で、他者を顧みない。
無論、そんな人間だけではないと分かっているが、上に立つ側の者がこれでは、苦しむのは下の者だ。
人間は、何も知らなかった頃の私が思い描いていたような、素晴らしい理想の種族ではなかった。
そんな落胆が、私の心を埋め尽くしていたある日。
ディオが変わった。
初めは、ほんの些細なことだった。
まず、これまでの非礼を謝罪された。
元々のわがまま放題の姿を知っている身からすれば、別人になったような変化だ。
とはいえ、マイナスがゼロになっただけ。
しかも、ゼロになったのは私が許したからだ。
それでも、人間は変わることのできる種族らしい……と知れたのは良かった。
何千年の歴史の中で、変わることのできなかった魔界の者たちとは、その点で違っている。
可能性を、私はディオに見いだした。
それからの私は人間という種族よりも、ディオ自身に興味を持った。
興味がより強くなったのは、今日。
林で巨木をへし折って気絶したディオに遭遇した時だ。
ディオは破壊魔法の使い手だった。
固有魔法は、希少な力だ。
「しかし、私はその力自体よりも……」
自ら変わろうと努力しているディオの姿勢に、魅力を感じた。
ディオは本当に、興味深い。
誰かも知らずに、次代の魔王である私に師事しようとする貪欲さも面白い。
「よりによってこの私に魔法の師匠になってくれと頼むとは……本当に面白い少年だ」
その努力を手伝ってあげたいと思った。
その先に、ディオがどんな姿に成長を遂げるのか、見てみたいと思った。
だから私は、ディオの望みを受け入れた。
「私の弟子……か」
魔界には、友人や部下がいる。
だけど弟子なんて、初めて持つ。
「……うん。悪くない響きだな」
ディオが自分の弟子だと思うと、途端にかわいらしい少年だと思えてきた。
我ながら、手を繋いで帰ったのは。
「少し、甘やかしすぎたか……?」
ほんのりと、体温が上がるのを感じる。
まあ、相手は十二歳の子供だ。
きっとディオは、あまり気にしていないだろう。
帰宅してから、ゴドリーとかいう醜悪な人間の象徴みたいな男に邪魔されそうになったが、ひとまずは退けた。
明日からの訓練が、楽しみだ。
「ははっ……」
思わず笑い声が口から漏れ出して、気づく。
父が死んで以来、心から笑った覚えがなかった。
なるほど。
「……私は想像以上に、あの少年に魅入られているらしいな」
心の中で、日に日にディオが占める割合が大きくなっている。
私はそう、自覚した。
次回はまたディオ視点です。




