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第58話 女勇者は意外と褒められ慣れていない。

 俺はテトラと徒歩で街に繰り出した。


「はいこれ」


 テトラに聖剣を渡された。


「預かればいいの?」

「うん。さすがにこの格好で持ち歩くのは合わないし……代わりにディオが持ってて?」


 前に出かけたときは機能的な格好で帯剣していたけど、今日のテトラはドレスを着ている。 

 その中でも剣を持ち運ぼうとするのはテトラらしいな。


「そのドレス、似合ってるね」

「そう? 私としては、ひらひらした衣装は慣れなくて……」


 テトラはちょっと照れていた。


「もしかして、デートのためのおしゃれ着?」

「えへへ。姉さんにお願いして選んでもらったんだけど……こういう服も悪くないかも」


 テトラはドレスの裾を軽くつまんで、見返している。


「うん。かわいいよ」

「へっ……!? ディオって意外とストレートに褒めてくれるよね……」

「嫌だった?」

「……そうは言ってないけど」


 テトラは嬉しそうだった。




 ウィンターホルムの街を歩く。


「テトラは普段、ウィンターホルムを歩いたりするの?」


 思えばテトラが俺のいないところで、剣の訓練以外に何をしているかあまり知らない。


「こっちで暮らすようになってからは時々……でも通り過ぎるだけのことが多いかな」

「通り過ぎる?」

「だって街中じゃ剣を振れないでしょ?」


 ものすごく納得だ。


「あ、でも一つだけ行きつけの店があるの!」

「へー、どんなお店?」

「連れてってあげるね!」


 テトラに手を引かれてやってきたのは、街中でも傭兵などが集まるようなエリアの一番目立つ場所にある鍛冶屋だ。


(なんというか、テトラらしいな……)


 武具や農具を製造して販売したり、預かってメンテナンスするお店に、ドレスで入っていくなんて。


「おじさん、来たわ!」

「おお、嬢ちゃんいらっしゃい……って、珍しい格好してんな」


 筋骨隆々で気さくなひげ親父が出迎えた。

 この店の主だろう。


「今日はデートなの!」

「どうも」


 俺は軽く挨拶する。


「へー……やっぱ嬢ちゃんっていいとこの娘なんだなあ」


 普段のテトラは傭兵みたいな身なりをしているが、本職と比べたら清潔感がまるで違う。

 さらさらの髪や綺麗な肌をした女の子がこの店に出入りしていたら、とても目立つだろう。

 

「それで? 今日も剣のメンテナンスか?」

「前の剣は折れちゃったわ!」

「またか……嬢ちゃんの手に馴染む剣なんて、それこそ宝剣や伝説の聖剣クラスじゃないと無理だろうなあ」


 この店主、見る眼はあるらしい。

 テトラの行きつけだし、腕も信頼できそうだ。


「そこで新しい剣を自慢しに来たの!」

 

 預かっていた聖剣を、テトラが得意げに示した。

 俺は店主の前で、聖剣を抜いて見せる。


「なっ!? 嬢ちゃん、この剣はどこで……!?」

 

 店主は驚愕しながら、聖剣に見入っていた。


「もらったの!」 

「そっちの坊ちゃんから?」

「正確には、俺の父上からですけどね」

「アンタも偉いところのご子息みたいだが……これほどの剣を他人に渡せるような家なんて北部には……」

「あー、名乗るほどの者じゃないですよ」


 正体がバレそうだったので、ごまかそうとしたその時。

 鍛冶屋に新たな来客があった。 


「親父ー、俺の剣を見てくれ……って」


 来客の青年は、俺とテトラに気づいて。


「ディオ様とテトラ様……!? どうしてこのような場所に!?」


 驚きながら、名前を口にした。

 青年はウィンターソン家の騎士だ。

 俺たちは騎士団の訓練場に出入りしているので、顔見知りでもある。


 名前を聞いて、鍛冶屋の親父もさすがに気づいた。


「ディオ様と言えば、領主様のご子息では……」


 ディオ・ウィンターソンの名はどちらかと言えば悪い意味で有名だ。


「そしてテトラと言えば……まさか嬢ちゃんがあの「勇者」だったのか……!?」


 剣を元気に振り回すご令嬢なんて珍しい。

 テトラの正体も、あっさり露見した。


「あ? 勇者?」

「鍛冶屋に女の子なんて珍しいな……まさかあの子が?」

「ウィンターソン家で働いてる知り合いから聞いた特徴とそっくりだ!」


 他の客も、気づき始めた。


「おい皆、ここにあの「勇者」がいるぞ!」


 誰かが高らかにそう言った。


 俺たちの周りに、あっという間に人混みが形成される。

 傭兵や剣士だけでなく、その辺の主婦や通りすがりのメイドまで店の内外から野次馬が集まってきた。


「あーあー、すげえ騒ぎになっちまった」


 店主は顎髭を撫でながら、苦笑している。


「え、ええっと……?」


 テトラは事態を飲み込めず、困惑していた。


「えー、あのかわいい女の子が勇者様なの?」

「華奢な体格なのに、ドラゴンを一人で討伐したらしい!」

「そんなことできるの……?」

「知り合いの騎士が見たって言ってたぞ! 将来は最強の剣士になるって褒めちぎってた!」


 「勇者」としてのテトラの人気はすさまじかった。

 これもテトラが活躍した結果だ。

 本来は、素直に喜ぶべきことだろう。


(にしても、たった数日でここまで広がるものか……?)


 少しの違和感が、俺の中で芽生えた。


 その横で、別の話が聞こえてくる。


「隣にいるのは領主様の息子らしいぞ……」

「へえ、あれがあの……?」


 「あれがあの」。

 あまりいい意味ではなさそうだ。

 身近な人々の評価を改善することには成功したけど、世間に流れる悪い噂は依然として消えていない。


(ここは一つ、気前よく権力を使うか……)


 人に囲まれてテトラがあわあわと困惑している。

 これじゃあデートにならないから、この場を離れたい。

 俺は店主に金貨の入った袋を渡した。


「これだけあれば足りるかな?」

「あー、これは?」


 店主は訝しみながらも、とりあえず受け取る。


「この店にある武具と農具を全部、ここに集まった人たちにあげてくれ。お代は全部俺が払う」

「ほ、本気ですかい!?」


 店主の目がギラリと光った。


「ああ。これからもテトラのことをよろしくね」

「お任せください! いやあ、太っ腹な坊ちゃんだ!」


 鍛冶屋であり、商売人でもある店主はあっさり俺の話に乗った。


「さあ皆、この店の武具と農具は全部このディオ・ウィンターソンが買い占めたから、好きな物を持って行っていいよ!」


 俺は集まった野次馬たちに向けて、声を張り上げた。


「タダでもらえるってことか!?」

「ああ。これも外敵から身を守るのと、豊作のため。北部のために役立ててほしい。ただし、喧嘩にならないよう一人一つにしてね」


 無料でもらえる。

 そう聞くや否や、野次馬たちは店内に陳列された武具と農具に喜々として殺到した。


「どれでも一個タダなんて、ウィンターソン家の跡継ぎは気前のいい坊ちゃんだ」

「正直、あまり良い噂は聞かなかったが、噂はしょせん噂だな!」

「まったくだ、ディオ様万歳!」

「こんなかわいらしくて強い勇者と、優秀な跡継ぎがいたら北部も安泰だなあ」


 調子のいいことを言いながら、集まった人々は品定めを開始した。


 おかげで俺とテトラの周りにあった人混みはなくなった。


「さあテトラ。今のうちにお店を出ようか」

「そうね。たくさん人が集まってきて、びっくりしちゃった」


 テトラはまだ困惑している様子だ。

 ついこの前まで、剣を振るう変わった女の子として扱われていたのに、北部を危機から救った英雄として祭り上げられるまでに至った。

 これもテトラが努力を重ね、自ら道を切り開いてきた結果だ。

 

「やっぱりテトラはすごいね。この人気もテトラの頑張りの証だよ」

「そ、そういうディオだって……すっかり人気者じゃない」

「派手にバラマキをして、人気取りをした結果だけどね」


 民衆というのは調子のいい生き物だ。

 直接的な利益を与えたら簡単になびく。


「悪者扱いよりはいいでしょ?」

「まあ、それはもっともだね」


 悪者扱いの果てにあるのは死のみだからな。


「ふふ。でも「勇者」かあ。なんだか照れる……」


 テトラは今まで、剣を振ることを否定され続けてきた。

 逆に持ち上げられるのは、慣れていない様子だ。


(意外と自己肯定感低めなのかな……?)


 だったら、今日は思い切り褒めちぎって甘やかしてあげよう。


「ディオ、そんなに私を見つめてどうしたの?」



 じっと見ていたら、不思議がられた。

 さて、どうしてあげようか。

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