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第59話 女勇者は重すぎる愛情の証を残す

 鍛冶屋を離れてテトラとウィンターホルムを歩く。

 気づけば、諸侯やお金持ち向けの高級店が集まる地区に足を踏み入れていた。

 俺たちの身なりだと、こっちの方が溶け込めている。


「ところでテトラは、剣以外に好きなものとかあるの?」

「ディオ!」


 満面の笑顔と一緒に、テトラは返事した。


「ありがとう。それと、俺以外でって条件も追加で」

「えー? じゃあ、かわいいものとか」

「かわいいもの……そう言えばリサリーのこととか、めちゃくちゃ好きだよね」

 

 ものというか人だけど、いつも構っているイメージだ。


「ええ! かわいいは正義なの!」

「例えば……ああいうのは?」


 俺は近くにあったお店を示した。

 ファンシーなぬいぐるみの店だ。


「わああ……!」


 テトラは目を輝かせていた。

 ともすれば、聖剣を初めて見た時よりも。


 これは寄っていくしかない。

 ということでお店に入る。


 様々なモチーフや大きさのぬいぐるみが、多種多様に取り揃えられていた。


「こんなにかわいいで満たされた空間が現実にあるなんて……!」

「いらっしゃいませ。何かお探しでしょうか?」


 感動していたテトラに、すかさず店主と思しきマダムが寄ってきた。


(誰にでもこの調子なのかな?)


 子供相手にも丁寧な接客。

 北部一の都市だけあって、お店も一流だ。


「この店で一番かわいいぬいぐるみを教えて!」

「でしたら、こちらに特別な品があります」


 すっかり高揚しているテトラを、マダムは案内する。

 装飾に宝石が用いられた、特に高級そうなぬいぐるみばかり陳列されている。


 なるほど。

 マダムは俺たちを上客だと判断したらしい。


「テトラの好きなぬいぐるみを買ってあげるよ」

「いいの!?」

「もちろん」


 鍛冶屋でばら撒いてしまったけど、まだ小遣いは有り余っている。


(宝石で装飾されたぬいぐるみなんて、とんでもないお値段がしそうだ……)


 けど、背に腹は代えられない。

 今日は思い切り甘やかすと決めている。

 テトラをもっと笑顔にするために、奮発しよう。



 

 結局、テトラは猫と兎のぬいぐるみを選んだ。

 一つ一つが、ウィンターソン家で働く使用人の一ヶ月分の給料と同程度のお値段だ。


(金銭感覚も、授業を受けていなかったら分からなかったな……)


 そういう意味では、役に立って良かった。


 店を出て次に向かったのは、街の中心にある噴水広場だ。

 聞いた話だと、定番のデートスポットらしい。

 噴水横のベンチに、二人で腰掛ける。


「この猫は姉さんで、兎は私なの!」


 買ってあげたぬいぐるみを、テトラは機嫌良く見せつけてくる。

 日頃は剣を振り回しているテトラだが、意外と少女らしい趣味も持ち合わせていた。


「イメージするならそう、ってことかな?」

「うん! だけど……どうして買ってくれたの?」


 テトラがおもむろに、疑問を投げかけてくる。


「もちろん、好きな人に贈り物をして喜ばせたかったからだよ」

「じゃあ大成功ね!」


 テトラはぬいぐるみをぎゅっと抱え込んだ。


「テトラが隣にいると癒されるな……」


 何せ、前世だと隣どころか敵対していた程だ。


「え」

「なんというか、一緒にいると安心する」

「そ、そう……?」

「仲良くなると素直で優しくて、かわいい姿をたくさん見せてくれるところが好き」

「さっきから、急にどうしたの……?」


 褒めちぎっていたら、テトラが照れた。

 それでも顔は背けずに、まっすぐ俺を見つめ返してくる。

 

「今日はとにかくテトラを褒めて甘やかしたい気分なんだ」

「えー……なにそれ」


 困ったような表情をしつつも、口元は緩みきっている。


「じゃあ、私も言い返す!」

「何を?」

「私がディオを好きな理由!」


 そうしてテトラの反撃が開始する。


「私より強くてかっこいいから……はもちろんだけど、意外と誠実で、しかも努力家で」

「意外と……?」


 いやまあ、文句を言える立場じゃないか。


「それに私の気持ちとか、してほしいことを全部くみ取ってくれるし……好きにならない理由がないでしょ?」

「めちゃくちゃ高評価だ……けど、俺の婚約者が三人なのはどう思っているの?」


 初めて話を聞いた時から、確認しておきたいと思っていたことだ。


「そもそもディオのお嫁さんになりたいって言い出したのは私だし?」

「確かに言ってたね」


 姉さんと一緒に嫁にしてくれなんて、冗談半分の話だと思っていたのに。


「お義父さまにも私から提案したのよ? 北部のために役立ちたいです! って」

「テトラは立派だね」

「んー、本当は大好きな人のお嫁さんになるチャンス! って思っただけ!」


 テトラは清々しい笑顔を見せつけてきた。


「テトラって、案外したたかだよね」

「……迷惑だった?」

「まさか、俺もテトラのこと、大好きだよ」

「へへ。私もー」


 テトラは俺の肩にもたれかかって、すりすりと頬を寄せてきた。


「とにかくディオは、姉さんと私を幸せにしてくれたらおっけーだから!」

「テトラは楽観的だなあ……」


 婚約者が三人なんて、どんなに簡単な話でもない気がする。


「ミアさんもいい人だし、ディオの大切な人って分かるし……私も最近は仲良しだから、もう一人の姉さんみたいに思ってるのよ?」

「ミアとも仲良しで良かったよ」

「うん。でも……」

「でも?」


 含みのある言葉が聞こえてきたので、横を見る。


「姉さんを不幸にしたら絶対許さない……かも?」


 テトラは相変わらず笑顔だ。

 そこはかとなく怖さを感じたのは……きっと前世の感覚が微かにに残っているからだ。


「ちなみに、どんなことをしたら許されないの?」

「他の女の子に手を出す……とか?」

「うっ、信用がないな……」

「だってディオって女の子大好きで有名でしょ? 女の子を触ってるところも、たくさん見たことあるし!」

「それもそうか……」


 信用がないのも当たり前だった。

 記憶を取り戻す前の俺が、やらかしすぎている。


「私だったら大丈夫だから、ね?」


 甘い誘惑。

 かわいく振る舞うときのテトラは破壊力抜群だ。


(……ちゃんと意味とか分かってるんだろうか)

 

 ほのかに危うさを感じつつも、俺はテトラを抱きしめた。

 テトラの手が、背中に回される。


「へへ。なでなでしてあげるー」


 背中を撫でられた。


「くすぐったいな……」

「あ、そうだ」

「うん? 何か思いついたの?」

「「ディオには相手がいるから仲良くしすぎちゃダメだぞー」って分かるように、印をつけておくね」


 印ってなんだろう。


「ちゅー」

「いてっ」


 疑問に思っていたら、そこそこ強めに首を吸われた。


「へへ。やっちゃった」

「いったい何を……」

「私の固有魔法……大したことないけど、初めて役に立ったかも」

「うん? 固有魔法で俺に何かしたの?」

「ほら見て!」


 テトラは噴水の水面を指した。


 俺の首筋に、うっすらと模様が浮き上がっている。

 一対になって向き合う、目を細めた猫と耳を立てた兎。

 猫は知性の象徴で、兎は勇敢さの象徴。


「これって……ハルシオン家の家紋だよね」

「ええ! ディオは物知りね!」


 まあ、さっきタウンハウスで直接見たからな。


「ちなみに……消えるの?」

「私の固有魔法は、ちゅーってした場所に絶対消えない家紋を残すのよ!」

「つまり消えないんだ」


 確か原作のテトラルートだと、女避けと称して主人公にマーキングするシーンがあったな。

 テトラは付き合うと独占欲が強いタイプのヒロインだった。


 今はトリアとミアという例外が存在しているし。

 原作と違いすぎる未来に進みつつあるが、それはさておき。


「ものすごく目立つ場所だな……」

「うん! これでディオが誰のか一目で分かるから、他の女の子も遠慮するよね」

「しかもここって……」


 ちょうど、前世でテトラに首を撥ねられた際に剣が通った位置だ。


 まるで、何かやらかしたら暁には「そこに向かって剣を振るからね」と言われている気分になる。


「ディオ? どうしたの?」

「……なんでもない」


 テトラの目が少し据わっているように見えるのは……気のせいだよな?

 俺は重すぎる愛の証を指でなぞる。


「身近な子だと……リサリーに手を出したりしちゃダメよ? 私と姉さんのかわいいメイドさんでもあるんだから」

「は、はい」


 でもリサリーは獣人で、将来は発情期とかあるんだよな。

 いざ発情期を迎えたときに放置したら、大変なことになってしまう。


 ……どうしよう。


「この前のルカみたいに、男の子と仲良くなるのがオススメね」


 狩猟大会前日のパーティーで会った、商会長の子。

 ルカは男装しているが、実は女の子だ。

 しかも将来は超がつくほどの美少女になる原作ヒロインの一人。

 今後も仲良くしていたら、魅了の魔眼で困ったことになりそうだ。


(あれ? もしかして俺って、まだ死の危険を回避できてない?)


 女の子たちを幸せにして、俺自身も平和な暮らしを手に入れる。

 その目標は、まだ達成できていないみたいだ。


「何はともあれ、まずは二週間後の結婚式ね。姉さんの花嫁姿、楽しみー!」


 先行きは、少しだけ不安だ。

 それでも、期待に応えたい。


 俺が密かに、決意を固めていると。


「そうだ、忘れてた」


 テトラがおもむろに呟いた。


「どうしたの?」

「ディオ、ちゅーして!」


 デートして、キスをする。

 そういう約束だった。


 だから俺は。

 テトラの唇にそっと、キスをした。


「……私のはじめてだ」

「それは……ごちそうさまです?」

「へへ、なにそれ」


 確かに今のは妙なことを口走ったかもしれない。


「ねえ、ディオ」

「どうしたの、テトラ」

「色々言ったけど、私はディオのこと信じてるからねっ」


 疑うことを知らない、純真な笑顔。


 前世で絶望し、俺の命を終わらせた女勇者は。

 今世では俺に全幅の信頼を寄せてくれている。

 だからこそ。


 必ず幸せにしてみせる。


次回から十七歳編がスタートします!

十二歳編の最後の方では皆がやたらハーレムに肯定的だったと思うのですが、ここから少しずつ歪みが……?

ヒロインたちの激重な一面が見られつつも、お話としてはドロドロしない甘くてかわいらしい感じのラブコメを展開していく予定です。


新たな局面を迎えたディオのハーレムをお楽しみに!

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