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第49話 裏切りの騎士を処刑する

 北部特別管理区。

 ウィンターソンの領内でも僻地に位置する広大な森林だ。


 外縁部に特殊な結界が張られており、強力な魔の出入りを封じている。

 危険度の低い魔物は入れるが、出られない。

 野生動物や人間は出入り自由だ。


 森の中は人の手が入っており、迷宮のような構造で木々や舗装のない道が整備されている。

 その他にも、今回の野営地のように集団が滞在できる広い空間が点在している。


 ウィンターソン家では騎士団の演習などで使われる場所の一つだ。

 今回の狩猟大会はこの北部特別管理区の中で行われる。


 狩猟大会は、魔物や動物を何体倒せるかを競う。

 とはいえ、ほとんどは実戦経験の乏しい少年たち。

 狩りやすい草食動物を何体か狩って、魔物にはほぼ挑まないのがセオリーだ。

 もちろん、例外も存在する。


「よーし、これで二十体目!」

「さすがテトラ、ハイペースでどんどん狩ってるね」


 大会開始から三十分。

 テトラは聖剣で次々と魔物を狩っていた。


「でも……ディオの方が大きくて強そうな魔物を何体も狩ってたよ?」

「そうかな?」

「そうだよ! でも、ディオのそういうところが素敵だった……へへ」


 テトラは俺の戦いぶりに見惚れていたらしい。

 自分も魔物と戦いながらなのに、余裕だな。


 その後も引き続き森を駆け回って、魔物を倒していると。

 

「うわあああ!」

「魔物だ、魔物!」

「やべえよやべえよ!」


 さっき絡んできた悪ガキどもが、大蛇のような魔物に襲われそうになっていた。

 魔物は体長三メートル近くある。

 確かに大きいが、比較的気が弱い種だ。

 それでも、叫びながら背を向けて逃げたり腰を抜かす悪ガキどもを前にしたら、獲物と認識するだろう。


(あいつらには荷が重いか……)


 俺は襲われている横から姿を現して、魔物を切り捨てた。


「おい、大丈夫か?」


 俺は魔物が死んでもなお放心状態の悪ガキどもに話しかけた。


「まさかディオに助けられるとは……」

「なんだその微妙な反応は」

「命の恩人でしょ! ディオにちゃんとお礼を言いなさい!」


 呆れていたら、テトラが代わりに叱ってくれた。


「……ありがとう」


 一人がそう言うと、他の奴らも礼を言った。


(一応感謝の心は持ち合わせているみたいだ……)


 原作や前世のディオよりマシかもしれないと思っていたら。


「なあ、ディオサマが有能なら普通に従うべきじゃないか?」

「ディオ嫌いで有名だったテトラは懐柔されて、いい剣をもらってるし……」

「元々、俺も父さんに言われてたんだよな。ディオ様の近くにいたら得するから媚を売っておけって」


 悪ガキどもは顔を見合わせて話し合っている。

 ずいぶんと打算的だが、害を及ぼす気がないなら許容範囲だ。




 その後。

 悪ガキたちが兎を果敢に追いかけ、森の中へ姿を消したところで。


「ディオ、調子はどうだ」


 どこからか、ミアが現れた。


「こっちは順調だけど……そう言えばこの森の結界って、強い魔を弾くはずだよね?」


 ミアはどうして入れるのか。

 テトラの前なので直接的なことは口に出さず、聞いてみる。


「私も一応、ウィンターソン家の血を引いているからな」

「なるほど」


 だから魔王でも結界内に入れるのか。


「それより、そろそろ作戦開始だ」

「ドリスは予定通りの場所に?」

「ああ」


 ドリスは結界内で捕らえた魔物を、森のど真ん中で魔法薬を使って凶暴化させるつもりだ。

 ウィンターソン家の者が常に監視していたので、魔物を閉じ込めた檻とドリスの現在地は把握済みだ。

 騎士団が表立って動くと敵に勘付かれる可能性がある。

 だから狩猟大会で森の中にいても違和感のない俺たちが密かに対処する。

 そう、俺は進言していた。


○


「さあ、大人しくしろ」


 俺たちはドリスの計画を阻止した。

 檻の魔物を迅速に仕留めて、ドリスの動きを水魔法で封じて捕らえる。


「な、なぜここが……!?」

「質問をするのはこっちよ!」


 顔以外を水の檻に閉じ込められて身動きが取れないドリスに、テトラが告げる。


「さて、ドリスとやら。自白剤を使われたいか? それとも拷問がお望みか?」 


 ミアが小瓶をちらつかせながらドリスを軽く脅すと。


「……いいだろう! 我々天使教が耐え忍ぶ日々はまもなく終わりを告げる! 何故なら、天使様が今日ここで魔を討つと定められているからだ!」


 ドリスは臆することなく、犯行声明みたいに堂々と宣言した。


「魔?」

「ああ! この特別区を悪魔族の王が急襲し、それを天使様が撃退するのだ!」


 悪魔族の王。

 ミアのことだろう。


「魔王はそんなに暇じゃないと思うよ」

 

 襲うどころか、ミアはウィンターソン家に協力的だ。


「天使教が悪魔族を敵と見なしてるのは理解したが……それでなぜ公爵を狙う」

「ウィンターソン公爵は魔と通じていると噂を聞いた! 人間の主である天使様を裏切った、許されざる行為だ!」


 ミアの問いに、ドリスは吐き捨てる。

 目の前の相手が魔王だとは、知らないらしい。

 それにしても、こいつは。

 噂で人を殺そうとするのか。


「いいか? 裏切ったのはお前だ」

「ああ、嘆かわしい……! ウィンターソンは、天使様のご威光を忘れる愚かな家に落ちぶれてしまった!」

「私欲のために人間に害を与える姿しか見せない、天使の問題だろう」


 大体、父上が魔と通じているとは言うが。

 ミアと協力関係を築いているのは、北部と人間界の平和のためだ。


「公爵を狙う理由は分かったが、なぜ今日ここで? 他にも方法があるのでは?」


 ミアの疑問はもっともだ。

 暗殺を試みるなら、特殊な結界のある森の中ではなく、他に適した状況がありそうだ。


「天使様の顕現と天使教復活のためには、我らが倒すべき敵と、劇的な舞台を用意する必要がある!」

「……舞台?」

「筋書きはこうだ! 北部を守護するウィンターソンが失態により森の結界を解除する! その隙に悪魔族の王が攻め込み、愚かな公爵は死ぬ!」


 ドリスは高らかに嗤い、言葉を続ける。


「北部の人々が危機に晒されたその時、天使様が現れてお救いくださる! そうして天使教は人々の信仰とかつての栄光を取り戻すのだ!」


 天使教の復権。

 目的は分かった。

 その手段はとんでもない自作自演だ。


「他に何か言いたいことはあるか?」

「俺は天使様を信じている! 天使教万歳!」


 狂信者の裏切り者。

 情報は聞き出した。

 放置しておくと、何をしでかすか分からない。

 だから生かしておく理由がない。


 ミアも同じ結論に至ったらしい。


「私が手を下そうか?」

「いや、これはウィンターソン家の問題だ。俺がやるよ」


 父上からも許可は得ている。

 俺が手を下すことをあまり望んでいない節はあったが、覚悟は決めている。


「できれば、テトラはあっちを向いていて?」

「大丈夫。私も見届けるわ」


 テトラは真剣な眼差しを、俺から逸らさなかった。


「……分かった」


 俺は剣を抜いて、魔法で拘束したドリスに向き直る。


「待て、何をするつもりだ」

「当然、お前の処刑だ」

「処刑……? あり得ない! 俺はただ天使様のために……!」


 ドリスはこの期に及んで、威勢が良い。


「お前はウィンターソン家に仕え、北部を守るべき騎士だった。それが主の命を狙い、北部に動乱を引き起こすなんて、許されない」

「ふざけるな!」

「お前には、死がふさわしい」


 俺は水魔法を制御して、ドリスの頭を垂れさせる。

 首を撥ねるには、ちょうどいい位置だ。


「お、おい……まさか本気で……?」


 顔が下を向いたことで、ドリスは不安になったらしい。

 自分の死が、急に現実味を帯びてくる。

 俺も前世で味わったことのある、あの感覚。


「改めて聞くが、何か言い残す言葉はあるか?」

「や、やめてくれ! 俺はまだ……」

「……なさそうだな」


 俺は剣を振り下ろし、ドリスの首を斬った。


「天使様とやらは、助けてくれなかったな」


 俺は転がる首を一瞥してから、ミアの方を向く。


「次はレオーネの方に行かないとね」

「ああ。レオーネがドリスから渡されたのは、おそらく結界を破壊するための何かだ」

「でも、どうしてレオーネを利用したんだろう?」

「あくまで可能性の域を出ないが……ウィンターソン家の血を引いていることが重要なのだろう」


 要するに、ウィンターソン家の血を引く者の中で、レオーネが一番扱いやすいと判断された。

 原作や前世では、おそらくその立ち位置にはディオ(俺)がいた。

 他人から都合よく利用され、搾取される存在。


(死ぬ運命を回避した代わりが今の状況か……)


 少しだけレオーネに同情してしまう。

 過去の自分が、どうも重なる。


「……ともあれ、ドリスが失敗したと敵に気取られる前にこちらから仕掛けよう」


 もうすぐ天使が現れる。

 俺たちを罠に嵌めて思い通りに操っていると、ほくそ笑んでいることだろう。

 だが、罠に嵌まるのは向こうだ。


 これも全て、父上のため。

 俺自身が、皆と幸せに暮らすためだ。

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