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第46話 女の子たちにベッドで癒やされる。

 レオーネと騎士の密談を目撃した後。

 俺はルカをパーティー会場にいる商会長の元に送り届けた。


 その後、父上の執務室にて。

 見聞きした内容を、ミアと一緒に報告した。


「その騎士は分隊長のドリスでしょう」


 父上の横で話を聞いていたアラクシスが補足した。


「父上、どうしますか?」


 ウィンターソン公爵を殺す。

 狩猟大会に乗じて大それた計画を企てる者がいる。

 そのためには相応の戦力、あるいは仕掛けが必要だ。


「明日の狩猟大会で何か起きる可能性がある以上、中止が一番安全だろう」


 大会を強行した場合、多くの犠牲が出るかもしれない。

 父上の判断は妥当に思えた。


「よろしいのですか? 敵の尻尾を掴む好機を逃すことになりますが」

「狩猟大会に参加する、未来ある子供たちを巻き込むわけにはいかないだろう」 

「会場警備を厳重にすれば被害は最小限にできます。何より……未来の話をするのであれば、今動くべきです」


 アラクシスはなぜか俺の方を見ながら、強く主張した。


「……狩猟大会は予定通り決行だ」


 父上は逡巡の後、意見を変えた。


「非参加者の集まる野営地は移設しますか?」


 野営地と言っても諸侯などが集まり、参加する我が子の活躍を待ちながら宴会をするような場所だ。

 実質的には今日のパーティーとやっていることは大差ない。


「移設は無しだ。警備は可能な限り厚くするが、敵に気取られない程度の動員にとどめろ」

「公爵? 敵を誘い出すためとはいえ、リスクが大きいのではないか」


 らしくない判断だと思ったのは、俺だけでなくミアも同様だった。


「承知の上だ。ここで我々から仕掛け、敵を暴き、叩く」

「最初にあの二人を泳がせた私が言うのもどうかとは思うが……勝負を急いでいないか?」

「私にとっては、ここが勝負所だ」

「公爵……?」


 ミアは疑念を抱いているようだった。

 どうも、父上の様子がおかしい。


「アラクシス、支度に取りかかれ」

「はっ」


 アラクシスとは、認識が一致している様子だ。


「ドリスとレオーネはどうしますか?」

「ドリスは気取られないよう監視をつけて泳がせろ。具体的な計画や背後関係を探りたい」

「承知しました」

「レオーネは……事前に確保しろ。危険な策に子供を利用するような真似はできない」

「……分かりました」


 アラクシスは小さく笑った。

 徹底するならレオーネも利用した方がいい。

 しかし、父上には明確な線引きがあるようだった。


「ただし、ドリスにはレオーネの確保を悟られるなよ。奴らの策が順調だと思わせるのだ」

「では、そのように」


 アラクシスは父上の支持を受けて、退室した。


「それが決定ならば……私も協力しよう。ウィンターソン家を狙う脅威は、私にとっても敵だ」


 ミアは完全に同意したわけではないらしいが、腹を括っていた。


「君の助力を得られるなら頼もしい」


 父上はそううなずいた後。


「すまないが、ディオと二人にしてもらえるか?」

「分かった。ではディオ、また後でな」


 そうして俺は、父上と二人きりになった。


「座りなさい」


 促されるまま、ソファーに座る。


「ディオ、最近調子はどうだ?」

「どうだろう……多分、いいと思う」


 急に世間話が始まった。


「小さなレディーたちに囲まれながら己の才覚を存分に発揮する……確かに充実しているだろうな」


 笑われた。

 緊迫した面持ちで指示を出していた先程とは打って変わって、和やかな雰囲気だ。

 やはり父上は、いつもと様子が違う。


「父上、どうしてアラクシスに言われて意見を変えたの?」

「私には、悠長に敵を探す時間が残っていないからだ」

「……どういう意味?」

「ディオには言っていなかったが……私は病でな。もって半年と言ったところだ」

「そんなはずが……!」


 父上……ウィンターソン公爵は、原作では少なくともディオが十五歳の時に事故死するまでは生きていた。

 何かがおかしい。


「近頃、体調が優れなくてな……オルクスに診せたところ、発覚したのだ」

「オルクス先生が?」

「オルクスはな、私の友人であり医者だ。あの男が言うのだから、もう長くはないのだろう」


 父上はオルクス先生を信頼していた。

 どうやら何かの間違い、ではないらしい。


「でも、何か問題があるように見えないよ?」

「体内では魔力が急激に減り続けている。今は薬で補充しているが……最終的には体内の魔力が全て失われ、その時は死に至る」


 受け入れがたい現実を、突きつけられた。

 アラクシスは知っていたからこそ、作戦を進言したのだろう。


「私は未来のために、今回の策に賭けることにした」


 父上は執務机を離れて、俺の隣に座り直した。


「未来?」

「ああ。未来とはディオ、お前のことだ」

「俺に……」

「ディオが遠くない未来にウィンターソン家を継いだ時、危険に脅かされることのないよう、私が敵を打ち払っておく」

「俺が、この家を……継ぐ?」


 実感がわいてこない。

 いつかはそうなるだろうと思って、自分を鍛えてきたのに。


「当然だ。ディオは私の子なのだから」

「でも、俺は無能でろくでもないガキって言われていて……」

「ディオはその評価を覆した。十分、信頼して託すに値する、私の立派な息子だ」

「あ……」


 言われて、感情がこみ上げてくる。

 俺は本来のディオとは別人のはずだ。

 ここはゲームの世界で、日本で社畜として生きてきた記憶があるはずで。


 それでも、この人は俺の父上なんだと、心が揺さぶられる。


 ああ、まずい。

 泣きそうだ。


「どうした、その顔は。偉大なウィンターソン家の当主になるのだぞ? もっと喜べ」

「お、俺……頑張るよ。まずは明日の狩猟大会で誰にも文句を言わせない活躍をして、敵が現れたらそいつらも俺が……!」

「良い心がけだが、あまり張り切りすぎるな」


 背中を優しく叩かれ、なだめられた。


「でも」

「ディオがウィンターソン家の当主になるとは言ったがな。私にとっては、ディオが世間から認められる次期公爵になることより、大切な人たちと笑顔で過ごせていることの方が重要なのだ」


 言われて思い浮かんだのは、皆の顔だった。

 ミア、トリア、テトラ、リサリー。

 女の子たちを幸せにして、笑顔で一緒に過ごしていたい。

 それが俺の願いだ。

 今更ながら、はっきりとそう自覚した。


「せっかくだ。今日はトリアとテトラをこの屋敷に泊まらせていきなさい」

「え?」

「警備上の理由もあるが……ディオにとって、大切な人たちなのだろう?」


 こういうことを父親に言われると照れくさい。


「……」


 それでも俺は、首を縦に振った。

 ウィンターソン家の婚約者を安全な場所に置いておく意図もあるだろう。

 だがそれ以上に、父上の気遣いを感じた。


○


 夜。

 トリアとテトラが俺の隣の部屋に泊まることになったが。


「いつかはあの扉を通ってディオ様がわたくしの元に……ふふ」 

「わあ! やっぱり公爵家のベッドはふかふかで大きいのね!」


 連絡扉を通って、早々に俺の部屋を訪れていた。

 双子は俺のベッドの上に座り、寝間着姿ではしゃいでいる。


 二人とも裏で起きている出来事なんて知らず、いつも通りだ。


 その姿を見ていると、なんだか癒やされる。

 それどころかもう、抱きしめたくなってきた。


 だから俺は二人を勢いよく抱きしめた。

 結果、まとめて押し倒したみたいになった。


「まあ、ディオ様……?」

「私たち、まだこういうことは早いんじゃない……?」


 何か勘違いされた気がするけど、まあいいか。 


「ごめん、今はこうさせてくれ」


 トリアとテトラを両脇に抱えたまま、ベッドに寝転ぶ。


「今日のディオ様は、なんだか甘えたがりですね?」

「もしかして明日の狩猟大会で緊張してるの? ディオもそういうところあるんだ」


 双子は当たり前みたいに受け入れてくれて、俺の頭を撫でてくれる。

 それがまたかわいくて、離したくなくなる。

 二人の髪が両側から頬をくすぐってきて、心地良い。


「もう、そんなにくっつかなくても、わたくしたちはここにいますよ」

「別に、好きなだけくっついていいけどね……?」


 そうして双子の温もりを堪能していたら。


「ディオ様、失礼します! ミアさんが来ましたよー」


 元気な声に合わせて、部屋の扉が開いた。

 ミアとリサリーだ。

 ベッドに寝転ぶ俺と双子を見て。


「ふむ?」


 と目を瞬かせるミアと。


「わあ」


 と楽しげなリサリー。


「……どうやらディオは色々あって、疲れているらしいな」

「そうなんですか? では癒やしてあげないとですね!」

「ああ、そうだな」


 何かあったと、察してくれたらしい。

 ミアとリサリーはベッドの方にやってくる。


「さあディオ。私の脚を枕にするといい」

 

 ミアは俺に膝枕してくれた。


「わーい! 私も混ざります!」


 普通に楽しんでいるリサリーが、俺の上から抱きついてきた。

 つい、俺の口元に笑みがこぼれる。

 

(大切な人たちと笑顔で過ごせていることの方が重要、って父上は言っていたけど……)


 もしかしたら、こういうことなのかもしれない。


 今は、皆の優しさが身に染みる。


 多幸感に浸りながらまぶたを閉じようとした、その時。


「あ、ディオ! せっかくのお泊まりなんだから、まだ寝ちゃダメよ!」


 ぽす。

 テトラが顔に枕を投げてきた。


「確かに……もう少し楽しまないと、もったいないか」


 いつの間にか傷心から回復した心が、踊っていた。


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