第45話 怪しげな企みの中、猫は魔眼で「にゃーん」と鳴く
レオーネと、ウィンターソン家の騎士と思しき男が人気のない場所で密談している。
怪しい気配しかしない。
(あの騎士、見覚えがあるな)
前にテトラの訓練参加を否定していた分隊長だ。
ゴドリーとの繋がりが疑われた男。
「それで? どうしてオレを呼び出した」
「レオーネ様の処分が不当だと考えている者は公爵家にも少なくありません」
「そうなのか?」
一応は警戒していた様子だったレオーネの表情が和らいだ。
「ええ。レオーネ様のご活躍は公爵家でも知られています。同世代の中では強力な炎魔法の使い手で、コンクールで上位に入ったとか」
「ああ、そうだ」
レオーネはおだてられて調子に乗っているが、謹慎処分の理由とこれまでの実績は関係ない。
「それに比べてディオ様は……最近こそ真面目ぶっていますが、結局はただの女好きです。この前も騎士団の訓練に女のガキを加えるという前例のないことをしでかして」
「はっ、あいつらしいな」
あの騎士はテトラを訓練に参加させたことを根に持っているらしい。
「女好きで風紀を乱す直系より、傍系でも優秀な方を……という声もあるのです」
「まさか、オレを次期公爵に?」
レオーネの言葉に、騎士は返事をせずニヤリと笑った。
「そのためにはまず……オレの謹慎を解く必要があるよな。何か公爵を納得させる手があるのか?」
「謹慎を解くどころか、周囲の評価を一変させるような大逆転が可能です」
騎士はな大仰なことを言っている。
俺が嫌いなだけで危ない橋を渡る奴には思えないが……何か他に理由があるのか?
「そんなことが……可能だとして、大逆転って具体的には何をするつもりだ」
「今回の狩猟大会で上手く立ち回れば、終わった後はレオーネ様が公爵です」
「……ディオを押しのけてウィンターソン家の後継者になれるってことか?」
「次期公爵ではありません。もう一度言いますが、公爵です」
レオーネの疑問に、騎士は断言した。
「は? 言っている意味が……」
「分からない方がむしろいい」
訝しむレオーネとは違い、俺はその言葉の意味を察していた。
(まさか……父上を狩猟大会の日に殺すつもりなのか!?)
俺は驚きのあまり身を乗り出しそうになって、物音を立ててしまった。
「なんだ?」
「まさか……誰かいるのか!?」
レオーネと騎士が警戒の色を強めたその時。
「にゃーん」
魔猫が鳴いた。
いつの間にかルカの腕に抱かれて、見つめ合っている。
「なんだ、猫か?」
「そう言えばこの付近を巡回していた際に、魔猫の巣を見た覚えがあります」
「そうか……」
どうやら今のでごまかせたらしい。
ルカが魔眼の力で魔猫に鳴いてもらったみたいだ。
助かった。
俺はルカに身振りだけで感謝を伝えると「えへへ」と得意げな笑みが返ってきた。
「話を戻します。レオーネ様には、一つ頼みがあるのです」
騎士は会話を再開した。
「待てお前はまさか……だが、狩猟大会の日に謀反なんて、いくらなんでもそんな話には乗れないぞ!?」
レオーネも遅れて騎士の言わんとすることを理解したらしい。
「何も、我々が公爵に直接危害を加えようなんて話ではありません」
「まさか、ウィンターソン家に関係のない誰かが……何かするのか?」
他の誰か。
例えば、天使教とか。
「世の中には知らない方がいいこともあります」
「なんだと?」
「レオーネ様は当日、これを会場で密かに使用してください」
騎士がレオーネに手のひらサイズの何かを手渡したが、見えなかった。
「これは? そもそも、オレはお前の提案を受け入れるつもりは……!」
「何もしなければ、貴方はこのまま落ちぶれるだけだ。そして公爵家は、無能なディオが継ぐでしょう」
別にそれが本来の流れなんだが?
しかもこいつ、しれっと俺を呼び捨てにしている。
「公爵となる可能性を秘めていた貴方が、婚約者を横取りした男にこき使われる人生で終わっていいのですか?」
「そんなのは嫌だ……嫌だが」
「いいですか。あくまでもレオーネ様と関係のないところで、予想外の出来事が発生するだけです」
迷うレオーネを、騎士は諭す。
「しかしお前は、当日に会場でこれを使えと」
「そもそもレオーネ様は謹慎中。公的には会場にいないはずです」
「つまり、オレは疑われない……?」
「いないはずですから、当然何もできない。疑われるはずがありません」
騎士は詭弁を並べ立てる。
「……そうか。確かにお前の言うとおりかもしれない」
レオーネの奴、乗せられそうになっているな。
(さて、どうしたものか……)
一通り、この場で得られそうな情報は聞けた。
問題はこの後だ。
奴らを捕らえるか、それとも。
「ディオ」
小声で呼びかけられながら、肩に手を置かれた。
「……!? なんだ、ミアか」
奴らの仲間かと思って心臓が飛び上がりそうになった。
「一度公爵に報告しよう。まだ何も起きてない以上、この場で彼らを押さえても情報が得られない」
「確かに、このままだと背後関係は分からずじまいだね……」
俺は小声でミアに応じる。
「ああ。それに事前に動向を掴めただけでも上出来だ」
そうして、俺とミアは一旦奴らを泳がせることに決めた。
レオーネには悪いが、黒幕の尻尾を掴むために働いてもらおう。




