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第43話 悪ガキを懲らしめて、新たな原作ヒロインに出会う

 会場の目立たない場所で、数人の少年が一人を囲んでいる。

 連中は俺や囲まれている子よりいくつか年上だ。


「別にオレらはさ、友達料をもらおうとしてるだけだから」

「平民のくせに良い服着てんなあ、生意気だ」

「おら、早く金出せよ」


 明るい緑系の髪が特徴的な子を、悪ガキが囲んでいる。


「今は持ち歩いてないよ……!」 

「嘘つけ!」

「服脱がして確かめようぜ」

「そうだな。この服はこいつにはもったいない」


 悪ガキの一人が緑髪の子の胸ぐらを掴んだ。


「おい、何をやってるんだ?」


 向かっている間にエスカレートしていたので、俺は止めに入る。


「お、ディオサマ。ちょうどいいところに」

「良い獲物を見つけときましたよ!」


 悪ガキどもはこれで俺に媚びを売れると思っているらしい。


「や、やめてよ!」


 緑髪の子は嫌がっている。

 今までは耐えている様子だったが、服を脱がそうとしたら急に声を上げて抵抗し始めた。

 よほど嫌みたいだ。

 まあ、思春期だからな。

 なんて言っている場合じゃない。


「これ以上はやめろ」

「だよなディオ様!? おい、これ以上の抵抗はやめろ平民!」


 悪ガキの一人は、俺の忠告を勘違いしていた。


「そうじゃない、お前にやめろと言ってるんだ」


 俺は胸ぐらを掴んでいた奴を、弱めの水魔法で吹っ飛ばした。


「うお!?」

「ディオサマが魔法を……!?」

「ってーな! 何するんだよ!」


 悪ガキどもに困惑が広がる。


「寄ってたかって年下をいじめるなんて情けない奴らだ」

「ああ? お前だって……!」 

「そうかもな。だけど俺は変わったから、お前らも大人しくしてろ」


 以前はディオも加担していたと言われたら耳が痛い。


「大体お前……そんなに偉そうにしていていいのか?」

「なんの話だ」


 何やら悪ガキが言い返してきた。

 少なくとも俺の身分はこいつらより上だ。


「ウィンターソン家がすごいといっても、北部の人間が誰もついてこなかったら意味ないだろ」

「そうだ! 俺たちを大事にしないなら、将来公爵としてやっていけなくするぞ!」


 なるほど。

 将来ボイコットしてやるぞと、今のうちから脅してくるのか。


「お前らみたいなろくでもない奴らの協力はいらないけど……」


 平和な暮らしのためにはさっさと縁を切りたい。


「なんだと!? 俺たちみたいな数少ない忠義者をないがしろにするのか!」

「問題児の間違いだろ……数が少ないのは幸いだけど」


 彼らは例外的な数人で、過去のディオが同じノリだったから増長した。

 そういう意味では、俺がけじめをつけるべきだ。


「無能なディオがそんな態度だと、誰もついてこないぞ!」

「無能じゃなかったら問題ないのか?」

「ああ? あのディオサマに何かできるのかよ?」


 どうやら悪ガキどもは俺の変わりようが気に食わないらしい。


「そうだな……これ以上彼に何かするつもりなら、ウィンターソン家の人間として俺がお前たちをこらしめるっていうのはどうだ?」

「はあ? やれるもんなら——」

「あまり声を出すと目立つぞ」


 周囲の視線が集まったところで、俺は右手に水の球体を作る。


「うっ……き、今日はこれくらいにしてやる」

「二度とやるな。じゃないとこれで水浸しにするぞ」


 俺は球体から少し水を分離させてけしかけた。


「や、やめろ!」

「うわああ!」

「他人には暴力とかカツアゲをしていたくせに、濡れた程度で大げさな……」


 ともあれ俺は悪ガキを追い払って、囲まれていた男の子を助けた。


 ただ、一つ問題があるとすれば。

 彼らは今まで俺とつるんでいた連中だってことだ。


 たむろしていた悪ガキが逃げ出す様子を、パーティーの参加者は何事かと見ている。

 助けた男の子すら、戸惑っていた。

 そんな時。


「さすがディオ様、困っている方を助けて差し上げるなんて、お優しいんですね」

「本当に、今までとは別人みたいに変わったわね」


 トリアとテトラが来てくれた。

 すると様子を見ていた人々の反応が変わる。


「あれはハルシオン家のご令嬢か」

「婚約の時に揉めたあの二人が手のひらを返して褒めるなんて……意外ね」

「またディオ様が騒ぎを起こしたのかと思ったが……どうやら彼を助けたらしいな」


 双子のサポートもあって、状況を正しく理解してもらえた。


「あの……ありがとう」

「むしろ、せっかくパーティーに来てくれたのに大変な目にあわせてごめん」


 助けた男の子が話しかけてくれたので応じていると、父親らしき人がやってきた。


「ディオ様、我がむす……子を助けていただきありがとうございます」

「あ、えっと貴方は」


 何か、息子と言うときに妙な言い方だったのが引っかかる。


「私はヴァレンティノ商会の長をしているルチアーノと申します。助けていただいたのはルカです」


 紹介されて、ルカがぺこりとお辞儀した。


「ヴァレンティノ商会と言えば最近北部と王都の両方で勢いのある商会ですね」

「未来の公爵夫人に知っていただけているとは、光栄です」

「未来の公爵夫人だなんて……その通りなんですけどね、ふふ」


 トリアはおだてられて満更でもない様子だった。


(にしても、ヴァレンティノ商会か……)


 俺も原作で聞いたことがある。 

 プレイヤーである主人公と、勇者テトラを助けて経済的な支援をしてくれる商会だ。


「今後ともウィンターソン家の皆様とは、良い関係を築いていきたいと願っております」

「ええ、こちらこそ。ね、ディオ様?」

「あ、ああ。うん」


 トリアに声を掛けられて、俺は生返事する。

 俺がルカを助けたことによってヴァレンティノ商会との縁ができたと考えたら、悪い話じゃない。


(ただ、一つ困ったことがあるんだよな……)


 ルカには一つ、秘密がある。

 なぜ俺が、初対面であるルカの秘密を知っているかと言えば。

 彼は……いや。

 彼女もまた、原作に登場するヒロインの一人だからだ。

 ルカは魅了の魔眼を持っていて、子供の頃は使いこなせないから男装していた、という設定があった。

 その頃に主人公とは初対面を済ませており、成長したルカが商人らしくたくましい美少女になって父の仕事を手伝うようになった頃に再会する。

 ルカは成長しても照れ屋で、原作はエロゲーなので当然濡れ場もあるわけだが、全ヒロインの中でも一番初々しかった。


 そして悪役モブ、ディオ・ウィンターソンであるはずの俺は。

 そんなルカから、熱烈な視線を浴びていた。


「じーっ」


 どうやらルカは、俺に興味津々なご様子だ。

 よし決めた。

 女の子だとは、気づいていないふりをしよう。

 もし仮に、これが俺の勘違いではなくて。

 これ以上ハーレムが広がったりした日には、いよいよ収拾がつかない。


「うう……」


 だがルカは引き続き、うるうるとした瞳をまっすぐ俺に向けている。 

 男装しているのに、美少女オーラが隠せていない。


 俺はどうにかして、目を逸らそうとするが。

 ちょい、と手を掴まれた。

 

「ディオ様……これからよろしくお願いしますっ」


 コミュニケーションは苦手だけど、勇気を振り絞ってみた。

 まさにそんな雰囲気のルカを前にして、俺は。


(あ、これを無視するなんて生半可な覚悟じゃできないな?)


 まんまと庇護欲をそそられて、目を離せなくなっていた。

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