第42話 悪役モブは美少女とろくでもない連中に人気
あっという間に春の祝祭当日を迎えた。
開幕を告げるパーティーは昼間、屋外で行われる立食形式だ。
父上が参加者に向けて挨拶を終えた後。
「ディオ、お疲れ様」
ミアが後ろからやってきて、肩に手を置いた。
「疲れた……って言っても、俺はスピーチする父上の横に立っていただけだよ」
「そう謙遜するな。堂々とした佇まいだったぞ? それにその格好もよく似合っている」
「ありがとう。個人的には服に着られている感が強いけど……」
今日の俺は、きっちりと正装に身を包んでいる。
現代日本で社畜をしていた頃には絶対に着なかったようなお高い服だ。
きっとこういうのにも、今後慣れていく必要があるんだろうな。
「ところでディオは、私を見て何か思うところはないか?」
自分の心配をしていたら、ミアが含みのある問いを投げかけてきた。
ミアを見て、思うところと言えば。
深紅のドレスを身に纏っていることだろう。
「そのドレス、すごく綺麗で……とにかく素敵だと思う」
「ふふ。ディオは褒め上手だな。将来が楽しみだ」
そう言いつつ、ミアは満足そうに俺の頭を撫でる。
師匠は俺との年齢差以上に、大人っぽい。
「ごきげんよう、ディオ様」
「ディオー、会いに来たよっ」
ミアと二人でいたら、トリアとテトラが話しかけに来た。
「ミア様も、ごきげんよう……むむ」
「ミアさんこんにちは! って姉さん?」
トリアがミアのとある一点を見て、難しそうな顔をしていた。
俺も一番気になっていた部分。
大胆な意匠によって確かに主張する胸の膨らみだ。
俺の視線もさっきからずっと、チラチラとそちらに向いていた。
「ふむ。どうした?」
どこか余裕を感じさせる、ミアの微笑。
「わたくしだってあと数年もすれば、ディオ様が夢中になるようなプロポーションを手に入れて見せます……!」
トリアは悔しそうにミアと俺を見比べた。
あ。
俺がミアの胸ばかり見ているのもバレてるな?
これは良くない。
俺は改めて、トリアと向き合う。
落ち着いた知的な雰囲気の、黒のドレスを身に纏っている。
「トリアは今日もかわいいね。ドレスもよく似合ってるし」
「今日も……ですか? も、もうディオ様ったら。ディオ様もいつも凜々しくて、素敵ですよ」
俺の言葉一つでトリアが気を良くしてくれるなら安いものだ。
それに原作で十代後半のテトラはスタイル抜群だった。
双子の姉であるトリアも、きっと将来性は抜群だろう。
「私も、今日のディオはいつも以上にかっこよくて好きよ!」
「二人とも、べた褒めだなあ……」
俺の見た目は双子にとって好みのど真ん中らしい。
「それで……私はどうかな? ドレスって窮屈だけど、ディオのために頑張って着てみたの」
テトラが俺の反応を求めて、いじらしいことを言ってきた。
トリアと同じデザインで色違いの、白いドレスを着ている。
色が違うだけで、無邪気で明るい印象だ。
「うん、テトラもかわいいよ。ドレスを着るとギャップがあっていい……と言うか」
「そ、そう? へへ、やったぁ」
テトラは普段見ないような、ふにゃっとした笑みをこぼす。
(もしかしてこんなことばかり言ってるから、女の子との関係が収拾つかないことになっているのか……?)
でも仕方ないだろう。
みんな本当にかわいいからな。
さっきから三人を順番に見て、目が癒やされまくっている。
「さて。私は少し、公爵と話してくる」
見惚れていたら、ミアがそう切り出した。
「父上と?」
「会場警備で、気になることが少しあってな」
ミアは俺にだけ聞こえるよう、そう耳打ちした。
「む。なんですか?」
「ふふ。二人だけの秘密だ」
話の内容を気にするトリアに、ミアは小さく笑ってから父上の方に行ってしまった。
「……ディオ様?」
妙な火種を残していかないでください、師匠。
俺が気まずさを感じていると。
「姉さん、ちょいちょい」
テトラがトリアのドレスの袖を軽く引いた。
「どうしました?」
「あっちでみんなが呼んでるよ」
テトラが示した方には、パーティーに参加する同年代の令嬢が何人かで集まっていた。
二人の友人みたいだ。
「将来のディオ様の妻として……他家のご令嬢と親交を深めて人脈を広げるのも大事ですよね」
トリアは何やら考え込んでから。
「わたくし、ディオ様のためにお役目を果たしてきますね!」
「う、うん。頑張ってね」
「あ、姉さん待ってよ。じゃ、またねディオ!」
張り切って宣言するトリアと、小さく手を振ってくれるテトラを、俺は見送る。
さて。
俺は一人になった。
「将来のために人脈作りか……」
ウィンターソン家の主として平和に長生きしようと思ったら、必要なことだ。
「俺も頑張ってみるか」
とりあえず、パーティーに参加している同年代の子息たちに話しかけてみようと思ったが。
「……」
「……」
真面目そうな子息からは露骨に避けられ、目を逸らされた。
(間違いなく、過去のディオの行いのせいだな……)
ディオの悪評なんて、誰でも知っている。
彼ら自身が何か被害を受けた経験を持つ可能性だってある。
前途多難だ。
そう思っていた俺にも、話しかけてくる連中がいた。
「よー、ディオサマ」
「久しぶりだなディオ」
親しげというよりは、悪い意味で馴れ馴れしい雰囲気を醸し出す少年が二人。
記憶を取り戻す前のディオが、こういう場でよく一緒につるんでいた奴らだ。
「お前らは……」
友情から話しかけているのではなく、いずれも親から取り入れるよう言われた奴や、悪知恵の働く奴ばかりだ。
ディオをおだててカモにしている。
つまり友人などではない。
そもそも名前を聞いた記憶がない。ディオは聞こうともしなかった。
(有象無象の部下程度に思っていたんだろうな。ディオも大概だ……)
他人事みたいに感じてしまうが、もはやこれは俺自身の人間関係だ。
(正直良くない人間関係だから、さっさと清算したいよなあ)
自分をカモにしてくるだけの連中と関わっていても、ろくなことにならない。
「おいディオ、聞いてんのか!?」
考え込んでいたら、小太りの少年にいきなり手首を掴まれた。
かつてのディオに体型が似ている。
「……なんだ?」
本当に失礼な奴だな。
「あっちに生意気な平民がいるから懲らしめてやろうぜ!」
「生意気な平民?」
それが事実だとしても、この会場にいる以上はウィンターソン公爵に招かれた存在だ。
つまり彼らにとっては主の客人なわけだが、それを懲らしめるなんていかがなものか、と思っていたら。
「ディオも好きだろ? あー、早く鬱陶しい奴をボコボコにしてえ」
「金だけは持ってるらしいから、あいつの小遣い搾り取ってやろう!」
「あー……」
どうやらこれが、悪ガキにとってのディオに対する媚びの売り方らしい。
「で、その生意気な平民とやらはどこにいるんだ?」
「ほら、あそこだよ」
悪ガキの一人が、会場の端の方を指さした。
そこには何人かの悪ガキどもが、華奢で人形のようなかわいらしいとでも表現すべき見た目の男の子を、取り囲んでいた。
寄ってたかって一人を追い詰めるなんて、質が悪い。
「……さて」
これから、ウィンターソン家の一人息子として俺がやるべきことは。
この悪ガキどもを懲らしめて、問題を解決することだ。




