第40話 婚約者は魔王の知識に興味がある
「私、この剣にする!」
ミアの話を参考にしていたテトラだが、最後には自分の直感で選んだ。
その剣は、俺も知っている。
聖剣と言われる一振りだ。
選ばれし勇者のための剣。
原作や前世でもテトラの手に渡っていたが、四年後の出来事だった。
(聖剣も元はウィンターソン家の宝物庫にあったのか……)
きっと聖剣も、父上の死後にディオをカモにしていた悪徳家臣に売られたに違いない。
それが回り回って、テトラの手に渡ることになったのだろう。
「この剣だったら私が存分に振るっても折れないかも……ディオはどう思う!?」
「うん。テトラに一番合ってると思うよ」
剣を手にして眺めるテトラに、俺は太鼓判を押す。
タイミングは違うけど、原作通りの展開だ。
運命的な何かに沿って、決められたままに物事が進んでいるような感覚。
少しだけ、嫌な予感がする。
(これくらい、偶然だろ)
俺も剣を選ぼう。
そもそもディオが剣を持つということ自体が、原作ではあり得ない展開だ。
ミアの解説を聞いていた中で、これという一振りがあった。
(きっとこの剣なら……あの白装束がまた現れた時に、役に立つはずだ)
何より、自分の剣を手に入れた事実が今は嬉しかった。
○
その後。
トリアは剣の代わりに、宝物庫に収められていた古書をもらった。
魔界の異種族に関する書物とのことだ。
いつものスケジュールだと座学の授業を受ける時間だが、今日からしばらく中止だ。
オルクス先生に別で用事があるらしい。
王族だから本来は忙しいんだろうな。
俺の先生をしてくれているのが不思議なレベルの人だ。
ともあれ、授業がない代わりに、狩猟大会に向けて剣術の腕を磨くつもりでいたが。
その予定は変更になった。
トリアの読書に付き合うことになったからだ。
現在。
俺の部屋にて。
トリアはソファーに座って、両隣に俺とテトラを座らせていた。
「二人とも、もう少し私の方に寄ってください」
俺たちがミアと楽しく話していたから、妬いているご様子だ。
「もう少しって……これ以上は姉さんに抱きつくみたいになるけど?」
「はい。そうしてくださいと言っています」
俺とテトラは顔を見合わせてから、言うとおりにした。
「この状態で読書なんてできるの?」
「ええ。なかなか居心地が良いです」
トリアは俺とテトラに左右からくっつかれながら、読書を楽しんでいた。
「皆さん仲良しですねえ」
お茶とクッキーを補充しにきたリサリーが、のほほんと俺たちを眺めていた。
その後、リサリーが一度部屋から出て行こうと扉を開けると、そこにはミアがいた。
「ミア様、こんにちは!」
「ディオに用事があったのだが……おもしろそうな本を読んでいるな?」
ミアはトリアの本に目を留めていた。
「これは魔界の異種族に関する本なのですが……興味がおありですか?」
「興味もあるが、どちらかと言えば知見がある」
当然だ。
ミアは魔界の頂点に立つ存在だからな。
「知見……? ではこの、悪魔族についてはご存じですか?」
背後に寄ってきたミアに、トリアは試すような問いをする。
「悪魔族は元々、他の世界から来たらしい」
「確かにこの本にもそう記されていますね。かつては天界に暮らしていた、と」
「ああ。天使族との戦争に敗れ、この世界に下ってきた」
「ですが……別の世界なんて、存在するのでしょうか? わたくしはまず、そこが疑わしいです」
トリアは書物の記載に対して、疑問を口にする。
「悪魔族が支配する領域を「魔界」と呼ぶのは、自らのルーツが別の世界にあるという名残だ」
「人間界と魔界。地続きでありながらまるで別世界のように呼称しているのは、わたくしも引っかかったことはありますが……」
ミアの話について、気づけばトリアは真剣に考えていた。
「遠い昔、魔王が人間界を攻めたのも、当時主流だった天使信仰を抹消することが目的だったとされている」
「信仰を、抹消ですか……?」
それが何に繋がるのか、といった反応だ。
「天使族が「下界」と呼ぶこの世界に対する影響力を排除し、自分たちの平和を守るためだった……という説だ」
「非常に興味深いです……! ディオ様とテトラも、そう思いますよね!?」
トリアは両隣に侍らせた俺たちに同意を求めてくるが。
「私は別に……?」
テトラはつまらなそうにトリアにくっついていた。
いかにも剣術一筋ってタイプだからな、テトラは。
「俺は……興味あるよ」
「ですよねっ!?」
興味はある。
先日、翼竜をけしかけてきた怪しい男も、自らを天使教の信徒を称していたからだ。
天使。
原作ではその単語こそ見受けられても、実際に登場することはなかった存在だ。
しかしこの世界の裏側で、何か重大なことに関わっている気がしてならない。
「いずれにせよ、私の知識で楽しめたなら良かった」
「お、おもしろい話だったのは否定しませんが、それはそれです。ディオ様はわたくしの婚約者ですからね」
ミアの話に聞き入っていたトリアだったが、対抗心は絶やしていなかった。
その後も俺は、読書するトリアの横で一日を過ごすことになり、夕方。
「ディオ様、今日は楽しかったです! また明日、会いましょうね」
「うん、また明日」
トリアはすっかりご機嫌だった。
まさか俺に抱きしめられ続けた結果……なのか?
以前までなら、完全にセクハラ扱いだったのに。
「柔らかくてあったかくて、いいにおいもしたな……」
馬車で帰るトリアとテトラを見送りながら、俺は一人呟いた。
○
夜。
リサリーに手伝われて就寝準備を終えて、ベッドに入る。
「明日からは狩猟大会に向けて、剣と魔法の猛特訓の予定ですよ!」
「そうか……じゃあ今は休んで、明日からもっと頑張るよ」
「はいっ! おやすみなさい、ディオ様!」
「うん、おやすみ」
寝る前でも元気なリサリーが部屋を出て行くのを見届けてから、目を閉じようとしたら。
「寝るにはまだ早いぞ、ディオ」
窓からミアが入ってきた。
もはや、その光景自体には慣れてきた。
「ミア……どうしたの?」
「昼間の用事がまだ済んでいなかったからな」
「だからって、どうして就寝時間に」
「その方が、胸が高鳴るだろう?」
そう言うミアの笑顔は、月明かりに照らされて心なしか色っぽく見えた。




