第39話 魔王と女勇者は意外と趣味が合う
「そう言えば、翼竜との戦いでテトラの剣が折れたと聞いたが」
朝食後。
父上がおもむろに切り出した。
「はい……半端な剣だと、私の剣術に耐えられなくてすぐ折れてしまうんです」
「そうか。ではディオと共に戦い、皆の命を救ってくれたお礼として剣を贈ろう」
その一言で、テトラの目の色が変わった。
「公爵様が、剣をくれるんですか……!?」
「ああ。ウィンターソン家の宝物庫から好きな剣を一振りあげよう」
宝物庫。
そんな場所があること自体は驚かないが。
(俺もまだいい剣を持ってないんだよな……)
正直、テトラが羨ましい。
「いい機会だからディオにも選ばせてやろう。今度の狩猟大会で必要だからな」
お願いするまでもなくプレゼントしてくれるなんて、父上は気前が良いな。
○
そうしてやってきたのはウィンターソン家の宝物庫。
屋敷の地下にあり、主である公爵の許可がなければ立ち入れない場所だ。
何やら殺意の高い様々な罠が設置された迷宮のような空間を抜けた先。
いかにも頑丈そうな金属製の大扉らしきものがあった。
「扉……なのかな?」
「取っ手とか鍵穴は見当たらないね」
どうやらテトラも同じ疑問を抱いたらしい。
照明や松明もない地下なのに、妙に明るい。
おかげで扉の様子はよく見えた。
「この扉はウィンターソン家の当主か、特別な許可を得た者が触れることでのみ、開放できる」
父上が手を触れると、その魔力に反応して大扉が動いた。
低く鈍い音を響かせながら、上側に開いていく。
「それにしても、屋敷の地下にこんな空間があったなんて知らなかったな」
「これほど厳重に保管しているのですし、きっと貴重な品が収められているのでしょうね」
「実に興味深いな……私の故郷にも、こんな場所はない」
トリアとミアも宝物庫が気になるとのことで、同行している。
扉が開いた先。
宝物庫は向こう側の壁が見えないほど広く、貴重で高価そうな品々で埋め尽くされていた。
(もしかして俺の家って、とんでもなく金持ちなのか?)
それが俺の抱いた第一印象だった。
「剣があるのはこちらだ」
父上に案内されて少し歩くと、剣が収められている区画に到着した。
一本一本が飾るように保管されている。
きっと由緒や歴史のある、宝剣や聖剣の類なんだろう。
(公爵家のお宝を分け与えるなんて……父上は悪ガキだったディオを筆頭に、子供を甘やかす癖があるみたいだな)
もちろん、テトラを気に入ったという理由が大きいだろうけど。
さて。
余談だがこの場所は、実は原作だと宝剣が隠された隠しダンジョンとして登場した。
今のように綺麗で明るい場所ではなく、魔物の蠢く危険地帯と化していたが。
(前世だと多分、ゴドリーとかに全部お宝を持ち出された後で、魔物が住み着いたんだろうな……)
深く考えず、言われるがまま宝物庫を開ける権限を与えたような覚えがうっすらとある。
「これは、すごいですね……! この中の一振りで、小さな国であれば買えてしまうのではないでしょうか……!」
「そ、そんなに高級品なんだ。確かにすごそうな剣だけど……!」
トリアは飾られた剣の、宝物としての価値をある程度理解しているようだ。
テトラもまた、剣の持つ鋭気を感じ取っている様子だ。
二人とも、見入っている。
「宝物庫の規模がこれほどとは……ディオ様と婚約した途端にハルシオン家の財政が劇的に改善されたのも納得です」
「あ、夕食に毎日お肉が出てくるようになったのって、もしかしてディオのおかげなんだ……?」
俺とトリアの婚約は、ハルシオン家にとって経済的なメリットが大きかったらしい。
しかし父上は双子のやり取りに疑問を覚えていた。
「元々、ハルシオン家の働きに報いるだけの俸禄や領地は与えていたはずだが」
「十分にいただいているのですが、私の父は領民のために使い過ぎてしまう節がありまして……」
「まったく、ハルシオン伯爵は……人徳者過ぎるのも考えものだな」
父上とトリアが話している間にも、テトラは高揚した様子で剣を見つめていた。
「全部すごそうな剣で目移りしちゃう……」
「私にも見せてもらえるか?」
気づけばミアがテトラの横で剣を眺めていた。
「え? いいけど……」
「ミアは剣にも詳しいから、きっと良いアドバイスをくれるよ」
急に話しかけられてテトラが戸惑っていたので、俺も会話に加わる。
「ディオがそう言うなら……お願いしようかな?」
そうして一緒に剣を見ることになった。
「この剣は今は採掘できない、千年前の鉱石で鍛え上げられた品だ」
「おお……この剣なら絶対折れなさそう……!」
「これは風を切る力が備わった魔法剣だな。剣術や魔法がまだ普及していなかった時代には、こうした剣が重宝されたそうだ」
「へー……! 便利そうね!」
「こっちは……ふむ。生き血を吸うほど力を増す魔剣だな。噂には聞いていたが、こんな場所で眠っていたとは」
「魔剣……なんだかかっこいいかも!」
気づけばテトラは、ミアの解説に聞き入っていた。
「もっと! もっと聞かせて?」
「もちろんだ。次はあの剣の話をしようか」
楽しそうなテトラに頼まれて、ミアも案外悪い気はしないようだ。
「あなたって、ディオの親戚のお姉さん……で合ってる?」
「ああ、そうだな。魔法の師匠でもある」
「どうして剣にも詳しいの?」
テトラはミアに興味を持った様子だ。
「私は剣士でもあるからな」
「女の人なのに?」
未来の勇者と魔王が、何気なく会話している。
不思議な光景だ。
「私の故郷では、性別に関係なく誰もが武器を取るんだ」
「へー……勇敢なのね!」
「勇敢と言うべきか、やむを得ずと言うべきか……まあこちらとは事情が違うんだ」
自分の故郷が魔界だとは言えないので、ミアはぼかして説明する。
「よく分からないけど……私は尊敬する! あなたも、あなたの仲間も!」
「そうか……ありがとう。私と共に戦う者たちも、きっと喜ぶ」
テトラの純真な言葉を前に、ミアは小さく笑みをこぼしていた。
あれ。
もしかしてこの調子で仲良くしてもらったら世界が平和になるのでは。
俺の頭に、そんな都合の良い考えがよぎったその時。
「テトラのお姉さんはわたくしで、ディオ様の婚約者もわたくしですからね?」
いかにも不機嫌そうなトリアが、俺の隣にふらりと立った。
(これはまさか、妬いている……のか?)
あの悪役モブのディオに対してまさか……と言いたいところだけど。
相手は俺のことを慕ってくれているとはっきり宣言した、婚約者のトリアだ。
(これは何か、婚約者殿へのサービスが必要そうだ……)
そうして俺は、トリアを笑顔にする方法について脳内で模索し始めた。




