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第38話 婚約者と女勇者は外堀を埋める

 訓練の後は汗を流してから、食堂に向かう。

 今日の朝食は大所帯だ。

 父上と母上、ここしばらく屋敷で暮らしているミア。

 ゲストのトリアとテトラ。

 そして俺だ。


 ミアはいつもの位置、俺の向かい側に座っている。

 トリアとテトラは俺の左右にいた。


「二人とも、この屋敷で過ごしていて何か不自由なことはないかな」


 いつも通り俺の好物が中心だが、心なしかいつも以上に豪華な食事がテーブルに並ぶ中。

 父上が双子に話しかける。


「全くありません。ウィンターソン家に仕える皆様はとても親切で、帰るときにはいつもまた来たくなります」


 そう答えたのはトリアだ。


「そうか。皆には何か手当でもあげないとな」

「きっと喜ぶと思います。いつもおもてなししていただくのが楽しみで……あ」


 そこまで言ってから、トリアは俺を見た。


「もちろん、わたくしにとっては婚約者であるディオ様に会いに来るのが、一番の目的ですよ」

「あー、どういたしまして?」


 父上の前でアピールしてみたりして、トリアは完全に俺を攻略しにかかっている。


「テトラも、この屋敷がもう一つの家だと思って過ごしてくれて構わないからね」

「ありがとうございますっ!」


 テトラは父上に愛嬌を振りまいていた。

 そんな社交的な笑顔もできたのか、テトラって。


「もう一つの家と言えば……姉さんは将来、ディオと結婚するから、ここが新しい家になるんですよね?」

「ああ、そうなるな」


 テトラの問いに、父上が首肯する。


「じゃあ私も! 将来はここを新しい家にしたいですっ!」

「ほう?」


 無邪気かと思ったら、何やら意味ありげだ。

 特に、前世の記憶を取り戻す前のディオ(俺)が双子両方にプロポーズした経緯を考えると。


「ねっ、ディオもその方がいいよね?」


 俺の方にまで、テトラの愛嬌が向けられた。


「その方がって……」

「私と姉さんと、この屋敷でずっと一緒に暮らすの!」


 やっぱりテトラは、自分の言葉の意味を理解して喋っているなこれ。

 意外としたたかな女の子だ。


「あらあら。ディオはやっぱり女の子に大人気なのねえ」


 母上は相変わらずの調子だ。

 仕方がない。

 ここは父上に助けを求めよう。

 そう思って視線を向けてみるが。


「レディーを泣かせる男にはなるなよ」


 大真面目に言われてしまった。


「わたくしは幸せにしてもらう予定なので問題ありません」

「私もその予定です!」


 トリアとテトラは和やかな表情を見せていた。

 二人にとって、義両親との関係は良好そうだ。

 って、トリアはともかくテトラは婚約者でもないよな。

 

 二人とも順調に外堀を埋めようとしている。

 父上と母上も満更でもない様子だし、どうしたらいいんだこれ。


「思えば……ディオは最初、二人ともお嫁さんにしたいって言ってたわねえ」


 満更でもないどころか、直接的な話が母上の口から出てきた。


「言ってました!」


 テトラがノリノリでうなずいている。


「ふふ。私、トリアちゃん以外にも娘がほしくなってきたわ。旦那様はどう思いますか?」

「ディオが今の調子で成長していけばあるいは……と言ったところだな」


 父上の反応は、全く無しではなさそうだ。

 ウィンターソン公爵が具体的な話を検討し始めている。

 その意味は重い。


「ち、父上?」

「これは期待できそうですね、ディオ様」

「やったねディオ!」


 動揺する俺の左右で、双子が喜んでいた。


 段々と、後戻りできない状況が作られている気がする。

 最初に言い出したのがディオ(俺)だからこそ、周囲が乗り気になってしまったら話が進むのが早い。


(いや、待てよ……?)


 この場には、きっとこの流れに異を唱えてくれる人がいるはずだ。


 これまで静かに話を聞いていた、ミア。

 だがその反応は、俺の予想とは違っていた。


「ふむ……ディオは何人も妻を持てる立場なのか」

「ミア?」

「ならば私も遠慮する必要はなさそうだな、ディオ?」


 俺を見るミアの眼光が、きらりと光った気がした。

 あれ?

 もしかして俺、本格的に狙われてる? 


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