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第37話 女勇者はデレたらデレっぱなし

 当初の俺の予定。

 魔王と勇者の板挟みを回避するため。

 俺自身の平和な人生のため。

 そして何より、原作で悲劇的な結末を迎えた女の子を幸せにするために。

 双子との関係を改善する。


 具体的には、トリアの意思を尊重して婚約を解消し、テトラの恨みを買わないように立ち回る。

 そうして自然に距離を置き、二人には悲劇の元凶であるディオ・ウィンターソンとは関わらない新たな人生を送ってもらう。


「はずだったのになあ……」


 気づけば真逆の状況になっていた。

 トリアとテトラは、今日もウィンターソン家の屋敷に来ている。


「ディオ様は朝早くから剣の訓練を頑張っていて、すごいですね」

「剣士ならこれくらい普通よ! ね、ディオ?」


 早朝から訪ねてきて、俺の朝練を見に来たらしい。

 婚約者とその妹で評判もいいので、屋敷の人々も快く迎え入れていた。

 その筆頭がリサリーだ。


「朝からお二人と会えて嬉しいです……わふー」


 双子は今は、訓練場の端にあるベンチに座っている。

 リサリーはその横でお世話をするはずが、なぜか双子の間に座らされてかわいがられていた。


「リサリーさんは撫でられるのが好きなんですね」

「はいー……特に首の下辺りが好きですー」

「リサリーはなんだか、人なつっこいペットみたいね? なでなで」

「わふー」

 

 双子は今日、この屋敷で予定があるわけじゃない。

 トリアと一緒に普段受けている座学の授業は諸事情でしばらく中止だ。

 それでも図書館の本を読みふけるつもりなんだろうけど。

 

 テトラは本当にただ、剣の訓練を見に来ただけらしい。

 でも、見ているだけで楽しいのか……?


「そうだ。テトラも一緒に訓練する?」

「え!? いいの?」


 やはり、興味があったらしい。


「どうかな、アラクシス。俺と実力の釣り合う訓練相手を探していたことだし、ちょうどいいんじゃないか?」

「確かに、実力としては申し分ありませんな。婚約者であるトリア様の妹でもあるので、信頼できます」


 アラクシスは俺に同調するが。

 当のテトラが難色を示した。


「でも、女の人が騎士になるなんて聞いたことないし……私が同じ場所で訓練してもいいの?」 

「そんなの関係なく、テトラは強いよ。それに俺は、自分の訓練相手としてテトラが一番適任だと思ってる」

「そ、そう……? ディオがそこまで言ってくれるなら、やってみようかな。私も実は、強くなるために公爵家で訓練してみたかったし」


 テトラが嬉しそうに立ち上がって、気づく。

 あれ。

 また予定と真逆のことをしてないか。

 

 そうして俺が頭を抱えていると。


「待ってください団長! そんな少女が我々騎士団と同じ場所で訓練するなど……伝統に反します!」


 異を唱える者が現れた。

 騎士団に複数いる分隊長の一人だ。


 こいつは確か、ゴドリーと繋がっていた噂がある奴だな。


「気に入らないなら、テトラと戦ってみたら?」

「はい?」


 分隊長は呆気に取られていた。

 文句があるなら剣で決めればいいと思ったんだけどな。

 そういう文化は騎士団にはないのか?


「え? 戦っていいの!?」


 テトラの方は、ものすごく乗り気だった。

 未来の女勇者だけど、正義の味方というより戦闘狂みたいだ。


「ぜ、全部剣で決めればいいというものではないでしょう……!」

「ふーん……負けるのが怖いの?」


 テトラは楽しそうに、分隊長を煽っている。


「少女をいたぶる趣味がないだけだ!」


 分隊長は模擬戦を避けて、引き下がった。

 俺との模擬戦で、テトラの実力は知れ渡っている。

 テトラには勝ち目がないと、あの男自身が一番理解しているはずだ。


「これで文句を言う奴はいなくなったな」


 ということで、テトラが訓練に参加することになった。

 俺がそう決めた。


「実は私がディオ様の訓練相手として考えていたのも、テトラ様でした」

「そうだったの?」


 アラクシスもテトラの実力に、目をつけていたらしい。


「しかし先程の者のように、女性が剣を持つことに反発する考えは王国内に根強いですからな。ディオ様に提案するかは、悩んでいました」

「アラクシスは違う考え方なんだ」

「ええ。剣術において、性別は重要ではないと考えています。故にディオ様のご提案には、感服しました」


 トリアが好きな学問を学べるようにした時も思ったけど、これだけで感服されるってのも厄介な世界だ。


「ありがと、ディオ! いっぱい訓練しようねっ! その後は朝ごはんに招待されてるから一緒に食べよう!」


 早くも準備万端整えたテトラが、ぶんぶんと模擬剣を振り回している。


「……招待?」

「公爵と夫人から、朝食にお招きいただいたのです」


 トリアがそう、補足する。


「ああ、そうだったんだ……あれ?」


 朝食の席にはミアもいる。

 両親がいて、婚約者がいて、魔王と勇者がいる食卓。


「想像するだけで胃が痛いな……」

「大丈夫? ちゃんとたくさん食べないと、強くて大きい男の子になれないよ?」


 テトラは純粋に心配してくれた。

 胃痛の原因は、色々と立ち回りをミスってしまった、俺の自業自得なのに。


(テトラって、デレたら優しいんだなあ……)


 思えば原作でも、序盤はつんつんしていたが一度デレたらデレっぱなしで、素直で優しいヒロインだったな。


 この素直さや優しさを傷つけないように、頑張っていこう。


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