第35話 最強の女勇者に勝ってしまうほど強い想いがある?
翼竜と戦った消耗もあるので、決闘は翌朝になった。
テトラは「今からでも戦える」と主張していたけど、俺の方からお願いした。
そして迎えた朝。
今日もリサリーに起こされて、騎士団の訓練場に向かった。
「お久しぶりです、ディオ様。今日は面白いものが観れそうで、私としては楽しみです」
「久しぶり。他人事だなあ……」
騎士団長のアラクシスは、任務から帰還している。
今回の決闘を見届けてくれることになった。
「テトラがすみません。ですが、本当に受けて良かったのですか?」
朝から公爵家の屋敷に駆けつけたトリアが心配してくれる。
「まあテトラは決闘なんて大げさに言うけど……要するに模擬戦だからね。死にはしないし、怖がりすぎても仕方ないよ」
そうは言っても、俺が現代日本で暮らす社畜だったら、断っていた。
だが今の俺は北部の守護者であるウィンターソン家の男子だ。
こういう時に逃げたら怠惰で無能なディオから進歩できない。
「素敵な心がけだと思いますが……テトラは強いですよ」
「やっぱり、トリアもそう思う?」
「はい。あの子は間違いなく同世代で最強の剣士です」
姉妹だからひいき目に見ている、とかではない。
テトラは原作最強の剣士で、現時点でも才能を開花している天才児にして異端児だ。
領地に散発する魔物を積極的に狩って回っているという噂を聞いたけど、昨日の戦いぶりを見る限り本当だろう。
既に父のハルシオン伯爵を超える剣の腕前だとか。
「どういうわけかディオ様に敵意を燃やしていますし……お怪我しないように気をつけてくださいね?」
トリアは俺の手を握って、両手で優しく包み込んでくれた。
「うん、ありがとう」
さて。
多分、俺は剣術だけでテトラに勝てる。
原作知識を網羅しているから、テトラの知らない技も使えるのが理由だ。
逆に、テトラの使う技は知っている。
その前提で、勝つか負けるかで迷う。
(どうするのが正解だ……?)
まず、接待してわざと負ける。
これは最悪だ。
テトラであれば、俺が手を抜いたか程度は分かる。
一番軽蔑されそうだ。
次に、実力で負ける。
こうなってしまったら仕方ない。
だけどテトラからの評価が覆ることもない。
やはり、勝って俺が相応の実力者だと認めてもらうのが最善だ。
テトラからの見方が変わって、「前みたいな無能で怠惰なセクハラ野郎じゃないかも」と思ってもらうきっかけになるかも。
その方がきっと殺される可能性が減る。
テトラは将来の勇者だ。
つんつんした性格の持ち主だけど、負けたからって逆恨みしてくることはないだろう、きっと。
色々考えてから、俺は模擬剣を手に取ってテトラと向き合った。
「今日はよろしくね」
「ふんっ! 今からボコボコにされるのに馴々しい……」
テトラは不機嫌そうに模擬剣を構えた。
それだけで、威圧感がものすごい。
「では、始め!」
アラクシスの合図で、模擬戦が始まった。
テトラが先に仕掛けてくる。
「崩点穿っ!」
断山剣の初級技「崩点穿」。
一点に剣気を集中させる強烈な突きで、鎧や魔物の堅い鱗も貫ける。
要するにいきなり殺意が高い。
「——柔華流」
「柔華流」は主に中央で盛んな剣術流派、龍華剣の初級技だ。
剣に剣気を纏わせて、敵の攻撃を受け流す。
北部では見た目重視と揶揄される流派だが、カウンターとしては優れている。
「なにそれっ!?」
「破重衝!」
龍華剣の技は初見だったらしく、動揺するテトラ。
そこに俺は「破重衝」をたたき込む。
「ええーいっ!」
しかしテトラは対応してきた。
剣術ではない。
ただ純粋に、剣気を放出して俺の剣を弾いた。
「むちゃくちゃなパワーだな……!?」
弾かれた剣を、圧によって右横に伸びた腕で取りこぼさないよう必死で掴みながらも、俺は体勢を崩した。
今度は俺の方に、隙ができた。
テトラがそこを逃すはずがない。
「円環旋!」
断山剣の中級技だ。
周囲の敵をまとめてなぎ払う、範囲攻撃。
テトラの年齢で中級技を使えるのはまさに天才だ。
回避できない間合いから放たれた大技。
しかしこの状況まで、俺の狙い通りだった。
「制風剣秘奥義……夢幻剣」
制風剣は南部の剣。
秘奥義とは、上級技のさらに上だ。
「夢幻剣」は剣を右横に構えたまま、霞のように消える。
瞬間的に実体を消せる、超常的な技だ。
(秘奥義まで出すのはやり過ぎ感はあるけど、剣術でテトラを凌駕するにはこれくらい必要だ)
必中の間合いから放たれた範囲攻撃を、俺は回避した。
「消えた? どこに……!」
テトラが探す間に、俺は背後に回り込んだ。
姿を現そうとした、その時。
「分からない……だったらまとめてぶっ飛ばす!」
テトラは身長の倍は跳躍しながら、地面に向かって剣を振るった。
剣から膨大な剣気が放たれて、全方位に衝撃波が発生する。
断山剣の技にはない。
テトラは正統な断山剣と我流の技を組み合わせる剣士だ。
敵を捕捉できないなら、敵がいるであろうエリアごと吹き飛ばす。
「なるほど、理にかなったやり方だ」
だが俺は、その衝撃波を打ち消した。
魔界の剣術だ。名はない。
原作ではクリア後の裏ルートをプレイしていると習得できる。
「消された……!?」
またしても技を防がれて驚くテトラの着地際を、実体を現しながら俺は狙うが。
「でも、見えた!」
テトラは自らの剣で、俺の剣を受け止めた。
「これも防がれるのか!?」
テトラはそのまま着地して、純粋な剣での打ち合いに持ち込んでくる。
剣術と違って、知識より経験が出やすい部分だ。
「さっきからよくも、知らない技ばかり使ってくれたわね!」
「それはそっちもだろう!?」
勝機を見いだしたテトラは剣術に頼らない斬撃の連続で俺を圧倒してくる。
俺はどうにか受け止め続け、剣を合わせて押し合う状況に持ち込もうとする。
が、それでもテトラのとてつもない剣気の圧には押されてしまう。
「これでおわりっ——!?」
テトラが勝利を確信した瞬間。
俺は一つの技を放った。
テトラの技を真似した、剣気による衝撃波を放つ剣術だ。
完全にアドリブだったが、おかげでテトラの不意を突く結果となり。
テトラは後方に向かってよろめいて、剣を手放しながら尻餅をついた。
そうなればもう、決着だ。
「これで終わり、だね」
俺は模擬剣で、テトラの頭に軽く触れた。
「勝負あり。両者、見事な戦いぶりでした」
アラクシスが決着を宣言しながら、ゆっくりと拍手する。
周りで見物していた騎士たちからも、歓声が上がる。
「なんだ今の……すごすぎる!」
「あれが十二歳どうしの戦いなのか!?」
こいつら、本来は朝の訓練中だよな?
俺はいつの間にか増えていたギャラリーに疑問を持ちつつも、座り込んだままのテトラに目を向ける。
テトラは熱に浮かされたようにぼーっと俺を見つめていた。
「なにこれ……すごい。なんで……そんなに強くてかっこい——私、なにを言ってるの!?」
何か独り言を呟いたかと思ったら、首をぶんぶんと横に振った。
「これで、俺のことを認めてもらえるかな」
「そ、それは……でも!」
テトラは混乱している様子だ。
まだ、敗北が受け入れられないのかもしれない。
「テトラより強かったら……って話だったよね」
「や、やっぱり姉さんはあげたくない!」
テトラは声高にそう言うと、立ち上がって訓練場から逃げ出してしまった。
困った。
俺は観戦していたトリアの方に目を向ける。
「ディオ様、そこまで私のことを想って……」
トリアは何やら感激した様子で、うっとりしながら俺を見ていた。
決闘に勝って認めてもらう。
俺にとっては、前世で首を撥ねられたテトラからの評価をマシにしたい程度の考えだったけど。
(そう言えばテトラが俺とトリアの婚約を認めるかどうか、みたいな話だった……)
その戦いで、俺は全力を尽くして勝利を手にしたわけで。
並々ならぬ想いがあったのだと、受け止められてもおかしくない。
……何か、話が妙な方向に転がりかけている気がする。
「と、とりあえず今はテトラの様子を見に行ってくるよ。心配だし」
俺はその場から逃れるように、テトラを追いかけた。




