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第32話 悪ガキは公爵に処罰される

 数時間後。

 俺は公爵家の屋敷に帰っていた。


 現在は、父上の執務室にいる。


 レオーネが呼び出されて事情聴取されている。

 その横には、レオーネの父親もいた。

 フロストウェル子爵。

 父上の従兄弟にあたる人物だ。


 彼らの話を、今回事件に巻き込まれた俺たちも聞いていた。


 結果的に、レオーネは何も知らなかった。

 本当にただ、魔物の卵を渡されただけらしい。

 利用された側の人間だった。


「明確な害意を持っていれば死罪でもおかしくない行為だ。しかし、今回は子供の無知故でもある。よってレオーネには謹慎を言い渡す」


 父上はレオーネに対しそう裁きを下した。

 未熟な少年だからこその温情ってところか。


「どの程度の期間でしょうか?」


 すぐにそんな問いを投げかけたのは、フロストウェル子爵だ。


「一ヶ月だ。知らなかったのは大目に見るとしても、魔物の卵を手放して逃げるなど無責任な行動は看過できない」

「それでは息子が二週間後の狩猟大会に参加できない!」


 フロストウェル子爵は不満げに声を上げた。


「そうだろうな」

「それじゃあオレの活躍の場が……! オレは同世代で一番の炎魔法の使い手なんですよ!?」


 レオーネが文句を垂れる。

 自分で言うな。

 とツッコみたいところだが、評判を聞く限りではあながち嘘でもないらしい。


「自覚がないのであれば、もう一ヶ月謹慎期間を延ばすべきか?」

「二ヶ月も……!? 自分の息子を贔屓したいがために、我が息子の栄達の機会を奪うなど、ひどいではありませんか!」


 フロストウェル子爵は憤慨しているが、どうも気に入らない態度だ。


「そのような意図はない。そして何より。自身のことよりまずは、謝る相手がいるだろう」


 父上は俺やトリアとテトラ、それと端っこに控えるリサリーを示した。


「この子たちを危険に晒しただけでない。私に仕える騎士が二人、重傷を負ったのだ」


 翼竜に空中から落とされた護衛の騎士たちは一命を取り留めた。

 しかし復帰まで数ヶ月はかかる怪我をしたらしい。


「結果的にディオとテトラが対処できたから大事にならずに済んだが……この様子だと、狩猟大会ではこの子たちが活躍しそうだな」


 テトラは自分の名前が出てきて露骨に嬉しそうだった。

 トリアが隣に立つ妹を見て、見て小さく笑っている。


 しかしレオーネは、自分が叱られて俺やテトラが褒められる状況に、耐えられなかったらしい。


「無能でバカ息子なディオと、女なのに剣を握っている変人が……? くそっ……このままじゃ終わらないからな!」


 あろうことかウィンターソン公爵である父上の執務室から、勝手に出て行ってしまった。


「おい、レオーネ!」

「お前の息子は炎魔法の才能に胡座をかいて、自身や他人を客観的に見ることができていないようだ」

「返す言葉もございません……!」


 フロストウェル子爵は、父上に対し低く頭を下げる。

 この男としても、どうにかして自分の息子を次期公爵に据えたいと考えていることだろう。

 だから息子の代わりに神妙な態度を取った。


「息子が申し訳ないことをした。どうか許してほしい」


 フロストウェル子爵は俺に対しても謝罪してくる。

 無能として扱っていても、直系の息子だからな。


「あー、えっと」

「それで、謹慎のことだが」


 なるほど。

 謝罪で俺の同情を買って謹慎をどうにかしようってつもりか。

 やっぱりこいつは、俺のことをなめている。

 俺だけだったら、まだいい。


「トリアとテトラにも謝ってください」

「なっ……!」


 俺に指摘されて、フロストウェル子爵は不服そうな態度を露わにした。


 フロストウェルは子爵。

 ハルシオンは伯爵だから、爵位は双子の方が上だ。


 しかしフロストウェル子爵は、公爵家の血を引いているプライドがあるらしい。


「……そうだな。すまない」


 それでも最終的には、トリアとテトラに取ってつけたような謝罪をした。

 

 正直、まだ気が済まない。


「それと、リサリーも危険な目に遭いました」

「リサリー……誰の話だ?」


 フロストウェル子爵が怪訝そうにしていたので、紹介してあげた。


「俺の大切な専属メイドです」

「へへ」


 俺に示されて、リサリーは照れたように笑みをこぼしていた。

 謝罪は求めてなさそうだ。

 それでも、なあなあで済ますつもりはない。


「彼女は、メイドだぞ?」

「はい、そうですね」


 そんなことは関係ないから謝れ。

 言外にそう告げると、フロストウェル子爵は無言で少し顔を前に動かした。

 

 こいつ、それで謝ったつもりなのか……まあ、これ以上やっていても仕方ない。

 

「ひとまず、謝罪したってことでいいでしょう」

「では、息子の謹慎のことは……」

「まあ、それはそれです。謝罪は大前提で、謹慎は罰として受けるべきものですよ」


 すごい形相で睨み付けられたが、フロストウェル子爵は何も言わず退室した。

 

 別に、謝ったらレオーネの謹慎を帳消しにするよう父上に掛け合う、なんて一言も言ってないけどな。

 何を期待外れみたいな反応をしているんだか。


「あの様子だと、どうにかして大会に出てきそうなんだよな……」


 まあ、その時はその時だ。

 ひとまずこれで、レオーネの処罰は済んだ。


「さて。色々ありましたが、仕切り直して、皆で楽しく過ごしましょう? ディオ様とテトラの活躍をねぎらいたいですし」


 トリアがそんな、魅力的な提案をしてくれた。

 

 男と煩わしい駆け引きをするより、美少女に癒やされたい。

 そう思っていたら。


「失礼します。ああ、ディオ! 良かった、無事だったのね」

「母上……!?」

「ええ、お母さんが来ましたよ」


 俺は執務室に入ってきた母上に抱きしめられた。


「む……それはわたくしがしたかったのに……」


 横からトリアのそんな声が聞こえてきた。

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