第31話 師匠は愛弟子のためには貴重な品を惜しまない
捕まえた男の尋問を行うにあたって、トリアとリサリーには引き続き離れた場所にいてもらうことにした。
テトラにはその護衛という名目で、二人の近くに行ってもらった。
というわけで俺の周りにはミアと捕まえた男だけだ。
古びた服を着た、よくいる平民といった身なりだ。
現在は縛られて地面に転がされている。
「実は魔界から自白剤を仕入れてきたんだ」
「準備がいいね?」
「これ以上、捕まえた相手から情報を得る機会を逃したくなかったからな。いきなり使うことになるとは思わなかったが」
ミアなりに対策を打ったってことか。
「でも、魔界にそういう薬があるなんて知らなかったよ」
自白剤なんて、原作には登場しなかった。
「無理もない。これは再現不能な古代の超魔法によって創られた、魔王の宝物庫に三つだけ納められている品だからな」
やはりこの世界には俺の知らないことも多い。
「……そんなに貴重な品を今こいつに使っていいの?」
「この男は私の大切なディオに危害を加えようとしたんだぞ?」
何を言っているんだ、という顔をされた。
「まあ、そうだけど」
「それにこうした事件は、これが初めてではない。だからこそこいつが何者なのか、以前の暗殺者や他の連中と関わりがあるのか……知っていることは徹底的に吐かせなければ」
ミアの目が据わっている。
ちょっと怖い。
「何度も命を狙われたら不安になるのも無理はない。安心するんだ、ディオのことは私が必ず守るからな」
「はは、頼もしいよ」
ミアに頭を撫でられた。
でもビビっているのは師匠の圧のせいです。
「だから私は、ディオのためなら出し惜しみは一切しないんだ」
ミアは捕らえた男に自白剤を飲ませた。
「レオーネとやらに魔物の卵を渡したのはお前か?」
「そうだ」
男はハッキリと答える。
「なぜだ? レオーネ自身を陥れたいのか?」
「違う。あの子供は荷物を運ばせるのに都合が良かっただけだ」
「……何が目的だ。そもそもお前は何者だ?」
ミアの問いに対し、男は自信に満ちた笑みを浮かべた。
「我らは天使教! 天使様の信仰を復活させるために我らは存在する!」
「天使教……確か百年前までは、人間界で広く信仰されていた宗教だったな」
「へえ。じゃあこいつはその信者か……」
天使教の存在は、人間界のほとんどの者から忘れ去られている。
だから俺は相づちを打って話を合わせておいたが、その名前は原作の中で見たことがある。
だけど、物語に直接的に絡んでくる存在じゃなかった。
「だが天使教を復活など、どのようにして?」
「罪深き悪魔と、信仰を忘れた人間どもを駆逐する!」
やたら物騒な話だ。
「それでなぜ、ディオを狙う?」
「ウィンターソン家は信仰にあだなす存在だ! そして、悪魔を陥れるために利用できる!」
「お前の言う悪魔とは、私たち悪魔族のことか?」
「はっ、そうだ! 汚れた下界の蛮族め!」
問いを重ねるミアに、男は吐き捨てる。
どうやら自白剤は、聞いてもいない本音まで口にしてしまうらしい。
それにしても……悪魔族と悪魔って、呼び方以外に何か違うのか?
「ふん。だがディオを暗殺するだけでは足りないだろう。最終的にはどうやって悪魔族と人間を駆逐しようというのだ」
「……」
ミアは尋問を続けるが、男は急に押し黙った。
「末端であれば、詳しいことは知らないか……他に知っていることがあれば話せ。お前の仲間は?」
「……」
男はまた、答えない。
「白装束の男について、何か知っているか?」
「あいつは……あいつはははははがががぎっぎい!?」
男は何かを言おうとしたが、その途端に壊れた音のような何かを口から発しつつ、地面をのたうち回った。
「何が!? おい、知っていることを言え!」
「あああああ……あ?」
男の全身から、急に力が抜ける。
「死んだ……どうやら禁言の魔法がかかっていたようだ」
「前に地下で遭遇した、白装束の男の情報について話せないようにされていたってこと?」
「ああ。その状況で自白剤を使ったら……こうなるらしい」
自白剤と禁言の魔法。
相反する二つが同時に作用した。
「でも、以前よりは情報を得られたね」
「ああ。しかし、天使教が関わっているのか……」
ミアは口元に手を当てて、何か考えている。
——ウィンターソン家は信仰にあだなす存在だ! 何より、悪魔を陥れるために利用できる!
利用。
男のその言葉が、原作や前世のディオと重なった。
何はともあれ一段落だ。
「あとはレオーネにも話を聞かないとな」
あいつはタダじゃ済まなそうだ。
卵を俺に押しつけて逃げた。
俺はテトラと協力して翼竜を撃退できたが、騎士たちは少なくとも重傷だ。
お咎め無しとはいかないだろう。
「どうなるかは父上次第だな」
楽しい外出のはずが、とんでもない事件に巻き込まれてしまった。




