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第29話 楽しいひとときは悪ガキのせいで終わる

 やってきたのはウィンターホルムの外れにある丘だ。

 付近に住む領民にとっては名所のように扱われている場所だが、今日は人がいない。


 実質的に、貸し切り状態だ。


「広くて気持ちのいい場所ね!」


 テトラは馬車を降りた途端、駆け出した。

 さっきまで不満げだったのに楽しそうだ。


「テトラったら、なんだかんだで楽しそうですね」

「ただ馬車よりも外の方が落ち着くだけ!」


 俺と同じ感想を抱いたトリアに、テトラは反論した。

 狭い馬車から出て解放感を得ているらしい。




 というわけで大きな布を敷いて、景色を見つつ食事だ。

 リサリーお手製のサンドイッチと飲み物をいただく。


「北部もすっかり春になってきたね」

「でも、まだ少し寒いです」

「そうかな? けっこう暖かくなってきたと思うけど」

「いえ、寒いです。あたためてください?」


 トリアがここぞとばかりに寄り添ってきた。


「まるで本当の婚約者みたいだ……」

「おかしなことを言うんですね。本当に、婚約者ですよ?」


 そこはかとなく、圧を感じる。


「そうだった……」

「実感がわかなくても仕方ないです。初めの一年はほとんど交流もなく、もったいない時間を過ごしてしまいました……」

「俺のせいでごめんね」

「いえ、とんでもありません。これから一緒に、たくさんの時間を過ごしていきましょうね。わたくしたちだけでなく、みんなで」


 トリアはお茶を飲みつつ、遠くに目を向ける。


「つまらない!」


 と言っていたテトラは食事をそこそこに、原っぱでリサリーと一緒に遊んでいた。

 二人でかけっこしている。


「さあ追いついてみなさいリサリー!」

「ま、待ってくださいー!」


 テトラは未来の勇者で、今も鍛えている。

 リサリーも元気っ子で体力があるから、意外といい勝負だ。


「リサリーは誰とでも仲良くなれてすごいな……」


 和みながら二人の様子を眺めていたその時。


「よう、ディオ。と……トリアもいたのか」


 レオーネ・フロストウェル。

 俺を蹴落として次の公爵を狙おうと目論む親戚の少年がふらっと現れた。

 やけに大きな布袋を持っている。


「何でお前がここに……」

「お前はバカで無能だから知らないかもしれないけど、馬車には家紋が描かれてるんだ」

「ウィンターソン家の馬車を見かけたから、ちょっと様子を見に来たってことか……」


 そんな友人みたいな仲だったか、俺たち。


「一体何の用でしょう。今、婚約者どうしで大事な時間を過ごしているのですが」


 そう言うトリアの顔からは笑顔が消えていた。

 ものすごく機嫌が悪そうだが、レオーネは気にしていない。

 というか気づいてないなこれ。


「実はいいものを手に入れたんだ。本当はディオに自慢してから渡そうと思っていたけど……ちょうどいい。トリアに贈り物があるんだ」

「はい? わたくしは貴方から何かをいただくつもりはありません」


 レオーネは「へっ」と照れくさそうに鼻を擦っているが、トリアは塩対応だ。


「そう言うなって、ほら」


 レオーネが布袋から取り出したのは、巨大な卵。


「それ……なんだ?」

「魔物の卵だ! すごく貴重な品なんだぜ? お前みたいな無能じゃ絶対手に入れられないだろうなあ」

「待てよ。魔物の卵って……」


 嫌な予感がする。

 その時、遊んでいたリサリーが走り寄ってきた。


「ディオ様、何やら危険な匂いがします!」

「危険な匂い?」

「姉さん、気をつけて! 空から魔物よ!」


 テトラも剣を抜きながら戻ってきた。


 翼竜が五匹、空からこちらに向かって飛来している。


「まさか、この卵はあの翼竜のものでは……」

「そう言えば魔物って、卵を奪われたら死力を尽くして奪い返しにくる生き物だったな……!」


 原作で魔物の卵を盗んで手痛い目に遭う盗賊の話があった。


「え、なんだよそれ……!」


 レオーネは知らなかったらしい。


「お前、その卵をどうしたんだ」

「お、オレはもらっただけで、別にあいつらから奪ったりはしてねーよ!」


 嘘は言っていないだろう。

 レオーネが魔物の巣から卵を盗めるとは思えない。


「向こうはそう思ってないみたいだけどな!」

「し、知るか! ほら、これはお前にやるよ!」

「は?」


 レオーネは卵を押しつけてきた。

 落として割ったりしたら何が起きるか分からないので、つい受け取ってしまう。


「これでその卵はお前の物だから、後はなんとかしろよ!」

「おい!」


 レオーネは走って逃げ出した。


「とんだ悪ガキだな……!」


 追う間もなく、翼竜が襲来する。


「ディオ様、お下がりください!」


 護衛として同行していた二名の騎士が駆けつけた。

 

 人間よりも体長の大きい翼竜が、飛び回りながら交互に襲ってくる。

 騎士たちは剣で何度も斬って、どうにか一匹仕留めるが。


 善戦虚しく、騎士たちは空に引っ張り上げられて放り捨てられ、動かなくなった。


 翼竜の目的は卵。

 テトラであれば、自分の身を守る程度は問題ないだろう。

 しかし近くにはトリアやリサリーもいる。


「こっちだ!」


 俺は卵を持ってその場から走り出し、翼竜を引きつける。


 どうして平和に暮らしたいだけなのに、こんな目に遭わないといけないんだ。


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