第28話 女勇者は姉の婚約者が気に入らない
トリアたちと馬車で出かけることになった。
目的地はウィンターホルムの外れにある丘だ。
小高く開けていて眺めが良く、ウィンターホルムの住民もよく訪れる場所だ。
四人がけで向き合って座る馬車の中。
「あっ……やはり馬車は揺れますね? ディオ様」
「そうかな?」
俺の隣には、トリアが座っていた。
新調したであろうパステルブルーのドレスに、白くて大きめの帽子を被っている。
似合っていると褒めてからずっと、トリアの距離が近い。
「ディオ様は鍛えている平気かもしれませんが、わたくしのようなかよわい女の子には大変です」
「そう言われてみれば、そうなのかもな?」
話を合わせているが、正直ほとんど揺れていない。
公爵家の馬車は快適だ。
「はい、そうなんです。ですから……こうして寄り添って、支え合いましょう」
「これで楽になるならいいけど……」
トリアがぴたりと体をくっつけてきたので、俺は受け入れた。
「トリア様、いいなー」
向かいに座るリサリーがうらやましがっていた。
当然ながら、今は耳と尻尾は隠している。
「ところで、リサリーも一緒で良かったの?」
「もちろんです。未来の女主人として、リサリーさんとは良好な関係を築きたいですからね」
「私もトリア様と仲良くしたいです!」
二人はすっかり打ち解けていた。
が、リサリーの隣でため息をつく人物がいた。
「……最近、姉さんの様子がおかしい」
不満げなテトラが、足を組んで座っている。
腰には剣を携えていて、身軽な格好だ。
トリアの護衛を称してついてきた。
「こら、テトラ。お行儀が悪いですよ」
「厳しいところはいつも通りなんだから……」
テトラは渋々といった調子で姉の言うことを聞くが、ちょっと嬉しそうだ。
確かによくいるご令嬢って雰囲気ではないな。
「何? アンタだって剣を持ってるくせに、女の私が剣を振るのには文句あるの?」
俺も今日は剣を携えている。
「珍しい……だからこそかっこいいと思うよ。自分の目標に全力な女の子の方が素敵だと思う」
トリアが勉強したがることすら奇異の目で見られる世界だ。
女の子の剣士なんて、もっと少ない。
「そうかな……? って! おだてたって無駄だからねっ」
テトラは腕を組みながら、目を逸らした。
「すみませんディオ様。テトラはこう見えて素直ないい子なのですが……おてんばだからわたくしも困っているんです」
「別におてんばでもいいでしょ? 同い年で私より強い人なんていないし!」
「強いのとおてんばなのは別問題です! ウィンターソン家の騎士の皆さんは、もっと礼儀正しいでしょう? テトラもお淑やかにならないと」
馬車の外で護衛として同行する騎士たちは、力強さを感じるが荒っぽい雰囲気はない。
剣術だけでなく礼儀の面でも、徹底的に指導されているからだ。
「……はーい。でも」
テトラは見本を示されて納得しつつも、トリアを見て。
「その男にくっついてる姉さんもお淑やかじゃない気がする」
「あら?」
指摘されたトリアが、俺の方を見た。
確かにお嬢様にしては攻めたアプローチというか。
トリアは自分のやりたいことのために、婚約者としての地位を固めようとしているみたいだ。
(だけど、本当にこれでトリアは幸せなのか……?)
多少は俺の印象がマシになったみたいだけど、これは無理強いされた婚約だ。
どうにかトリアがやりたい学問を続けつつ、婚約を解消してあげられる方法はないかな……?
「ディオ様はわたくしの婚約者ですから問題ありません。何より、ディオ様も悪い気はしないでしょう?」
「正直に言うと……うん」
まずいな、かわいすぎる。
こんな調子で微笑みかけられたら、自分本位でこのまま婚約を押し進めたくなってしまう。
「ふんっ! さいてー。鼻の下伸ばしちゃって……」
テトラが俺を睨み付けてきた。
そんなに鼻の下伸びてたのか、俺。
(やっぱりこのまま婚約を進めようとしたら、破滅の道を一直線だ……)
話している間に、馬車が止まる。
目的地に到着した。
さて。
平和なピクニックを実現するために。
そして今はまだ俺の婚約者である人の、幸せのために。
俺にできることをしよう。




