第26話 婚約者の本音(トリア視点)
SIDE トリア
わたくし、トリア・ハルシオンは、北部の盟主ウィンターソン家の後継者であるディオ・ウィンターソン様の婚約者です。
婚約に至った経緯は……なかなか酷いものでしたが、詳細は割愛しましょう。
わたくしは今、ウィンターホルムにあるハルシオン家のタウンハウスに滞在しています。
夜、寝室にて。
わたくしは鏡を見つめていました。
「ディオ様は、すっかり変わられましたね……」
一ヶ月北部を不在にしていた間に、見た目も性格も別人のようになっていました。
以前は無視するか、気まぐれでわたくしの髪や体を触ったり舐めたりしてきた程度だったのに。
「いつの間にか……すごく、優秀な方になってしまいました」
最近はウィンターソン家の後継者としての才覚を、文武の両面で表し始めているそうです。
噂通り無能な方でしたら、わたくしのかわいらしい容姿でうまく誑し込んで実権を握ってしまうつもりでしたが……どうやらその未来が訪れることはなさそうです。
ディオ様はやればできる子、だったのでしょうか。
「しかも、ただ優秀なだけでなく、独自の価値観もお持ちで……」
男女問わず、望むならやってみるべき。
わたくしがウィンターソン公爵家でやりたいと思っていた学問を学べるようになったのは、ディオ様のおかげです。
「……ディオ様」
その名前が漏れ出した時に、わたくしは自分の口元が自然と緩んでいることに気づきました。
「耐え忍ぶ婚姻関係になりそうだ、と先行きが不安なこともありましたが……今は全く違う気持ちです」
今のディオ様となら、仲良くなれそうです。
そして、このまま良好な関係を築いていくことができれば、将来は素敵な夫婦になれたりして。
でもそのためには。
「テトラにも、ディオ様と仲良くなってほしいですね……」
まずは双子の片割れであり、大切な妹。
やはり家族には、将来の旦那様とも仲良くなってもらうのが理想です。
テトラは以前までのディオ様のことしか知らないので、ハッキリ言って抱いている印象は最悪でしょう。
でも、きっと今のディオ様の成長ぶりを見たら、テトラも分かってくれるはずです。
「ディオ様と剣術の訓練を一緒にする、なんて良さそうですね」
テトラは少女ながら剣術の天才です。
ディオ様も、剣術の才能があると聞きます。
他にもわたくしとディオ様の将来のために、どうにかするべき人間関係があります。
「ミア様は、実に危険です……!」
あの方は間違いなく、ディオ様に好意を抱いています。
わたくしのディオ様なのに……!
「……わたくしの?」
なんだかまるで、ディオ様のことが好きみたいな言い方では。
「い、いえ。気持ちに関係なく、婚約している以上は当然わたくしのものですよね……!?」
わたくしはそう、自分に言い聞かせます。
そして、次はリサリーさん。
「あの子もディオ様のことがお好きに見えましたが……きっと無自覚ですね」
そんなところがかわいいとは思います。
わたくしにも懐いてくれますし。
将来は、わたくしのメイドになってくれるのでしょうか?
リサリーさんの「お泊まりする時はディオ様の隣の部屋を支度しておきます」というのも素敵な提案でした。
公爵家の屋敷はハルシオンの領地にある本家や、ウィンターホルムのタウンハウスより遥かに大きくて豪華です。
一度はあそこに泊まってみたいというもの。
というか。
むしろタウンハウスなんてものを持っているから、お泊まりできずにここから通うことになるのでは?
「ハルシオン家はあまり裕福ではないですし、お父様にこの家を売るよう提案してみましょうか……?」
そんな考えが頭をよぎって、わたくしはすぐに思い直しました。
このタウンハウスだって、由緒ある建物です。
軽々と売り払うことを検討するなんて、わたくしったら。
そもそも、ウィンターソン家の屋敷に泊まりたいなんて、今までは考えたこともありませんでした。
「ああ。早く、明日の朝になってくれないでしょうか……」
明日はディオと一緒に、屋敷の外にお出かけする予定があります。
「新しく買った帽子を被っていくのも良いですね……ディオ様、気に入ってくれるでしょうか? ふふ」
あくまでも、まだ婚約者どうし。
この先、わたくしたちがどうなるかは分からない。
だけど。
先程から胸の高鳴りが収まらないのは、どうしてでしょう。
「ディオ様、早くお会いしたいです……」
熱に浮かされるような、これまでの人生で初めての感覚。
でも不思議と、心地良い気分です。




