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第20話 師匠と専属メイドに挟まれる朝

 窓の外から、ミアが訪ねてきた。


「ミア、急にどうしたの? こんな時間に、しかも窓から……」

「その、ちょっとな。ディオと話したい気分だったんだ」


 ミアは特に案内もしていないのに、当たり前のようにベッドに座った。

 居所に困っていたら、隣を手で促されたので、据わる。 


 自分より少し年上の、寝間着の女の子。


(ミアって着痩せするタイプだったのか)


 第一印象は、それだった。

 うん、実にエロガキモブらしい思考回路だ。


「人間界に、私と敵対する魔界の勢力が入り込んでいるようだ」


 ミアはおもむろに、語り始めた。

 真面目な話だ。


 あれ?

 というかこの話って、聞いていいんだろうか。

 ミアの正体に関わる内容なんじゃ。


「えーっと……私と敵対する勢力って?」


 俺は言葉を選ぼうとして……あ。

 この聞き方だと、まずいかもな。


「ディオには、私の正体を打ち明けておきたいんだ」


 ミアは小さく笑みを浮かべて。

 意を決したように一つうなずいてから、続けた。


「ミアの、正体……?」

「ああ。もちろん、聞かないこともできるが……どうする?」


 俺は知っている。

 だから知らないように振る舞っていた。

 この物語に、致命的な破綻を生む可能性があったからだ。


 原作では絶対に知り得ない情報。

 だけど、もう既に原作とは違う出来事が、数多く起きている。

 ミアとの関係も、大きく異なっている。


「聞かせてよ。ミアが本当は、何者なのか」


 今なら。

 きっと、今の俺なら。

 真の意味で、ミアと向き合うことができるはずだ。


「私は魔界の頂点に立つ存在。魔王の後継者だ」


 魔王ミア。

 原作のラスボスが、正体を明かした。


「そう、なんだ……」

「うん? 意外と驚かないんだな? もしかしてこちらでは、魔王の知名度は低いのか……?」


 密かに知っていた真実を改めて告げられた時、どんな反応をしたらいいか。

 分からなかったから、リアクションが薄くなってしまった。


「もちろん驚きはしたけど、その……ある意味納得したって言えばいいのかな。ミアの強さの秘訣とかに」

「ああ、そういうことか」


 俺の答えに、ミアは違和感を持たなかった。


「このことは、父上も知っているの?」

「ああ。この家に滞在させてもらう際に、伝えてあった」


 それは驚きだ。

 父上はミアの素性を全て知った上で、ウィンターソン家で暮らすことを受け入れていたのか。


「同時に公爵は忠告をしておいた。北部の守護者であるウィンターソン家は、魔界の敵対勢力から特に目をつけられているらしい……とな」

「ミアは魔王なのに、敵がいるの?」


 この辺りは、原作でも描かれていない情報だ。

 ミアの正体を知った今、この先破滅を回避するためにも、聞いておきたい。


「ああ。魔界は一枚岩ではないんだ。人間界に対して、穏健派と主戦派で割れている」

「ちなみにミアは……人間と、仲良くなりたいと思ってくれてる側の人?」


 今のミアと接していたら、どちらか察しがつく。

 だけど原作の魔王は、人間界を滅ぼすために攻め込んでくる。


「ああ。人間と友好的な関係を結びたいと思っているからこそ、今ここにいる」

「そうだよね……安心したよ」

「ああ、安心しろ。私は常にディオの味方だ」


 俺はほっと胸をなで下ろす。

 ミアが正体を明かしてなお、味方でいてくれる。

 誰よりも頼もしい存在だ。


「あ、でも。もし人間界に攻め入りたい連中が魔界にいるなら、北部の守護者であるウィンターソン家は真っ先に攻略すべき対象だよね」

「ああ。だからこそ、ディオに伝えたいことがあるんだがな……?」


 部屋が暗いからハッキリとは見えないが。

 そう言う師匠の耳が、赤くなっている気がする。


「伝えたいことって?」

「ディオにはこの前、私の故郷で……悪魔族にとって、口づけがどういう意味を持つか話したよな?」

「う、うん」

 

 ミアは言っていた。

 口づけで魔力を流し込む行為は、結婚の誓いを立てるのと同義だと。

 その話を改めて持ち出してくるって、まさか。


「なあ、ディオ。私と、正式に婚約を結んでくれないか……?」

「こ、婚約……俺と、ミアが?」

「ああ。ディオと口づけをしたせいなのか、あの出来事が誓約となって、悪魔族としての本能が叫んでいるのかは分からないが……こっそり魔界にお持ち帰りしたくて堪らないんだ」


 ミアは俺の方に向き直って、頬に手で触れてくる。

 俺の体が反射的に、少し跳ねてしまう。


「お持ち帰りって……いやでも」


 まさか連れ去りにきたわけじゃないよな……?

 俺がドキドキしていると。


「ああ。さすがに断りもなく魔界に連れて帰るのはダメだ。やっていることがあの龍人族と変わらないからな」

「そ、そうだよね」


 ミアが良識のある女の子で良かった。


「しかし私は遠くないうちに魔界に帰る身。だからその前に正式な手続きを踏んでおいて、遠くない未来に迎え入れたい……と思っている」

「あー、えっと。魔王とウィンターソン家の次期公爵が結ばれたら、魔界と人間界の友好と平和が近づく……みたいな?」


 俺はなるべく論理的な解釈をしようとした。

 が、ミアは首を横に振った。


「私も友好と平和は望んでいる。だがそうした政治的な理由は建前に過ぎない」

「じゃあ、本音は?」

「ただただ、ずっとディオの近くにいて、教え導いてあげたいんだ」


 熱っぽい眼差しで、じっと見つめられる。

 ミアの顔が、少しずつ近づいているのは、気のせいじゃない。


 夜の寝室。

 暗がりのベッドの上で、二人きり。

 おまけに原作はエロゲーだ。

 これは色々と、まずいのでは。


「念のため聞いておきたいのだが……ディオには実は婚約者がいたりなんて——」


 ミアが何かを俺に聞こうとした時。

 

 開いていた窓から、いきなり誰かが入ってきた。

 知らない人物だ。

 目以外のほとんどが覆われた黒ずくめの服装で、手には刃物を持っている。

 まるで……というか確実に暗殺者だ。


「よくも、良いところで邪魔をしてくれたな……?」


 ミアは鋭い殺気を、暗殺者に向けた。

 ものすごく、機嫌が悪そうだ。


「一体誰が狙いだ……ってまさか」


 ここは俺の部屋だ。

 つまり当然、狙いは俺だ。


「……!」


 暗殺者にとって、俺が起きていることもミアがいることも想定外だったらしい。

 目を見開いて一瞬、驚きを見せつつも。

 その後は躊躇なく刃物を俺に投げつけてきた。

 が、その刃は即座にミアが空間魔法で取り出した剣によって叩き落とされた。


「私の大切なディオに刃を向けるとは……! 覚悟はできているのだろうな」


 その言葉と同時に、ミアは動き出す。

 失敗を悟って逃亡を図る暗殺者の動きを、触れることなく止めて剣で切り捨てた。


 大事な話の途中で乱入されてご立腹なミアによって、暗殺者は返り討ちに遭った。




 その後、部屋に騎士が駆けつけたことによって、俺とミアが夜中に同じ部屋で過ごしていたのを目撃されたが……この際、それはまあいい。


 問題は、裏でもう一つ事件が起きていたことだ。

 ゴドリーが牢獄で、何者かに殺されていた。

 騒動に乗じて、牢の警備が手薄になって隙を狙ったらしい。


 ゴドリーから情報は得られなかったが、公爵家外部の何者かと通じていた可能性があり、口封じされた可能性があるとのことだ。


 ——人間界に、私と敵対する魔界の勢力が入り込んでいる。


 それはウィンターソン家の内側も例外ではないと、ミアや父上は考えているようだ。

 

 ゴドリーもその疑惑があったらしいが……この調子だと。

 調査によってゴドリーがウィンターソン家で犯した不正の証拠が出てきても、魔界との繋がりを示す何かは出てこないだろう。


 暗殺者に関しても、いつの間にか死体が消えていた。


 深夜。

 寝ぼけ眼で、そんな報告を受けた後。


 俺はミアの客室にいた。


「ゴドリーが殺されて、暗殺者の死体も消えていたなんて妙な話だね。また何も分からないまま終わりそうだ……」

「ああ。やはりディオは私が近くで守らなくては……」

「だからって、くっついて一緒に寝る必要はないかもね?」


 そう。

 俺はミアのベッドで、抱きしめられながら同衾していた。


「何を言うんだ。先程も寝室で襲われたばかりだろう? 寝ている間にまた何かあったらどうする」


 そう言いつつ、ミアは俺の顔面を胸の谷間に埋めてくる。

 薄い寝間着のせいで、柔らかい感触が分かりやすい。

 

(ああ、だめだ……ものすごく心地が良い……)


 ただでさえ色々あって疲れていて、夜も遅い。

 こんな柔らかな温もりに包まれてしまったら、迫り来る眠気に抗えない。


 その日、俺はミアの部屋で一緒に寝た。

 念のため補足しておくが、原作がエロゲーだからって何かそういうイベントがあったわけじゃない。

 添い寝だけだ。




 そんな言い訳を口にしたのは、翌朝。

 俺の居場所が仕事場だからと、ミアの部屋にやってきたリサリーに対してだった。

 だが、気になるのは。


「……リサリーはどうして俺の隣で寝てるの?」


 右にリサリー左にミア。

 両手に花。

 美少女に挟まれた状態で、俺は目覚めた。


「昨日はディオ様に合わせていつもより遅くまで起きていたので、まだ眠かったのかもしれませんね……」

「そうなんだ、お疲れ様……?」


 目を擦りながら返事をするリサリーを、俺はとりあえずねぎらう。


「決して、ディオ様がミアさんと仲良くしていたから対抗してみたわけではありませんからね……?」


 ミアと添い寝していたから対抗心を燃やしたらしい。

 リサリーと話していると、ミアが目を覚ました。


「む? ディオのメイドか……確か、リサリーだったな」

「はい! おはようございます!」


 リサリーは今日も元気にぎゅーっとくっついてきた。


「ずいぶんかわいらしい子だが、メイドが務めを果たさずに主人と同じベッドで寝るというのはどうなんだ?」


 ミアもまた、逆側に引き寄せるようにして、俺を抱きしめた。


「むむ……私はディオ様の専属メイドだからいいんです! ミアさんこそ、ディオ様とどのような関係なんですか?」

「私とディオは師弟の関係であり、特別な絆で結ばれている」


 頬を膨れさせるリサリーに、ミアはすまし顔で返す。

 二人は対照的な表情だが、行動は同じ。 

 俺は両側から、強く抱きしめられる。

 美少女に挟まれて、もう訳が分からない。

 

「ディオ様は私とミアさん、どっちにぎゅーってされるのが好きですか!?」

「もちろんディオは私を選ぶよな? リサリーは確かにかわいらしいが、私の方が大人の魅力がある」

「わ、私だって数年後にはきっと、もっと立派でもっとかわいく成長するに決まってます!」


 なんだろう。 

 悪役モブのはずなのに、ハーレム主人公みたいな扱いになってきた。

 まあ……これはこれで平和だし、幸せだ。


 だけど……もしこれ以上女の子が増えたりでもした日には、一転して死亡フラグが立ってしまいそうだ。

 そんなことを、脈絡もなく考えてしまう理由。


(やっぱり何か、ディオに関して忘れていることがある気がするんだよなあ……)


 しかも、女の子絡みで。


(まあ、思い出した時に考えたらいいか)


 そうして俺は、楽観的に結論づけた。


ここまで読んでいただきありがとうございます!

次回以降も面白い話を書いていくのでぜひ評価とブクマをお願いします!

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