第15話 悪役教師は解任されて、師匠との平和なひとときを満喫する
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翌朝。
ウィンターソン公爵夫妻は帰ってきて早々に、近隣の貴族との情報交換のために出かけてしまった。
しかし父上は約束を守る人だ。
俺の教師を手配しておいてくれた。
魔法は引き続きミア。
剣術はウィンターソン家の騎士団長。
座学は父上が公爵家の外部から早速呼び寄せてくれた。
教師を解任されたことについてゴドリーが不服を唱えないか、気になったが。
父上いわく「心配不要」とのことだった。
○
午前。
まずは座学の授業だ。
以前までと同様に、図書室で行ってくれる。
新しくやってきたのは、オルクス先生。
父上と同じ年で、学生時代の友人とのことだ。
ちょうどウィンターホルムの近くに立ち寄っていたらしい。
「ディオ君には驚かされました……」
オルクス先生は俺のことをディオ君と呼ぶ。
ゴドリーのようなろくでもない大人と違い、侮っている様子はない。
詳しい素性は知らないけど、単に俺より身分が上なのかもしれない。
「このレベルの問題を簡単に解いてしまうとは、想像以上です」
オルクス先生は俺の学習能力を把握するために、まず小テストを課した。
解いてみたところ、割とあっさり解けた。
「この問題って難しいの?」
「ディオ君と同年代の子供にとっては、そうですね。この問題は王立高等学園の入試問題です」
「ってことは……十五歳レベル?」
「そういうことになりますね」
この世界にも学校が存在する。
日本で言うところの高校のような場所だ。
先程受けたテストは、現代日本風に表現するなら高校入試の過去問ってところだろう。
日本人として生きていた頃にはそこそこの大学には行っていたので、この程度なら余裕だ。
「俺、先生の授業についていけそうかな」
「ええ。これだけの学力があれば、問題ないでしょう。ではまずは公爵家の歴史について——」
オルクス先生が、授業を始めようとしたその時。
「待っていただきたい!」
ゴドリーが図書室にはふさわしくない声を張り上げながら、乗り込んできた。
「どなたか知りませんが……ウィンターソン家に仕えている方ですか?」
「私はウィンターソン家一の忠臣にしてディオ様の教師を任されている、ゴドリーだ」
一家臣でありながら大仰に振る舞うゴドリーに対して、オルクス先生はあくまで冷静に振る舞った。
「ああ。前任者の方でしたか……」
「前任とはなんだ。私は交代を認めるつもりはない!」
「重要なのは貴方の考えではなく、公爵の決定とディオ君自身の意志です」
オルクス先生は淡々と言葉を返す。
するとゴドリーは俺の方に目を向けた。
「ディオ様。この者は貴方を自分の都合の良いように操るために、洗脳教育をしようとしています! 直ちに追い出しましょう!」
それはお前だろう。
というか、未だに俺をそんなアホみたいな言葉で丸め込めると思っているのか。
「授業の邪魔だから出て行ってくれ」
俺はため息交じりに告げた。
「な……!?」
「そういうことですので、お引き取りください」
オルクス先生が、ゴドリーを扉の方へ促した。
「公爵家には、私の手勢も多い……!」
ゴドリーが何やらオルクス先生を脅していたが。
「それは私の授業に関わりのないことです。さあ、どうぞ」
「チッ……必ず後悔するぞ!」
毅然とした態度で応じるオルクス先生に、ゴドリーは捨て台詞を吐いて出て行った。
(心配ないって、こういうことか……)
依然として、家中でのゴドリーの影響力は強い。
もし新たな先生が公爵家の人間だったら、同じように対処できなかったかもしれない。
しかしオルクス先生は父上の学生時代の友人。
外部の人間だ。
つまり、公爵家の中のしがらみには縛られない。
父上は、ゴドリーに何かを言われても動じない優秀な先生を、即日手配してくれた。
この先の授業が楽しみだ。
○
昼。
俺はミアと二人で、屋敷の庭園で食事をしている。
これまで、ゴドリーの授業をサボって外で訓練していたから、屋敷の中でコミュニケーションを取ることは少なかった。
しかしあの悪徳教師から解放された今、堂々と二人で過ごせる。
「それで、新しい先生の授業はどうだった?」
「今日はテストをして、その後公爵家の歴史について学んだよ」
「そうか。ディオは頑張っていて偉いな」
ミアは優しく褒めてくれた。
複数回の人生を生きてきたはずなのに、お姉さんから子供扱いされたら、ちゃんと照れる。
「午後からは剣の訓練をするんだ」
俺はさらに頑張る予定があると、子供らしくミアにアピールした。
「そうか。ディオは魔法の才能に溢れているし、きっと剣も天才なんだろうなあ」
ミアはずっと、にこにこと笑みを浮かべて俺の話を聞いてくれる。
「でも、剣と魔法は別物なんじゃ?」
「ディオは戦闘のセンスがいいからな。その点は剣術にも活きるはずだ」
「そうだといいけど……」
この世界で最強の存在が言ってくれるなら、間違ってはいないだろう。
「ディオを見ていると本当に将来が楽しみだ」
「期待に応えられるよう、訓練あるのみだね」
俺はミアの前で、気合いを入れてみる。
「ああ。応援しているが、同時に寂しくもあるな……」
「え?」
「だって、私と一緒に魔法の訓練をする時間が減ってしまうだろう……?」
ミアはしゅんと肩を落とした。
(キスをして以来、師匠がかわいすぎる……)
俺を見てくる目が、明らかに変わった。
屋敷の人間が怠惰だと思っていた俺を評価するようになったのとは、また別の変化だ。
(俺のことが好き……とまで断言するのは思い上がりかもしれないけど、間違いなく意識はしてるよな)
話していない時も見つめられていると感じることがある。
それで目が合うと、慌てて逸らされたりもするし。
俺はそんなミアに、本音を伝えた。
「俺は師匠と魔法の練習する時間が一番大切だよ」
「そ、そうか?」
ミアは銀髪を指でくるくるといじっている。
あからさまに嬉しそうだ……。
「それに、魔法の練習をする時間は減るかもしれないけど、代わりにこうして屋敷で一緒に過ごせるようになったし」
「そうだな。ちゃんと私との穴埋めの時間を用意してくれるなんて、ディオはきっと将来良い旦那様になるな」
ミアがナチュラルにそんな言葉を口にした。
旦那様。
(やっぱりあれはミアにとって婚約扱いなのか……?)
俺はまんまと気を良くした。
いや、待て。
動じるな。
俺はエロガキのディオから更生する必要があるんだ。
(でも、本人が乗り気ならいいのか……?)
別に悪役モブみたいにセクハラしなくても真っ当に恋愛すれば……いいよな。
「どうした、ディオ?」
考え込んでいた俺のことを、ミアは不思議そうに見つめた。
「そ、そうだ。ミアはお昼からどうするの? よかったら、剣の訓練を見に来る?」
俺は動揺を悟られないように話題を変えつつ、ミアを誘ってみることにした。
好いてくれる女の子の前でかっこいいところを見せたいのは、男の性分だ。
「興味はあるが、私は午後から用事があってな。ちょっと屋敷の外に出てくる」
「もしかして、あの孤児院に行くの?」
「そうだな。他にもこの前の事件の後始末がまだ残っている」
俺に対して直接立場を明かしてはいないが、ミアは魔王だ。
あの事件では異種族が拉致されていたし、犯人も魔界の者だった。
裏では俺の想像以上に、後始末に追われているんだろう。
「ミアって本来なら、ここで俺に魔法を教えてる場合じゃないのでは……?」
「ふふっ。弟子が師匠からの指導を遠慮してどうする」
頭を撫でられた。
気にするなってことらしい。
「あー」
このまま美少女の魔王に甘やかされていたら世界が平和になったりしないかな。
そう思いながら、俺はテーブルに置かれたやたら大量の料理に手をつけた。
引き続き、ディオの人間関係に関する重要なことを忘れて。




